魅羽とタマ太はとっても仲良し。
いつも一緒にお散歩する……はずでしたが。
「ごめんタマ太、やっぱり今日は馬術部でもう少し特訓しようと思うの」
「ニャー(しかたない、付き合うぜ)」
馬舎の前の広場が、馬術部の練習場です。
ウー、ワンワン! 魅羽の姿を見て馬達が吠えますが、魅羽は気にしません。
今はまだ嫌われてるけど、きっといつか仲良くなれると信じてるからです。
それよりも今は、剣術稽古。
強く――なりたい! あの野球帽の人と、ちゃんと戦えるぐらいに!
魅羽は、もうすっかり鬼雄戯大会に参加する気になっていました。
馬術部の先輩達は止めるだろうから、こっそりと自分でエントリーするつもりです。
ぶんっ! ぶうんっ! 気迫のこもった剣が振るわれます。
しかし、その太刀筋はいかにも拙いものでした。
「ニャア」
見かねたタマ太が、言いました。
「ニャーオ!」
そして、馬術部広場を離れて歩いていきます。
少し離れたところで立ち止まり、振り向きます。
どうやら魅羽に付いて来いと言ってるみたいです。
「どうしたのタマ太? やっぱりお散歩?」
「ニャア!」
魅羽には猫の言葉はわかりませんが、タマ太の様子があまりにも真剣なので、特訓は一休みして後に付いてくことにしました。
タマ太はずんずん進んでいきます。
希望崎の森の奥深く、まだ誰も足を踏み入れたことがないのではと思うぐらい奥深く。
藪の中の獣道をずんずん進んでゆくタマ太。
魅羽は藪をかきわけかきわけ、やっとの思いでついて行きます。
やがて、タマ太と魅羽は小さな洞窟の前に辿り着きました。
ここは誰も知らない、タマ太の秘密の隠れ家です。
「ニャー」
タマ太は魅羽にそう告げると、ひとりで洞窟に入っていきました。
人間が入れるサイズの穴ではないので、魅羽は中をのぞき込みがら待ちます。
やがて、洞窟の奥から何かを引きずるような音が聞こえてきました。
ズルリ。ズルリ。
音は、だんだん近づいてきます。
ズルリ。ズルリ。
洞窟の中から現れたタマ太は、古びたスコップをくわえて引きずっていました。
見るからに古いスコップですが、不思議なことに錆ひとつ浮いてなくて綺麗な状態です。
なぜならばこれは、魔法のスコップだからです。
「ニャーン」
タマ太が魅羽を促します。
よく状況が掴めぬまま魅羽はスコップを手に取りました。
「……あっ!」
スコップを触った瞬間、ばちりと静電気に打たれたような衝撃が走りました。
中に溜まっていた魔法エネルギーが、一気に魅羽に流れ込んできたのです。
練習と藪歩きの疲れが、一瞬で吹っ飛びました。
さらに、身体の中からも不思議な力がぐんぐん沸いてくるのがわかります。
魅羽の中に秘められていた魔法少女としての素質が、マジックアイテムに呼応して活性化しているのです。
魅羽は魔法のスコップを高く掲げ、マジカルワードを唱えました。
「狩るにゃん……イクイップメント!!」
スコップからまばゆい光が放たれます!
光の中、何かの気配を感じて魅羽が上を見上げると、そこにはいつの間にか騎士兜が浮かんでいました。
すぽん! 落ちてきた騎士兜が、魅羽の頭にイクイップメント!
サイズはぴったりです。
にょきにょきっ! 兜から光の猫耳がはえます。
ぱきん! 光が弾け、猫耳は兜本体と同じミスリル銀色となって一体化!
おしりにムズムズした感触を覚えて見てみると、青いサーコートを突き抜けて光の尻尾がにゅーっとはえてきました。
ぱきん! 尻尾が伸びきると光が弾け、魅羽の髪と同じ三毛猫カラーに!
最後はスコップです。
魅羽は手にしたスコップを2回転バトントワルしてから、もう一度高く掲げました。
ぎゅうんっ! 魅羽の魂のカタチに呼応して、魔法のスコップが巨大化!
それはスコップと呼ぶにはあまりにも以下略!
魅羽の魔法少女持物『斬馬大円匙』の完成です!
「な……な……なにこれ!? タマ太これどうなってるの!?」
事態が飲み込めず、魅羽はタマ太に問い掛けます。
「ニャー。ニャウニャニャーオ、ニャニャン。ニャーニャニャーウ、ニャオン」
タマ太が詳しく説明します。
たった今、魅羽は魔法少女となったのです。
「うん。なるほどわかんないや」
残念ながら魅羽は動物語がわかるタイプの魔法少女じゃなかったので、さっぱりわかりませんでした。
でも、全身にみなぎる力を感じます……これなら勝てる!
猫耳の騎士・ミケナイトの誕生です!
めでたしめでたし。