打者、ミケナイト
平均的な高校生女子と比較しても、猫岸魅羽は野球のことをよくわかっていない。
ボールを打ったら走る。確か……右の方へ? そんなレベルだ。
しかし、生徒会役員の命令には逆らえない。
猫耳兜の下では、鼻から血がだくだくと流れ出て止まらない。
そんなのは野球をしない理由には全然ならない。
――野球しようぜ!
だが……魅羽には秘策があった。
秘打。名付けて『狩るにゃんミータックス』。
野球には『ストライクゾーン』というルールがあるのを御存知だろうか。
猫岸魅羽は、知っていたのだ。
『ストライクゾーン』を通ったボールは、ボールではなくストライクになるということを。
いかに野球神と言えども、この『ゾーン』を利用しなければ、ボールはボールのままのはず。
五角形のひし餅みたいなのの上空。膝と肩の間。
五角柱の形をした『ゾーン』こそが野球を支配する最重要領域である。
そして、斬馬大円匙ならば……一振りで『ストライクゾーン』全域を完全に抉り取ることができるのだ!
ミケナイトは特大スコップを手に、バッターボックスに立った。
マウンド上には生徒会特別役員・野球神。
後ろを振り向くと、主審を務める一太郎が親指を立てて『グッドジョブ』のサインを魅羽に贈ってくれている。
だが、一太郎の口から出たのは魅羽が予想だにしない冷酷なひとことだった。
「バッターアウッ!」
(え? 私の名前は『アウ』じゃなくて『ミウ』なんだけど……? いや、正体は秘密だけど……)
などと魅羽が考えてるうちに、ミケナイトはバッターボックスから追い出されてしまいました。
(……!? 何をされたのか全然わからなかった……! まさか野球神は『ゾーン』を使わず……いや、ボールを投げすらせずストライクできるの!?)
恐るべき野球神のチカラに、打ち震えるしかないミケナイトであった。
ピッチャー:野球神
バッター:ミケナイト
結果:規定外バットの使用によりバッターアウト
最終更新:2015年06月21日 20:55