ジャラジャラと音が響く。投げ狙いの鎖が投擲されたのだ!
しかしミケナイトは鎖に捕まるよりも早く動く!
「せいっ!」
鋭い踏み込みからのチャージング特大スコップ!
ガシィッ!
しかし水星の左手甲が斬馬大円匙を受け止める!
「甘いっ! 狩るにゃんインパクトっ!」
スコップと手甲の接触箇所でマジカル閃光! 魔法発勁!
辰星鉄の防御を貫通する衝撃を受けた水星は派手に吹き飛ばされ、頭を強く打ち、倒れた。
「はぁ……なんとか勝てた」
勝者となったミケナイトも、水星の発勁を何発も受けたダメージは大きく、その場にへたりこんだ。
(やった……狩るにゃんフィールドの格闘応用は成功……)
緒戦を勝利で飾れたことで、鉄仮面の中の口元が緩む。
その時、ミケナイトの脳裏に昨日視た不吉なヴィジョンが蘇る。
“初めて人を殺した……格闘応用は成功”
そういえば、水星ちゃんは言っていた。
惑星パワーを引き出す『辰星鉄』は身体に大きな負荷がかかると……!
「水星ちゃん!」
「ニャーン!(大丈夫か!)」
ミケナイトとタマ太は倒れて動かない水星に駆け寄った。
タマ太は水星の胸に耳をあて、口元に手を翳し心音と呼気を確認する。
「ニャーン……(よし、無事だな……)」
「タマ太どいて! 水星ちゃん……水星ちゃん……!」
ミケナイトはタマ太を撥ね退けて水星の肩を掴んで揺さぶる。
「……ん……うーん」
水星が目を覚ます。
「ああ、どうやら負けちゃったみたいですね。おめでとうございます」
そして、無表情な顔にちょっとだけ笑顔を浮かべて勝者を讃えた。
「水星ちゃん! よかった!」
ミケナイトは思わず水星を抱きしめた。
ガツン! 猫耳兜が水星の額に激突するインシデント!
「いたっ! 下手したら今の頭突きが致命傷ですよ。それに、倒れてる人を揺さぶるのは良くないです」
「ニャー(もっと触りたかった)」
「あ、わわっ、……ゴメンナサイ」
「ま、私の頭は固いから大丈夫ですけどね。良い決闘でした、ありがとうございます」
「こちらこそ!」
「ニャーン!(こちらこそ!)」
そして、ミケナイトは気になっていたことを聞いてみた。
「どうして、私に決闘を申し込んだんですか? 決闘じゃなければ……たぶん発勁を用意しなかっただろうから、私は負けてたはずです」
「ふふ……だって騎士と決闘なんて格好良いじゃないですか」
「そんな理由で……?」
「いやいや、これが大事なんですよ。なにしろ我等が天文部は部員不足ですからね」
「……? 部員不足と決闘がなんで関係あるの?」
「つまり私は、勝って部費を稼げればいいわけじゃないんです。良い戦いをして注目を集めないと天文部の宣伝になりませんから」
「なるほど……大変ですね」
「馬術部もたくさん部費を稼がなきゃならないから大変そうですけどね。頑張ってね、魅羽ちゃん」
「ななっ!? ミ、ミウチャン誰デスカ私ミケナイトダケド!?」
「(バレバレなんですけどね……)さ、次の敵が来ましたよ。戦え! ミケナイト!」
「えっ、ハイ!」
そしてミケナイトが振り向くとそこには……全裸の男性が!!
「キャアアアーーッ!?」
「ニャアーッ!!(変態だーっ!!)」
「俺はミステリアスパートナーだ。勝負してもらうぞ!」
「勝負はいいけどっ! 前ぐらい隠しなさい!」
ミステリアスパートナーの名誉のために言っておくと、彼は変態ではない。
第一試合で薬袋品と戦った際に薬品攻撃を受けて着衣を完全破壊されてしまっただけなので、全裸なのはしかたないのだ。
「蒲郡苛の名において……風紀委員・猫岸魅羽、第12風紀事項を執行します! 変態誅滅!」
斬馬大円匙を掲げ、凜として宣戦布告するミケナイト!
だが、うっかり本名を名乗ってしまうあたり、動揺は明らかだ!
ミケナイトの体力消耗は著しいが相手も手負い。
ミケナイトは速攻を仕掛ける!
「……インパクトっ!」
先制の発勁を打ち込む!
「ぐふっ、だが被弾は織り込み済みだぜ!」
全裸男性は怯まず前進しミケナイトに抱き付く!
これはクリンチであり正当なボクシング行為のため猥褻が一切無い!
(うわわーっ!? 密着!? 輝海ちゃんごめんねーっ!)
混乱して謎思考のミケナイトをミステリアスパートナーは投げ飛ばす!
「うりゃーっ!」
闇ボクシング奥義“大外刈り”!
右足でミケナイトの左脚を外側から引っ掛けて密着状態で押し倒す!
(むぎゅっ!)
巨体に押し潰され声無き呻きを上げるミケナイト!
ボクシングに投げ技など無いと思ってた時期!
ミケナイトはグラウンドに持ち込まれる前に巨体を撥ね退けて立ち上がり、敵から離れようとバックステップを踏む。
逃げるミケナイトにミステリアスパートナーが迫る!
再びクリンチからの投げ狙いだ!
だが……投げが来るとわかっているならば。
スズハラXの服用によって高まったミケナイトの動体視力は、この瞬間、ミステリアスパートナーの動きを完全に把握していた。
スゥと小さく息を吸い込んで精神統一すると、ミケナイトは遠ざかる動きから一転して逆に踏み込んだ!
迫る腕を身を低くして潜り抜けながらカウンターのスコップ突きをミステリアスパートナーの腹部に突き立てる!
巨体が突き飛ばされてロッカーに激突し、金属扉をひしゃげさせた!
「カカカッ! やるねぇお嬢ちゃん! しかたないから俺も本気になるとするか!」
不敵に笑いながら立ち上がるミステリアスパートナー。
「いくぜ! 必殺『ダッシュストレート』!」
テレフォンパンチどころではない必殺技発動宣言と共に、ミステリアスパートナーは走り出した!
相手を舐めているわけではない。
己の強さに絶対の自信を持っているのだ。
(魅羽……落ち着いて! よく見る! 決して避けられない攻撃じゃないはず!)
魅羽はスズハラXの力を借りて相手の動きを注視する。
もう一度、さっきのようにカウンターを決めれば勝てるはず……!
ミステリアスパートナーが走ってくる。
ぶらんぶらん。
(あっ……)
ぶらんぶらんぶらーん。
(駄目っ! 魅羽! そんなの見ちゃ……パンチに集中しなくちゃ!)
ぶらぶらぶららーん。
ミステリアスパートナーのダッシュに同期して何かが揺れる!
一度気になり出すと、もうそっちにばかり意識が行ってしまう!
(嫌……別にそんなの見たいわけじゃないのに……どうしても目がそっち行っちゃうよぉ!)
視界が暗闇に染まる。
魅羽は思った。
ああ、これは、アレだ。
見習い女騎士・ミケナイトは、あのお約束に破れたんだ。
(やっぱりチンコには勝てなかったよ……)
もし未来の世界で、ミケナイトが百合の世界に走るようなことがあったとしたら。
この時に植え付けられた男性器への恐怖が、その遠因のひとつなのかもしれません。
●:ミケナイト - ミステリアスパートナー:○
(3R1分18秒:ダッシュストレート)