剣嵐、1回戦
生徒会役員、埴井鋸と戦闘になった剣嵐。
鋸が大きく振りかぶるはチェーンソー!
「ケヒィー!」
「ぐっ……!?」
サクラセイバーで受け止めたものの、回転する刃に弾かれて剣嵐は大きく態勢を崩す。
「もらったァ!」
隙ありとばかりに鋸は剣嵐のがら空きの腹に蹴りを入れる。
蹴り飛ばされた剣嵐は、しかし勢いに逆らわず後ろに大きく跳んで距離を取る。
蹴りの威力は大したものではない。せいぜい固定10ダメ程度の威力だ。
だが、問題はチェーンソーだ。
セイバーで受け止めることが難しいのは先ほど体験した。この身で受けるのは論外だ。
「だけど……。私、避けるの苦手なんだよね……!」
「へーえ、じゃあ何なら得意なのかしらネェー!」
再び飛んでくるチェーンソーの刃。剣嵐は再び防ぐが、やはり再び態勢を崩す。
手痛いダメージは、ない。
「けど……精神的には、厳しいかな……!?」
ぎりぎりの攻防は彼女の精神を磨耗させる。
それによって緊張の糸が途切れてしまえば、今度こそチェーンソーは彼女の体そのものを捉えるだろう。
――そうなる前に、なんとかしなきゃ!
剣嵐が腰の横側に手を伸ばす。
そこには剣が初めて剣嵐に変身した時に現出した、いくつかのスタンプがあった。
剣嵐がベルトからあるスタンプを取り外すと、その手で感触を確かめる。
「向日葵のスタンプ……!」
まだ使ったことはない。だが、この場を切り抜けるにはどんなものでも試してみたい。
だから、使う。
―スタンプ・オン―
『サンフラワー――焔夏夢想!!』
地面から伸びた蔓が剣嵐の体を包み込み、それが新たな鎧となる!
獅子を想起させる金色の鬣を蓄えた兜。そして両手には巨大な円形の盾があった。
「成る程……! これが向日葵の力ってことね!」
「姿が変わったところでェー!!」
再び振り下ろされるチェーンソー!
だが剣嵐は円盾でそれを難なく受け止める。
「このシャインシールドをそう易々と突破できるとは思わないでよ!」
「チィ! だが受け止めてばかりで勝てる気かァ!?」
尤もだ。受け止めているだけでは勝つことはできない。
サンフラワーフォームの手持ち武器はシャインシールドのみ。攻撃能力でいえばブロッサムフォームに劣るだろう。
だが、
「確かに……勝てそうにないけども」
剣は仮面の下でニヤリと笑みを浮かべる。
「あなたも……このまま戦ってていいの?」
「なにィ……?」
言われて、鋸は気づく。
そうだ。周りには何がいるのか。
「モヒカンか!」
先ほどまで大人しかったモヒカン雑魚であったが、鋸が戦闘を始めてしばらく経った頃から、落ち着きがなくなってきている。
戦いの熱気に当てられているのだろうか。このまま放置すれば面倒なことになりかねない。
鋸もそれを理解したのだろう。剣嵐と距離を取ると、チェーンソーの回転を止める。
「まぁ、いいわ。今日はここで退いてあげる。……何より、最大の目的は果たしたしネェ?」
「最大の目的……?」
「クク、あんたに『死の運命』を植えつけたのよ。これを祓ってほしければ、1千万円用意するのね!」
「な、なにバカなこと言ってんの……!?」
動揺する剣嵐を気にも留めず、鋸はモヒカンを引き連れてこの場を去っていく。
「信じずにあんたが死ぬのは勝手だけどねェー!」
という言葉だけを残して。
「死の……運命……?」
変身を解除した剣は、呆然としていた。
あの生徒会役員は自分に死の運命を植えつけたと言っていた。
「確か……聞いたことがある」
死兆星。
それが見えるものは遠くないうちに死ぬという。
空を見上げた剣の視界には、果たして。
「……嘘」
昼間だというのに。怪しく光る星があった。
つまり、鋸の言葉は真実ということになる。
「は、はは、嘘、嘘だよね、そんな……?」
剣は認めたくないとばかりにその場に蹲り、渇いた笑いを浮かべる。
どうしようどうしようと剣の思考がぐるぐると回る。
それを中断させたのは、新たに現れた人物の足音であった。
「あ……」
西洋ファンタジーに出てきそうな鎧と剣を、学生服の上に身に着けた人物。
見覚えがある。
「斉藤先輩……」
斉藤ああああ。
希望崎学園は屋内文化系部活、救世部部長。
ヒーロー部と救世部。どちらも人を助け、救う者ということでそれなりに交流があった。
だが。
だが、今は鬼雄戯大会真っ最中。
剣がヒーロー部からエントリーしているように、彼もまた……救世部からエントリーしていた。
「悪いな、意志乃。潰させてもらうぞ」
「あっ――」
斉藤ああああがソードを大上段に振るう。
剣はそれをぼうっと見ているしかできない。
そのままソードが振り下ろされ、剣の心臓に突き刺さった。
視界が赤に染まる。力が抜ける。意識が消えていく。
――あぁ、私……死ぬんだ……。
「うぷっ!?」
胃の底から込み上げる吐き気。頭ががんがんする。
犬のシバリングのように激しい呼吸が止まらない。心臓が早鐘のように鼓動をうち続けている。
「あ……れ……?」
生きている。
ソードを振りかぶっていた、肝心の、
「斉藤先輩は……?」
倒れていた。動く気配はない。
「……ん」
剣は己の呼吸が落ち着いてきたのを確認してから、恐る恐る倒れている斉藤の傍に駆け寄る。
意識は、ない。
いや、それどころか……。
「――えっ?」
死んで、いる。
剣には与り知らぬことであるが。
斉藤ああああは瀕死の体を、精神力で無理矢理動かしていた。
だが、斉藤がソードを振りかぶった時、彼を右腕骨折の痛みが襲った。
その不意の痛みが、斉藤の張り詰めていた精神力の糸を切ってしまい……意識を失ってしまった。
そしてそのまま、死を迎えたのだった。
「あ……」
ここにきて、剣は改めて鬼雄戯大会の恐ろしさを知る。
誰が死んでもおかしくない、殺しあい。自分が死ぬこともあるし、相手を殺すことも……ある。
自分はそんな戦いに身を投じてしまったのだ。
そして、
「……死の、運命」
先ほど見えたビジョン。あれはまさしく死の運命なのではないだろうか。
剣はぐっと歯を強く噛む。……どうやら、もう一度鋸に会う必要があるようだ。
最終更新:2015年01月24日 16:00