ホリ―ランドクラブSS『英子と四囲美の人間革命 ―二日目 ―』

―二日目 渡り廊下―

四囲美が、渡り廊下に到着した時、そこでは地獄絵図が繰り広げらていた。

正確には到着”するまで”といったほうが正しかっただろうか。鋸は四囲実を視線に収めると
掴んでいた英子の頭を放すと床にどさりと放り出した。


「英子!?」
慌てて英子に駆け寄った四囲美は胸をなでおろす。大丈夫、意識を失っているだけで息は有る。
…ただ、異常ではあった。意識を失った英子が、かいている汗が尋常ではない。
ここで何が起こったのだ。
周りに散らばっているのは戦いの流血の後などでなく血反吐を…恐らく英子がまき散らした痕なのではないか。。


「貴方、英子に何をしたの…」
四囲美の震える声に、鋸はおどけた様子で両手を広げて答えた。
「何?って、試合よ。大会選手がこんな人気のないとこ突っ走ってちゃ生徒会のうちらがでるしかない
じゃない。私に偶然会ったのは不運とは思うけど、そこは恨みっこなしでお願いしたいわ。」

四囲美の悪い予感が的中した。水星とヴェーダの戦いは人気のない渡り廊下の一角で行われた。
こういう場所では、対戦相手のフリ―の選手を狩っている生徒会役員に目を付けられる可能性が格段に上がる。
しかもある種、最悪の相手と遭遇してしまった。このサディスティック特化の魔女にだ。

「ちゃんとね、約束もしたのよ。私と試合したら廃部撤回のサインもしてあげるって
英子ちゃん、寧ろ喜んでいたくらいだわよ。ヤッターって」

喜んでいられたのは最初の3分くらいだけだったけど。

「ところが彼女、途中で精魂尽きちゃってね、立っているのがやっとでデコノボー状態でさ。
その時点でほぼ勝負ついちゃったし、でも彼女負け簡単に認めないし、暇だし、しょうがないから
手慰みに無力化したコイツ締め上げて、あばらを上から順番に折っていったわけなのよ。」
「!!」
「えーとなんだっけ『試合は既に拷問に代わってるんだぜ』…ってやつ。4本目に取りかかったとこで
この子気を失っちゃって、ああ、もう、どーしようかなーっ残りいっきにやっちゃおかなーと思ってた
ところに貴方が来たわけ。もう、それまでの間、血反吐はいて先輩先輩って叫んで転げまわって大変だったわ。
ホント、私も心痛んだわ。」

もう明日お腹が筋肉痛になりそうなくらいには。

「…ああああ」
「あれ、でも変よね、四囲美ちゃんって英子ちゃんと同級生じゃなかったっけ?おかしいわね。
私、貴方の名前聞いてないけど、あれ一番の友達なんでしょ?おかしいな」

悲壮な四囲美の顔を覗き込みながら、鋸はちくりちくり精神攻撃で彼女の精神の表層にささくれを
掻きたてていく。その漂白一色の顔をのぞき込み、うっとりと満足げな笑みを浮かべる。

なお、鋸が英子と”偶然”会ったというの全くの嘘だった。そもそも彼女は、朝治療しにきた英子に
会っている。彼女はその時から英子に目を付けていたのだ。
居場所も治療中、何気ない会話で今日の行動予定を聞きだしておいたので目星はつけれていた。
 選んだ理由は”素人”だから、英子本人は怪我の痛みを上手く隠しているつもりのようだったが、
専門家の鋸の目から見ると『痛がりよう』はバレバレだった。
その『痛がりよう』は一目瞭然で、彼女が痛みに対する耐性を他の選手のようにはもっていないことを
証明していた。恐らく本格的な格闘やバトルの経験などなかったのだろう。

ひらひらと一枚の紙が四囲美と意識を失った英子の足元に落ちる。

「例の奴、サインしといたわ。はーい、お疲れ様。
ちなみに治療は一日一回までだから、今日は受付ないわよ。また明日いらっしゃい。」

(…はやく手当しないと…あばらの応急処置は普通じゃダメ、コルセットか何か使わないと、でも
病院に連れていったら即入院だし、…保健室…あそこなら、あそこに今晩泊めて貰って明日朝一番に治療に…)

四囲美は英子を背負うと新校舎内へとは入っていった。


††


真の地獄は翌日だった。

翌日、怪我の治療のため、運営本部を四囲子の付き添いの元、訪れた英子は
埴井鋸のにやにや笑いを認めた瞬間、悲鳴を上げ重症にも関わらず逃げ出そうと暴れ出した。

先日拷問を受けた相手に身体を弄られるような治療(こと)を許すほど彼女の精神は強くなかった。
いや、昨日まで普通の一般学生としていた彼女としては極めて正常で健全そのものであった。

四井美は―

四井美は最終的に暴れる英子の意識を当て身で失わせた。
そして鋸の作りだした蜂の子を分けて貰い、咀嚼して口移しで英子に無理やり飲み込ませていった。

彼女は友人を背中に背負うと昨日と同じように歩き出していった。
その様子を屋外文化部の面々はなんとも言えない面持ちで見て見ぬふりをし。
他の部は(ありゃ完全に心を折られたな…)と心の中でフォーソング部の名前の上に大きくバッテンを
付け、その存在を消すことにした。

その一部始終、最初から最後まで、鋸のにやにや笑いは収まらなかった。


其の日より英子は部室に閉じこもり、シーツを被り一歩も外に出ようとはしなかった。


                (「無刀ブラック備刀ホワイト」へ続く)






最終更新:2015年06月22日 00:33