《四丁トカレフ触手拳・ヴァーサス・鬼無瀬時限流小太刀三十六刀》
幕末。開祖・初代鬼無瀬秦観が洋式銃に敗れ、右目の光を失ったことが鬼無瀬時限流の始
まりである。泰観は銃の殺傷力を上回るべく抜刀術を磨き上げ、修行の果てに魔人の膂力
を手にし、一撃必殺を超えた一撃虐殺の境地に至ったのだ。1
ゆえに、エアソフトガンを携えた少女が鬼無瀬時限流の道場を訪れ、手合わせを願ってき
たことが失笑を以て受け入れられたのは無理からぬことであろう。実銃に抗するために生
み出された剣術に、玩具の銃で挑むとは。時は平成。泰平の世にあっても鬼無瀬の凶刃に
は曇りなし。2
「娘よ――命の保証はできかねるぞ」道場の師範を務める男は、精一杯の優しさを込めて
言った。男の右目は泰観に傾倒するあまり自ら銃で撃ち抜いたため潰れている。残る左目
に、隠しきれない憤怒の炎が宿る。鬼無瀬時限流を侮辱するのなら、小娘であろうと斬り
捨てるつもりだ。3
「はい。 覚悟はして参りました」 エアソフトガンの少女、夢見花卒羽はハーフトレンチ
コートの懐から二通の封書を取り出した。一通は果たし状。そして、もう一通は……遺書。
ゴーグルの奥の瞳には決意の光。「鬼無瀬時限流と対峙する以上、たとえ命の奪い合いが
目的でなくとも死の危険はあるでしょう」4
なるほど、鬼無瀬時限流を軽んじているわけでも侮辱しているわけでも無いようだ。師範
は卒羽が差し出した果たし状をあらためた。「何ゆえに、門下生の姦観と試合いたいのか
ね?」「それは――」卒羽は二丁トカレフを持った両腕を胸の前で交差させながら説明し
た。5
ゆっくりと。膝下まで伸ばした、卒羽の長い二本の三つ編みが蛇の如く動き出した。二本
の三つ編み触手は蠱惑的に身をくねらせながら、卒羽のロングスカートの中に入ってゆく。
そして、中から更に二丁のトカレフを取り出して、三つ編み触手の先端で構えた。四丁ト
カレフ触手拳! 6
「私の四丁トカレフが、姦観様の三十六刀にどこまで通用するか、試してみたいのです」
「ふむ、鬼無瀬時限流とやりたいのではなく彼と戦ってみたいと言うわけだな」「失礼を
承知で申し上げれば、そうなります」「よいだろう。姦観、相手をしてやりたまえ」「御
意」7
師範の声に応え、姦観が歩み出……いや、転がり出……? まあとにかく、出てきた。人
ならざる剣士。蠢く多数の触手。鬼無瀬姦観は、姦崎家出身の触手生物である。「拙者、
触手の身なれど女子を慰み物にする趣味は持ち合わせぬ。だが、剣士としての指名ならば、
喜んでお受けしよう」8
本来、触手とは女性の身体を陵辱する習性を持つ生物である。しかし姦観は同族たちとは
違った。女性に対して一切興味を持たず、その身体特性を生かして剣の道を歩み、鬼無瀬
時限流への入門を許されたのだ。姦観は三十六振りの小太刀の鞘を払い、三十六本の触手
に構えた。鬼無瀬時限流三十六刀! 9
「戦闘開始……大丈夫。私はやれる!」 卒羽の髪が青く光る! 四丁トカレフから大量の
弾丸が放たれる!「速攻でいきます!」卒羽の能力『夢幻弾装ラブリーガン』によって自
動装填される非実体夢弾丸の弾速は異常に遅いので一発一発を回避するのは容易である。
10
だが数十発の夢弾丸が同時に飛来したら? 卒羽は両手と両髪の四丁トカレフを連射しな
がらじりじりと距離を詰める。狙いは敢えてばらけさせ、面制圧を意識した弾幕を展開す
る! 迫り来る弾幕! 姦観は三十六刀を携えた触手を、塊の中心に引き寄せる。触手と刃
の球体が、ひと回り縮む! 11
姦観が高速回転! 球体が急激に半径を増して巨大化!「鬼無瀬時限流小目録『縛弐幽』」
水平に自転する触手球体! その外縁部には三十六の凶刃! 弾幕と剣戟が交差する!
ガガガガガガ! コンクリートブレーカーの如き連続激突音! 回転小太刀が次々に夢弾丸
を弾く! 12
《四丁トカレフ触手拳・ヴァーサス・鬼無瀬時限流小太刀三十六刀》#1 おわり
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《四丁トカレフ触手拳・ヴァーサス・鬼無瀬時限流小太刀三十六刀》#2
卒羽が能力によって生成した夢弾丸の着弾衝撃は女性の本気パンチ程度。弾速は視認容易
なほどに遅く、中心部に見えるBB弾サイズの核の周囲をソフトボール大の青い光が包み、
光球全体に当たり判定がある。これらの仕様は弾幕による制圧を望む卒羽の理想を反映し
たものだ。1
だが。大きな当たり判定と遅い弾速は『縛弐幽』にとって恰好の餌食。それぞれ感覚器官
を持ち自律行動する触手たちが巧みに軌道を変化させ夢弾丸を撃墜! 放射状に広がる三
十六の回転小太刀が弾幕を吸収してゆく。レイディアント! そして、触手と刃の旋回球
体は卒羽へと近づいてゆく……! 2
「くっ、駄目か……それなら一点突破!」卒羽は面制圧から方針転換。射線を集中させ直
列連射! 両腕と両髪の四丁トカレフから、四条のレーザー光線の如く連なった弾塊が放
たれる! 姦観の小太刀が直列弾隗を受ける! ガガガガガガガガガガ! 刃に連続ヒット
する衝撃! 3
姦観の太刀筋は、手数の多さに反比例して……軽い! 連続銃撃を受けきれず、四本の小
太刀が触手を離れて宙を舞う。 しかし刃の回転球体は止まらない! 残り三十二刀が卒羽
に襲いかかる。クロスレンジ! 卒羽も回転斬撃を受け流す方向に回転! 4
連射銃撃のドローバックを回転力に変えて更に加速する卒羽。致命的な軌道の刃は夢弾丸
の衝撃力で逸らし、手に持つトカレフの銃身で弾き、長い二本の硬質な三つ編み触手で受
け止める! だが、やはり三十二刀と四丁トカレフでは手数が違う。受けきれない! 5
刃が卒羽のトレンチコートとロングスカートを切り裂いてゆく。「くっ……、集中撃ち返
し弾っ!」 旋回しながら再び一点突破連射弾! 四本の小太刀が弾き飛ばされ宙を舞う!
しかし、卒羽の判断は誤っていた。射線を集中させると残りの二十八刀がフリーだ! 6
姦観は冷静で、そして紳士的であった。高速回転の中、小太刀の向きを入れ替え、峰で卒
羽の両手と髪先を打ち据える。「ぐっ……!」集中連射の反動で回避自由度の下がった状
態のため、峰打ちを避けきれず銃を手放してしまう! 四丁のトカレフは遠心力で思い思
いの方向に飛び去っていった……。7
「私の四丁トカレフの負けです……。見事な太刀筋、感服いたしました」四方に飛び散っ
た愛銃を回収し、卒羽は素直に負けを認めた。「連続射撃の手数で上回れると思っていた
のですが、甘かったです」「いや、お主の腕前もなかなかだった。しかし……」姦観はな
ぜか不満そうだ。8
卒羽の動きに、姦観は違和感を覚えていた。「お主、まだ何か隠しているのであろう?」
「えっ……いえ、それは……神聖な道場で使うべきものでは……」「構わぬ。卑怯な技で
も何でも良い。お主のすべてをもって今一度、立ち向かって来い」触手がざわざわうねり、
三十六刀が鈍く光る。9
「それでは……道場を汚してしまうことになりますが、ペイント弾を使わせていただきま
す」卒羽は道場の端に置いたバックパックから、弾丸を取り出して装填した。「小さく速
い実体弾と、大きく重い能力弾の複合弾幕。そして……」卒羽は刀に斬られてボロボロの、
巻きロングスカートを取り去った。10
卒羽の下半身は、人間のそれではなかった。ギャザーとフリルで装飾されたロングスカー
トの中には、クモガニの如き美しい六本の脚が、窮屈に折り畳まれて収まっていた。ギシ
リ。脚を広げ腰を落とす。蟹ケンタウロスと言うべき神話的佇まい。足先の幅は、2m半ほ
ど。11
「私には、半分ばかり甲殻類の血が流れております。これで、四丁トカレフに加えて六脚。
少しは姦観様の手数に近付けるでしょう」「ふははは!」姦観は全身の触手を揺らして思
わず笑った。「面白い! 人外同士、いま一度存分に試合おうぞ!」12
《四丁トカレフ触手拳・ヴァーサス・鬼無瀬時限流小太刀三十六刀》#2 おわり
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《四丁トカレフ触手拳・ヴァーサス・鬼無瀬時限流小太刀三十六刀》#3
両手と両触手に構えられた四丁トカレフの銃口は真っ直ぐに標的を狙い、広く開いた六脚
が道場の床を咬む。刃を持った三十六の触手は身を縮め、必殺剣を放つための力を溜め込
む。四丁トカレフ触手拳・夢見花卒羽 vs 鬼無瀬時限流三十六刀・鬼無瀬姦観……二本目
開始! 1
姦観がいきなり仕掛ける。 三十六本の触手に溜められた力を解放! 鬼無瀬時限流小目録
「縛弐幽」! 高速水平回転する触手と小太刀のヴォルテックスが迫り来る! 卒羽は四丁
トカレフを連射しながら六本の脚を素早く蠢かせ後退! 桜色の高速物理ペイント弾と青
色の低速夢弾丸の時間差弾幕! 2
三十六刀の剣先に、満開の桜が花開く。速く小さなペイントBB弾を姦観の剣があやまたず
撃墜してゆくのだ。小太刀が触れるとペイント弾のカプセルが砕け、中の液体が飛び散る!
一瞬遅れて夢弾丸も到着。 ガガガガ! 小太刀が夢弾丸も正確に受け止める。青い丁字草
が咲き乱れ着弾の衝撃! 3
「ふむ、若干厄介な弾幕だが、爆弐幽の前では先程と大差ない……むしろ問題は脚か」下
半身を解放した卒羽の移動速度は速い。道場内を大きく回るように逃げ続ける敵を姦観は
捉えきれずにいた。驚くべきは卒羽の上半身安定性。常に三脚以上接地状態で走れるため、
理想的な銃撃姿勢を保つことができる。4
姦観は一旦回転を止め、三十六の小太刀を構えなおした。水平だった刃を、垂直に。上段
の構え。「今度の『爆弐幽』は速いぞ……逃げ切れるか小娘っ!」 縦回転! 斬殺巨大球
体が無慈悲な遺跡トラップの如く高速襲撃! 卒羽は側方回転跳躍で辛うじて回避! 「見
えたっ! 隙ありです!」5
空中で天地逆さまになりながら卒羽の回避撃! 回転触手球体の無防備側面に四丁トカレ
フ時間差連射弾が降り注ぐ! 「甘いわ!」姦観は回転軸を調整! 一瞬で水平回転となり
二色の弾幕を斬り伏せる! 空中に咲く桜と丁字草! 回転跳躍しながらでは狙いが甘い!
6
触手球体の方向転換が速い! 卒羽が六脚回避跳躍の着地を決める直前には既に進路変更
して突進開始している! 回避不能! 両手のトカレフ二丁で斬撃をブロック! 二本の三
つ編み触手で斬撃をブロック! 第四歩脚一対で二脚立ちして第二第三歩脚の四本で斬撃
をブロック! 7
「やあぁーっ!」気迫と共にブロックした多数の小太刀を押し返しつつ反動で卒羽は後方
宙返り! 跳んだ先には道場の壁! 「やあぁーっ!」壁を六本の脚で蹴って卒羽は前方宙
返り! さらに高く! 四丁トカレフを持った両手と両髪を胸の前で交差させ地上の姦観を
睨む! 髪が青く光る! 8
上空で必殺銃撃の態勢に入った卒羽を見上げながら姦観もまた必殺剣の構え。左右に十八
本ずつの小太刀を斜め下に翼の如く広げ、対空剣の予備動作。 「一気に決めます! 弾幕
の海に沈みなさい!」卒羽の空対地密集滅殺最終弾幕が放たれる! 9
ファランクス・ショット! 胸の前で渦巻くように四丁トカレフを平行移動させながら連
射連射連射連射! 底面径60センチの円柱空間にぎっしりと弾幕を詰めた赤青マーブル巨
大うまい棒を地上の触手塊目掛けて突き立てる! 姦観は対空斬撃で迎え撃つ! 三十六
の小太刀が一斉に振るわれる! 10
鬼無瀬時限流中目録『囲字簾』!
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直交斬撃陣!イージス艦の如き圧倒的対空!11
刃の方陣が弾幕のファランクスを飲み込んだ! そのまま斬撃の勢いは死なず空中の卒羽
に斬りかかる! 卒羽は銃弾十脚フル稼働で防御防御防御防御防御防御防御防御……防ぎ
きれない! 全身の衣服が無数の小太刀に切り刻まれる! 12
ほぼ全裸近くまで衣服を切り裂かれ卒羽は墜落! 「愉快愉快! お主も見事な技前であっ
たぞ! 気分がいい! フハハハハハハ!」勝ち誇り、愉しげに笑う姦観。しかし!「気分
が良いですか……ならば……私の勝ちです!」床に倒れ伏した卒羽もまた、不敵な笑みを
浮かべる! 13
《四丁トカレフ触手拳・ヴァーサス・鬼無瀬時限流小太刀三十六刀》#3 おわり
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《四丁トカレフ触手拳・ヴァーサス・鬼無瀬時限流小太刀三十六刀》#4
(最終セクション)
勝利を確信して愉しげに笑う姦観に、倒れた卒羽が不適な笑みを返す。「気分が良いです
か……ならば……私の勝ちです!」 「意味がわからぬな…… フハハハ、負け惜しみか?
フハハ、フーッ、ああ気分が良い!」姦観は三十六の小太刀を投げ捨て、上機嫌で全身の
触手をくねらす。1
「私の四丁トカレフは、姦観様の三十六刀には及びませんでした」切り裂かれ、あられも
ない姿となった身体を手と三つ編みで隠しながら、卒羽は身を起こした。「ゆえに……お
言葉に甘えて、神聖な道場には相応しくない武器を使わせていただきました」2
「フハハ、ハ、ハハハ? ぐ、ぬぅー、ハハハ。何だコレは? フハハ、コレは……おかし
いぞ? ハハハハ」 姦観が明らかに異常を呈している。全身が熱を帯び、触手の動きが活
性化している。桜色のペイント弾を一粒取り出し、卒羽は指先で潰して見せた。液体が弾
け、甘い香りがふわりと広がる。3
「何を……フゥー……何をした!」「一服盛らせて頂きました。ペイント弾に揮発性の薬
品を仕込んでおいたのです」姦観は何かを堪えるように、触手をわななかせ、身悶えした。
「姦観様。あなたは強く、優しいお方です。私の身体を傷つけぬよう、服だけしか斬って
いません」4
「仕込んだのは、対触手強力崔淫薬です……今度は剣士としてではなく、触手としてお相
手願います!」卒羽は両手と髪を広げ、姦観に呼びかけた。ごくり。居並ぶ門下生たちと
師範が唾を飲む。「あ、見られるのは恥ずかしいので隣室を貸してください」「う、うむ。
良かろう」師範は残念そうに答えた。5
「その必要はないっ!」姦観が己の中で沸き起こる衝動と戦いながら叫んだ。「拙者には、
拙者には……フーッ、フーッ……女子を襲う趣味などないっ!」卒羽は両手両髪を広げた
まま、六本の脚でゆっくりと歩み寄りながら穏やかに言う。「触手の本能はとても強いで
すから……逆らっても無駄ですよ」6
姦観の苦しみはいよいよ激しく、のたうち回りながら、うねる触手の先からボトボトと粘
りつく液体を垂らしている。「遠慮なさらずに。さあ!」 「やめろ……来るなぁっ! 拙
者は……拙者はっ!」その様子を見て、隻眼の道場師範は大きく溜息をついた。7
師範は言った。「姦観よ。もういいだろう。卒羽さんもこう言ってくれてることだし、無
理をしてはいけない。本能の赴くまま、好きなように襲うがいい。俺が許可する」その言
葉に、限界寸前で辛うじて踏みとどまっていた姦観の理性が遂に決壊した! 8
「もう我慢できないっ!」姦観の三十六の触手が一斉に襲いかかり絡み付く!「なっ、や
め……もごっ」 突然の豹変に驚く声は口にねじ込まれた触手が塞ぐ! 服の裾から、襟か
ら、袖から、次々に触手が侵入し全身をまさぐる! 顔も胸も尻も股間も、べたつく粘液
にまみれてゆく! 9
袖から侵入した触手は脂肪の薄い、筋肉質な胸をひとしきり撫で回してから胸先を標的に
定めた。「むぐっ、んっ……んうっ」乳首が弱点なのか、吐息が荒くなり身をよじる。口
に差し入れられた触手の先からは崔淫効果のある液体が注がれ、思考は鈍麻し、感覚は鋭
敏になってゆく。10
触手がまだ男を知らぬ秘密の穴を撫でる。姦観は紳士だ。いきなり貫くような無粋な真似
はしない。ゆっくり襞をなぞりつつ、充血した最も敏感な突起を激しく攻める。「んっ、
んんっ、んんんぅーっ!」一際大く呻き、全身を硬直させ震える。触手の責めに敗れ絶頂
を迎えたのだ。だが、まだ終わらない。11
(なんで……こんなことに……)卒羽は落胆した。強くて優しい、理想的な触手を見つけ
たと思ったのに。全てを捧げる覚悟を決めたのに。「アッー!」後ろの処女を奪われ断末
魔を上げる師範のことを羨望の目で見つめながら、卒羽は嘆息した。(まさか……姦観様
がホモセクシャルだったなんて……)12
《四丁トカレフ触手拳・ヴァーサス・鬼無瀬時限流小太刀三十六刀》おわり
最終更新:2014年08月07日 21:04