水星と柊先輩と死亡判定
「え……?」
信じられなかった。
プールの観客席から見える水星が倒れたまま動かない。
私は観客席から飛び降り、水星の元へと駆け抜ける。途中、生徒会所属の係員に抑えられたが構わず突き飛ばして前へと進んだ。
水星との距離があと一歩となった瞬間、審判の冷酷な判定が下る。
――死亡。
身体から大事な芯が抜け落ちてしまったようであった。
がくっと膝をつき、水星の身体に触れる。
目はうっすらと開かれているがその瞳に光は無く。四肢はだらんと投げ出されていて力がまるで感じられない。
「水星……? 起きてよ。水星ってば! あはは、またフザケてるんだよね……笑えないよ、その冗談」
水星の身体を何度も大きく揺さぶるが、何も反応は返ってこない。
「……」
やがて、揺するのをやめて腕を力なく離す。
「あっははは、はははははっ」
力なく笑う。私は、私はこんな事、認めない。
私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は――――
◇◇◇
「あの、入部したいんですけど……」
部室代わりに使っている空き教室。
そこに、おどおどした感じの背丈の小さい子が訪れる。
――まるでいつだったかの焼き直しの様に、その少女はやってきた。
上履きの色から、学年を判断する。
「一年生かな? はじめまして。私は部長の柊美星です」
「えとぉ……はじめまして、一条千冬(ちふゆ)と言います。その、私水星さんに憧れて……」
「……あぁ、なるほど。主に活動してるのは私しかいないけど、それでもいいかな?」
「は、はい……」
千冬と名乗った少女は緊張しているのか、声が裏返ってしまっていた。小動物じみた容姿が可愛らしい。
「さっきも言った通り、部員がとにかくいなくてね。一人でも入ってくれると助かるよ。天体観測とか好きなの?」
「はい!」
終始おどおどしながら話していた千冬は、ここにきてとびっきりの笑顔を見せてはっきりとした返事をくれた。きっと本当に天体観測が好きなんだろうな、と思う。
「そっか。それは良かった。じゃあ入部届けを見せてもらえる?」
「あ、はい」
――こうして、天文学部に新たな仲間が増えたのだった。
◇◇◇
「やったよー ついに新しい部員が増えたよ。これが小動物チックな子で可愛いんだよねー」
ベッドに横たわる水星に声をかける。
返事はない。
「水星に憧れて入ってきたんだって。つまり水星のおかげだよ。ありがとね」
水星の頭を撫でる。
水星の瞳は閉じたままだ。
「でもまさか水星に憧れるなんて物好きな子が現れるなんてねー。まぁ、その為に鬼遊戯大会に参加した訳だけど、実際そういう子が出てくるとびっくりだなー」
水星の身体は身じろぎ一つしない。
「明日は日直だから、早く寝ないと……おやすみ、水星」
布団に潜って、水星の隣に寝転ぶ。
彼女の肌は、冷たい。
【END】
最終更新:2015年06月22日 00:44