ダンゲロスホーリーランドクラブ3ターン目SS「正義とは」

※おわび※
※野球中継延長のため、本来掲載予定だった3ターン目SS「正義とは」は繰り下げて投稿されます※
※引き続きグラウンドからの野球中継をお楽しみください※



試合が終わればノーサイド、これはスポーツの大体ほとんど全てに共通すると言っても過言ではない理念である。
それは命と部費とあと着衣とかなんかそういうもろもろを賭けて行われる鬼雄戯大会であっても変わらない。
野球神の名の下、試合の後は野球をする。
それがここグラウンドでの唯一のルールであった。

しかし、このターンの試合がほぼ終わったのに、未だに野球は始まっていない。
用具もそろえた、チームも分けた、ポジションも決めた、審判も居る。であるのになぜか。

それはグラウンドの中心。ピッチャーマウンド上で体育座りをする一人の男がためである。
その男の名はビンセント・タークハイツ。宅急部員、現在1勝2敗。
度重なる右腕切断により、肩部をジョイント化処置した彼は、キュッポンキュッポン右腕をつけたり外したりしながらピッチャーマウンドに「の」の字を書き続けている。

端的に言って非常に邪魔であった。誰かがどけ、と言えば済む話ではあろう。
だが、彼の全身から漂う「なんかさー、わりと強い必殺技作ったのに全然勝てないし、マッチングうまくいかないし、15%ぐらい回避率あるのに全然成功しないしもう死にたい……」みたいなオーラが話しかけることを躊躇させるのだ。

ピッチャーマウンドが使えないと試合は出来ない。しかし、あの面倒くさそうな男に関わりたくない。
それがビンセントを除く全員の総意であった。
キュッポンキュッポン右腕ジョイントをつけたり外したりする音だけが響く気まずい静寂。
だが、それを断ち切る声が響く。

「人類!愚カ!俺!支配」
「き、君は……めごちゃん!?」
「俺!奴!説得!野球!可能!」
「き、君にそれが出来るというのか……!?」

期待と驚愕を背に受けて、めごちゃんはピッチャーマウンドへと向かう。
めごちゃんは人類支配を目論むウーパールーパーである。
ゼロから人語を解すまでに至ったそのコミュニケーション能力の高さ、適応力の高さはもはや言わずもがな。
鬼雄戯大会参加者の中でもトップクラスに位置するだろう。
彼ならば奴をピッチャーマウンドからどかすことが出来る、そう期待されることも無理もない話である。

「オ前!退ケ!」

めごちゃんは立ち上がり、ビンセントを見下ろしながら説得する。
常人ならばすぐに屈服し門下に下ってもおかしくない威容。だが、ビンセントは体育座りをとかない。
彼はわずかに首を動かし、片目でめごちゃんを見る。

「……なんの用だコアラ?」

その一言でグラウンド中に衝撃が走る。
彼が口走ったのは未知の言語……いや、あれは……

「ありゃあ、オーストラリア語ですねぇ」
「知っているのか、蟹田!」
「ええ、以前落語留学してきたオーストラリア人がしゃべっていましてねぇ……まさかこんなところでお目にかかるとは」
「だ、だが、あいつが何語を話していようとめごちゃんなら……!」
「いや、あれを見ろ!」

皆の視線の先、ピッチャーマウンド上のめごちゃんは額に冷や汗を浮かべていた。
たしかに、めごちゃんはゼロから人類とコミュニケーションが可能になるまで至った脅威のウーパールーパーである。
だが、不運にも彼の周囲には日本語話者しか居なかった。
今まで日本語こそ言語であると思ってきていたウーパールーパーにとって、初めて触れる外国語はどれほどの衝撃であったであろうか。

「用があるんだろう?速く言うシドニー」
「ウ、ウヌ……!」
「どうしたエアーズ・ロック?」

たじろぐめごちゃん、もはや趨勢は誰の目にも明らかである。
時期に彼はすごすごと引き下がり、好物の乾燥シュリンプを食べながら受けたダメージを癒すことになるだろう。

「う、嘘だろ……めごちゃんが……」
「か、蟹田!お前オーストラリア語を聞いたことがあるんだろう?ラーニングしてないのか?」
「いやぁ、まさか必要になるとは思いもしていなかったものでしてねぇ」
「くそっ……!人類はオーストラリア人に勝てないのか……」

再度ただよう絶望感。ピッチャーマウンド上では、打ちひしがれたように萎びためごちゃんがいる。
その肩に、ぽん、と手が置かれた。

「オ、オ前……」

その手の主は、野球神であった。
彼はぐっと親指を立てると、めごちゃんにかわりビンセントと相対する。

「む、無茶だ野球神!」
「あんたが野球概念そのものであったとしても相手は野球後進国・オーストラリアの人間だ。あんたの力が通じるとは………」

叫ぶ人々を手で制し、野球神はビンセントへ声をかける。

「I live in EDO」

彼の口から出たのは、また日本語でもない未知の言語

「お、おい蟹田!あれはオーストラリア語なのか?」
「いえ……あれはあたしにも………」

オーストラリア語でないなら、通じるはずがなかった。
だが……

「タスマニアデビル?」

ビンセントが言葉を返す。

「つ、通じたぞ!どういうことだ!?」
「お、おい、見ろ、あれは………」

野球神の背には「3」の背番号が浮かぶ。
それはかつてアテネの地にて日本代表を指揮した伝説の監督の背番号。
そして、日本代表と戦ったチームこそ……オーストラリア……!

「魂だ……!言語じゃない、勝負を繰り広げた日本代表とオーストラリア代表の魂が繋がっているんだ……!」

言葉は、いや、思いは通じた。
固唾を呑み、人々は二人の会話を見守る。

「アイム失礼!」
「いや、別に構わんカンガルー」
「How old おいくつ?」
「16だアボリジニ」
「魚編にブルー」
「鯖だストライカー・エウレカ」

いくつか言葉を交わし、ビンセントは野球神の差し出したグラブを受け取る。
一拍遅れ、グラウンドが歓声に満ちる。
野球しようぜ!その思いが伝わった瞬間であった。

――――

生徒会室の窓からグラウンドを見下ろす影がある。
生徒会長、パントマイムよしおだ。
野球をする生徒たちを見ながら、彼は内心でパントマイムする

(………さすがは野球神、頑なだった人々の心をつないだ。か)

グラウンドには平和が満ちている。
皆が微笑み、野球をする。充実した空間

あるいは……はじめからこうであれば、鬼雄戯大会など開く必要はなかったのかもしれないな

ふいに彼の体をついて出たパントマイムに、生徒会役員達は驚愕の視線を向ける。
だが、だれよりも驚いていたのはほかならぬよしお自身であった。
無意識に出てきたパントマイム。あるいはそれは彼の本心であったのかもしれない

だが……時間は戻らない。

独り言のようにマイムし、窓のブラインドをおろす。
確かに絆はあったのかもしれない。だがそれは一時的なものだ。
ゆえに……鬼雄戯大会は進めねばならない。

グラウンドの歓声を聞きながら、パントマイムよしおは生徒会業務へと戻った。


おわり






最終更新:2016年10月16日 17:54