紅炎峰コロナ 対 月読七菜 SS

紅炎峰コロナが月読七菜を最初の対戦相手に選んだのは、げんかつぎのようなものだ。

紅炎峰家は大銀河拳の流れを汲む「太陽勁(たいようけい)」なる闘気法を代々受け継いできた。

熱を速さに、速さを力に、力を意思に自在に変える、それが「太陽勁」の真髄である。

そして、その業は「字に日・地・月・火・水・木・金・土・天・海・冥を持つ者と戦うことで磨かれる」と言い伝えられている。

数多の格闘者が己の家門に殉じていた頃であれば、流派の教えと言えなくもないが、現在においてはただのオカルトに過ぎない。

だが、さしたる因縁を持つ相手もいないコロナはこの言い伝えを試してみることにした。

”月”の字を持つ月読七菜が己の居場所を明らかにしていたことも後押しとなった。

(いかに魔人と言えど格闘者でないアイドルを倒すことは容易いはず・・・・・・)

――だった。

だが、幾度にわたる衝突を終えてなお、七菜は倒れなかった。

常人であれば、いや歴戦の戦士であっても耐えられるはずのない猛攻を守りきってみせた。

それどころか途中で衣装を着替えさえした。

(なぜ、倒れない?)

そんな疑問がを抱きつつもコロナは攻撃の手を緩めない。

「ファンが見ている限り、私は負けない!」

月読七菜はそう言いながら、コロナの拳を受け止める。

(なるほど、ファンの存在がタフネスの秘密か)

その台詞と周囲の歓声から、七菜の力の源を理解したコロナは大きく息を吸い込んだ。

「乳炉動力最大火力(パイロキネシスフルバースト)!」

コロナの乳房が超高熱の溶鉱炉に変わり、辺りに火炎を撒き散らす。

瞬時に周囲に火炎の壁が反り立つ!

(ファンの視線を断ち切り、心を折る!)

だが、それでも七菜は倒れない。

一押しすれば崩れそうな身体だが、何かが彼女の闘志を支えていた。

(ああ、そうか……)

コロナはそこでようやく悟った。

(私は君の闘志に魅せられていたのだな……)

眼前に月読七菜の不屈の戦いぶりのファンとなったコロナがいる限り、七菜が倒れることはないのだろう。

戦闘停止を知らせる合図が鳴る。

コロナは敬意を持って、七菜に握手を求めた。

「私はこの大会、必ず勝ち抜いてみせるわ」

そう言って、七菜は不敵に笑う。

「ならば、私も君と再び会うときまでに強くなろう」

七菜のアイドルとしての矜持、そして不屈の魅力。

己の慢心も含めて、この戦いに勝てなかったのは必然だろう。

(だが、ファンになってしまった以上、すぐの再戦は避けたい気分だ・・・・・・)

「幸い、"月"はもう一人いる」






最終更新:2015年01月24日 16:34