魅羽とタマ太はとっても仲良し。
いつも一緒にお散歩するの。
「水星ちゃんと決闘の約束しちゃったから、今夜は“B4”の下見をしておこう」
「ニャーン!(おっぱいも下もみたい!)」
魅羽とタマ太が渡り廊下その1に行くと、そこには水無月劫穉がいました。
彼は最近、希望崎学園にやって来たのですが、あまり他人と関わろうとしないのでイマイチどんな人なのかわからない存在です。
前から劫穉くんが何者なのか気になっていた魅羽は目をキラキラさせながら声を掛けました。
「こんばんは。私、馬術部のミウです」
「ニャーン(ちょ、やめとけコイツ凶暴だぞ)」
「こっちは三毛猫のタマ太」
「ニャーン……(なにより女の子じゃないし……)」
だけど、おやおや? なんだか様子がおかしいです。
なんだか劫穉くん、今にもブチ切れそう。
「どうしたの?」
「……殺されたいのか?」
「えええー!?」
想定外の応答に、魅羽は驚きました。
なんでこの人、いきなり敵対的なんだろう、戦闘開始!? ……いやいや、落ち着かなきゃ!
「あっ、こんな所に豆乳があるわ!」
魅羽はポーチから豆乳を取り出して、劫穉くんに手渡しました。
豆乳パックには、明るい太陽の下で鳥が舞う、希望に溢れた絵が描かれています。
劫穉はその絵が、明朗な魅羽の態度が、そしてこの世界のすべてが気に入りませんでした。
彼は、豆乳パックを握り潰しました。
ブッシャアーッ!
微かな褐色を帯びた白い豆乳が飛び散ります。なんという握力!
「死ね」
唖然としている魅羽に、劫穉は拳を固めて殴りかかります!
筋肉質の逞しい腕が魅羽に迫る!
先日までの魅羽だったら、一撃で頭蓋骨とその中身が大破して、その短い人生にピリオドが打たれていたかもしれません。
だけど今は違います!
「狩るにゃんイクイップメント!」
腰に下げていたスコップを抜きながらマジカルワードを唱えます!
スコップが劫穉の剛拳とかち合って打撃力を相殺すると共に放たれるまばゆい閃光!
光がおさまると、魅羽のいた場所には猫耳兜をかぶり特大スコップを持った謎の騎士・ミケナイトが立っていました。
ミケナイトは、斬馬大円匙を高く掲げて言いました。
「風紀委員長・蟇郡苛の名にかけて問います! 汝は学園の秩序を乱す者ですか?」
規範を尊び、警察官を志す魅羽は、馬術部員であると共に風紀委員でもあるのです。
理不尽な暴力は許せません!
そして今、魔法少女・ミケナイトとなった魅羽には正義を為すための力があるのです。
「秩序? ……興味ないな。俺はただ、お前の眼が気に入らない。――殺す!」
このように言ってはいますが、実のところ劫穉が本当に人を殺すことは稀です。
なぜなら、半殺しにした辺りで厭きてしまうから。
「ならば――風紀委員を執行します!」
狩るにゃん渦に揺れる尾をたなびかせ、ミケナイトが風のように踏み込む!
「っりゃあーっ!」
大振りのチャージング水平斬撃が劫穉の脇腹に突き刺さる!
窓の外まで弾き飛ばされそうな衝撃を劫穉は堪えた!
足元の床が薄氷の如くに砕ける!
「痛ってえな! お返しだぜぇー!」
反撃のボディブロウ! 早い!
ミケナイトは振り切ったスコップを引き戻して防御しようとするが間に合わない!
剛拳の直撃を受け猫耳の騎士が吹き飛び……いや違う!
ミケナイトは後方宙返りを決めて音もなく着地!
拳が触れた瞬間、自ら飛んで打撃ダメージを殺していたのだ! ……そのはずだった!
「ぐあっ!?」
予想外の痛みにミケナイトは呻き、膝をついた。
脇腹に痛烈な痛み。まるで、特大スコップで斬りつけたような……。
(これは……? 委員長のダメージ反射……!?)
その想像は当たらずとも遠からず。
劫穉の『纏畏(まとい)』は自分の痛みを触れた相手に体感させる能力!
「ニャーン!(なんかヤバい! もう逃げよう!)」
例によって弱気のタマ太が逃走提案!
だけど今回ばかりはミケナイトも同意見!
「狩るにゃんサンドスプラッシュ!」
スコップで廊下を浅く削り取った砂埃の目潰し攻撃!
劫穉の視界を一瞬奪った隙にミケナイトは猛ダッシュで逃げ出しました!
「ちっ、逃がしたか。だが、鬼雄戯大会が楽しみになってきたぜ。三毛猫め……必ず殺してやる!」
(=・ω・=)
「ふーっ、今夜は危ないとこだったね」
「ニャー(まったくだ)」
「今度は危なくない人に会えるといいな」
「ニャーン!(できればおっぱいが大きな子!)」
「明日はどこに行こうかなぁ」
(無事に逃げられたので一応)めでたしめでたし。