「ここが暈哉の部屋か。男の子の部屋って初めて入ったなー。
 あ、自分の部屋以外のね」
「……」
「……暈哉」
 夕日の差す暈哉の部屋。
 半左の目の前で、暈哉はベッドの上に座っていた。昨日のL座りが崩れて、だらしない体育座りみたいになっている。その表情に力は無く、視線は虚空を泳いでいた。
 雨竜院暈哉精神1。
 本日、精神1で臨んだ負ければ最後という試合、暈哉はランキング2位の蟹田に勝利する大金星を挙げた。
 借金320万円を一気に返済し、精神にも余裕が戻ったのだが、何を思ったのかそのまま連戦。次なる対戦相手一太郎の圧倒的な速さの前に敗れたのだった。
 結果、精神は再び1になってしまい、しかも先の試合で負ったトラウマも効いてより昨日より深いダメージを負った状態だった。
「でも暈哉、昨日よりはずいぶん強くなってるよ反応もFSも伸びたし」
 そう励ますも、暈哉はやはり反応を示さない。
(うーん……何か、何かしよう)
 手をパタパタしたり、耳に息を吹きかけても、やはり反応は示さない。
(人のおウチで頑張れ♥ 頑張れ♥ ってするの恥ずかしいし……着替えさせて貰うのも……)
 今、暈哉の目の前で着替えを始めれば恐らく反応してくれるだろうが、鈍い半左はそんなことに気づかない。恥ずかしかったし。
(あー……そうだ)
「ねえ、暈哉」
 隣に腰掛け、言う。
「好きな子に告白するのだってさ、勇気がいるでしょ?」
 名前も知らない相手をダシにするのが卑怯な気はしたが、続けた。
「最後の最後の、告白するのも、結局気持ちの問題だからさ。
 そりゃ告白とは違うし、人も死んじゃうくらい危ないことだけど……でもやっぱり勇気が無きゃ。何でも」
 窓から覗く夕日を見ながら、半左は思いを言葉にしていく。
 たとえ破れても、勇気を持たないといけない。同性の親友に告白する勇気。暈哉が得ようとしている勇気。FS。
「わた……僕はさ、勇気のある暈哉が好き」
 その言葉に、暈哉の目が見開かれ、半左の方を見る。 
「はっ半左!」
「わっ! 戻ったんだ暈哉。良かった……」
 半左は安堵し、顔を綻ばせるが、暈哉は真剣な表情になり、じっと見つめ続ける。
 少し間があって、再び口を開いた。
「半左、俺……」
「ど、どうしたの?」
「……いや、あ、ごめん……」
 昨日とは別な意味でバツが悪そうに、暈哉は目を逸らす。
 今はまだ、FS(勇気)が足りない。
「……でも、取り敢えず戦う勇気は貰ったよ。昨日の今日で、ごめん。
 ……ありがとう」
 そう力強く言って、横に置かれた半左の手を握った。
「あ、ん……」
 今度は半左の方が恥ずかしそうにする。
 2人とも顔が赤いのは、きっと夕日のせいだけでは無いだろう。


「じゃあ、またね暈哉。
 明日も応援するから」
「おう、頑張るよ」
 半左を駅まで送り、別れると暈哉も家路につく。 
 歩きながら何となしに空を見上げた。すっかり夜で濃紺のヴェールに星が散っている。
「……」
 暈哉は地学も履修していないし、星を意識して夜空を見たことなどここ数年無い。
 しかし、何か、足りないような気がした。とても身近な、けれど名を知らないまま見ていた星が消えたことを、何となしに感じ取っていた。
「なんだ……何だろう、この感じ」
 一度だけ話した天文部の女子生徒・水星が死んだことを知るのは、この翌日のことだった。






最終更新:2016年10月16日 18:05