魅羽とタマ太はとっても仲良し。
いつもなら一緒にお散歩するのだけれど……。
「タマ太、今日は風紀委員の会議があるから散歩はひとりで行って来てね」
「ニャーン(ふむ……女子寮でも覗きに行こうかな)」
「駄目だよタマ太、会議には連れてけないよ」
「ニャ?(えっ?)」
じゃあくな計画を思案しているタマ太を見て、魅羽はタマ太が一緒に委員会に来たがっていると誤解しました。
魅羽とタマ太が大の仲良しなことは間違いありませんが、実は魅羽はタマ太のことを良く理解していません。
だって、猫語が解らないのだから仕方ありませんね!
「よし、いいこと考えた」
魅羽は、だぶだぶのサーコートの腹の部分にタマ太を入れて、こっそり委員会に連れて行くことにしました。
本来、サーコートは鎧の上から着るための衣服なので、ジャージの上に直接着るとぶかぶかです。
おまけに、魅羽はまだ見習い騎士なので、このサーコートは部室に置いてあった先輩のお古なのでサイズもやや大きめです。
なので、タマ太を腹のところに入れても全然違和感がありま……ありませ……うーん、まあ、ありません。
「暑いだろうけど我慢してね。冷たい豆乳も入れとくから、水分しっかりとるんだよ」
「ニャーン!(おお……これは……すばらしい!)」
サーコートの中は、タマ太にとって天国でした。
ジャージごしに伝わる柔らかいおなかの感触、見上げると天には双つの丸い膨らみ。
ちょっと身体を縦に伸ばせばちょうど胸の谷間にタマ太の頭がジャストフィットします。
おまけに豆乳のみほうだい!
(=・ω・=)
風紀委員会の月例会議では、今月の重点取締り項目について、蟇郡委員長から指示があります。
「最近、学園内で奇妙な宗教が流行っている。女子高生教やMARIYA様信仰などだ。信教の自由があるので迂闊に手出しできないのが歯痒い」
教祖格の女子高生那自分賀好世と神社千代の写真がホワイトボードに張り出されます。
そして、それぞれについて懸念される危険性のブリーフィング。
「他にも、よしお会長就任以前に認可された部活には妙な物が多い。『この世は地獄部』と『不倫は文化部』にも注意すべきだ」
迚持ライと弾正院倫法の写真も貼られます。
「……ところで猫岸魅羽くん」
「ふぇっ? ひゃい!!」
突然委員長に呼び掛けられ、魅羽は裏声で返事をしました。
蟇郡委員長は、魅羽の僅かに膨らんだおなかの辺りを見ながら言いました。
「委員会では機密事項の伝達もあるので、友達を連れてくるのはやめなさい」
「うえっ、すっ、スミマセン」
委員長は、タマ太のことをお見通しでした。
タマ太が静かにしてるので大丈夫だと思ってたのに、まさかあんなに遠くにいる委員長に見破られるなんて。
「委員長は部外者立入禁止だが……ペットについての規則はなかったな。ゆえに今回は不問とするが、今後は駄目だぞ」
「はい。わかりました」
「猫岸くん。君は真面目で熱心な風紀委員だが、グレーゾーンに対する姿勢がリベラルなところが気懸かりだ。気を付けなさい」
「あっ……はいっ! ありがとうございます!」
魅羽には解りました。
委員長はきっと、マタタビのことを言ってるのです。
確かにマタタビは完全に合法です。
そもそも普通は人間がマタタビに酔ったりはしないので法規制する意味がありません。
でも、だからと言って好き放題マタタビを吸っていいわけはないでしょう。
魅羽がマタタビに酔ってやらかした失敗が、委員長の耳にも入っていたようです。
恥ずかしさに顔を真っ赤にして、魅羽はうつむきました。
さいわい、この話はもう終わりでした。
「さて、いよいよ来週から鬼雄戯大会が始まる。連合間の衝突は小康状態だが、再び活性化が予想されるので各自注意するように。そして――」
蟇郡は風紀委員会室の入口に歩いてゆき、ガラリと引き戸を開く。
するとそこには、セーラー服を着たマッシュルームカットの小柄な少女がいた。
「俺も、喧嘩部部長と組んで大会に参加するので応援よろしくな!」
小さな喧嘩部部長はぺこりと一礼してから威勢良く自己紹介した。
「マコです! 満艦飾マコ! よろしくな! で、蟇郡先輩、あの子のことも紹介するんでしょ?」
「おう。その正体は秘密だが、馬術部の『ミケナイト』と名乗る選手も、実は風紀委員なんだ。彼女のことも応援してやってくれ!!」
(きゃーっ!)
魅羽は心の中で叫びました。
まさか、私がミケナイトだってことまでバレてる!?
恐る恐る蟇郡委員長の顔を見ると、委員長とマコ先輩がニッコリ笑いました。
(やっぱりバレてるーっ!)
魅羽は、やっぱり委員長にはかなわないなぁと思いました。
めでたしめでたし。