魅羽とタマ太はとっても仲良し。
いつも一緒にお散歩するの。
「今日は文化部の部室棟エリアを歩いてみよう」
「ニャーン!(おっぱいは文化!)」
魅羽とタマ太が部室棟の辺りを歩いていると、野球帽を目深に被った小柄な少年(?)に出会いました。
「こんばんは。私、馬術部のミウです」
「ニャーン(む、こいつは……)」
「こっちは三毛猫のタマ太」
「ニャーン(感じる……微かなおっぱいの気配を……)」
「やあ。俺はオカルト研究会の鬼雄戯大会代表だ。訳あって名は明かせない……『野球帽』と呼んでくれ」
だけど、おやおや? なんだか様子がおかしいです。
野球帽さんは部室棟エリアをウロウロするだけで、一向に部室に入っていく様子を見せません。
それもそのはず、オカルト研究会には部室などないのです。
「なるほど、それは困りましたね」
「ニャー……!!(サラシで押さえつけてるわけではない……つまり……貧乳!!)」
「あっ、こんなところに豆乳があるわ!」
魅羽とタマ太は豆乳を取り出すと、それを野球帽さんにも渡して部室棟そばのベンチに腰掛けてみんなで飲みました。
みんなで飲むと豆乳はいっそう美味しいです……何も解決しませんが!
「ごちそうさま。うまかったよ。だが……大会で当たっても手加減はしないぜ!」
野球帽は、赤い唇から歯を覗かせて笑った。
「いえ、私は参加選手じゃないので……」
「へえ?」
心底意外そうに野球帽は言った。
「それじゃあ……腰にぶら下げてる剣は飾りってことか?」
「なんですって!」
魅羽は三色の髪の毛が逆立つかのような剣幕で憤りを顕わにした。
「まだ正騎士の叙勲は受けていない身ですが、そのような侮辱は聞き捨てなりません!」
「おっと悪い。別に侮辱するつもりじゃなかったんだ。戦うためじゃなくてファッションで剣を持ち、安全地帯から仲間の勝利を祈る。そんな騎士道があっても別に俺は否定しねぇよ」
「うーっ! これは正義をなすための剣です!」
「はっ、口先だけの騎士道もアリだと思うぜ?」
野球帽に悪意はない。単に思ったことを率直に言ってるだけだ。
だが、魅羽は激怒した。
「許さない!」
「じゃあ、そいつが飾りじゃないって証拠を見せてみな!」
ついに魅羽は、腰のブロードソードをじゃらりと抜きはなった。
高校生としては小柄な魅羽が構えると、その剣はいかにも無骨で大きかった。
臙脂色の希望崎ジャージの上に羽織りしは、栄えある馬術部の青いサーコート。
五メートルほど離れて対峙する野球帽は、魅羽よりも更に小さく、小学生かと見紛わんばかり。
だが、剣術を学びはじめて日の浅い魅羽は気づくべくもないが、その周囲に纏う空気は武術の達人のそれであった。
身に付けたるは此方もジャージ。改めて見てみると希望崎ジャージではない……部外者であろうか。
「ニャオーッ……!(やめろミウ! お前のかなう相手じゃないっ!)」
タマ太が制止する言葉は魅羽に届かない。
クラックの目立つモルタル塗りの地面を蹴り、魅羽が踏み込んだ!
「っりゃあーっ!」
突進力を乗せた水平大振りのチャージング斬撃!
本来なら騎馬突撃を合わせて更に威力を増すのだが、ブロードソードの質量だけでも相当の破壊力だ!
粗雑な軌道の攻撃だが……野球帽は避けない!
ミシィッ! 野球帽の脇腹に大剣が食い込む!
しかし、不敵に歪む野球帽の赤い唇!
「砕月――」
野球帽の右手が魅羽の喉輪を捉える!
それは尋常ならぬ膂力のなせる業か、技巧によるものか、はたまたその両方か。
魅羽の身体がまるで質量が無いかのように、ふわりと宙に浮いた!
「――無明!」
魅羽の身体が、なされるまま空中で半回転する。
いったい何が起きているのか、本人は理解していないことだろう。
そして野球帽は、魅羽の後頭部をモルタルの大地に優しく叩き付けた。
魅羽が認識したのは一瞬の閃光と、その後に続く無明の闇。
「力も技もからきしだが――気持ちのこもった良い剣だったぜ」
既に意識のない魅羽に、野球帽が語りかけた。
「フーッ! フウーッ!(これ以上ミウに何かしてみろ! 俺が許さないぞ!)」
倒れた魅羽と野球帽の間に、タマ太が割って入り威嚇する。
「おお怖い。心配いらねぇよ、じき目を覚ますさ」
そして野球帽は、不敵な笑みを赤い唇に浮かべながら立ち去った。
「そいつが起きたら伝えてくれるか? また一緒に豆乳を飲もうってな」
第3話に、つづく。