魅羽とタマ太はとっても仲良し。
今日も一緒にお散歩するの。
「さて、今日も怪我しちゃったし」
「ニャーン(身体は大事にしろよな。特におっぱいとか……)」
「埴井鋸さんになおしてもらおう!」
「ニャー……(あの子ちょっと怖い……)」
今日は悲しいことがいっぱいありました。
プールでは、水星ちゃんが命を落としました。
葦菜さんの暴挙を止められなかった自分のせいです。
中庭では、輝海ちゃんが命を落としました。
委員長とマコさんの不穏な動きに気付けなかった自分のせいです。
でも、自分を責めて悲しんでばかりもいられません。
馬術部を守るために、戦わなければならないのです。
だから、まずは治療です。
魅羽とタマ太は、埴井鋸のいる特設医務室にやってきました。
「こんにちは。また……治療お願いします……」
「ニャーン……(おっぱい……)」
魅羽はおずおずと挨拶しました。
それは、自分の肉体を切り取って食べさせる鋸さんの治療法が、痛そうで申し訳なく、そして怖いからです。
タマ太のおっぱいコールも弱々しいものでした。
これは、鋸の胸が貧弱だからというわけではなく、鋸からほとばしるサドっ気に当てられてタマ太が萎縮しているからです。
鋸の胸は平均かそれよりやや小さめかぐらいで、喝采を浴びるような貧乳ではありません。
「ふふ、また来たのねミケちゃん。鼻とお尻の具合が悪そうだけど、どちらを治すのかしら?」
(=・ω・=)
治療を終えた魅羽とタマ太は、馬術部に帰ってきました。
勝って負けての繰り返しだけど、治療費を差し引いてもトータル賞金はプラス。
大丈夫、私はよくやっている。
そう思えるから足取りも多少力強くなります。
輝海ちゃんと水星ちゃんのことは、努めて考えないようにしています。
馬小屋の前を通り掛かった魅羽は、奇妙なことに気付きました。
いつもなら魅羽が通り掛かるとワンワン吠えてくる馬たちが今日は静かなのです。
(あれ……散歩中かな?)
そう思って魅羽が馬小屋を覗くと、中にはちゃんと馬たちがいて「ワンワン!」と魅羽に吠えてきました。
でも、それは今までのような怖い吠え方ではなく、優しい吠え方でした。
尻尾を振ってる馬までいます!
魅羽の頑張りを馬たちも認めてくれたのです!
(FSが1上った!)
「おお、これは! やったじゃないか、みゅーちゃん。これで正式な騎士になれるぞ!」
そう言ってくれたのは、シベリアン・ハスナイト先輩でした。
襲撃で受けたハスナイト先輩の怪我はそれほど重くなく、もう登校できる程度には回復しています。
もちろん、埴井鋸さんの能力を使えば一瞬で回復できたのでしょうが、鋸さんは大会以外の怪我は治してくれないのです。
「へっへへー。だといいな。先輩も豆乳飲みます?」
「ニャーン(俺のおごりだぜ!)」
もちろん魅羽の食費で買った豆乳です。
二人と一匹は、馬小屋の側で仲良く豆乳を飲みました。
馬たちが優しい目で静かに見てくれているので、いつもよりも何倍も美味しい豆乳でした!
水星ちゃんや輝海ちゃんのことを思い出さなければ、の話ですが。
「あれ? みゅーちゃん、どうして座らないんだい?」
ハスナイト先輩は、魅羽の様子がおかしいことに気付きました。
「いえ、別に、疲れてない、ですし」
明らかに嘘です。
「……ちょっと部室に来てくれるかい?」
「はい?」
「ニャー?(なんだ?)」
(=・ω・=)
部室に入ると、ハスナイト先輩は中から鍵をかけました。
これで、タマ太を除けば魅羽とハスナイト先輩の二人っきりです。
「フーッ!(ミウに妙な真似するんじゃないだろうな!)」
タマ太は全身の毛を逆立てて警戒しています。
「さて、みゅーちゃん。パンツを脱いでお尻をこっちに向けなさい」
「ええっ!?」
「フンギャロバーッ!(やっぱりそういうことかッ! 食らえ『ねこばく……)」
タマ太が怒声を上げ、全身に爆竹を巻き付け飛び掛かりました!
しかし、ハスナイト先輩は素早いチョップをタマ太の狭い額に打ち込み意識を奪います!
これで、魅羽と先輩は完全に二人っきりです。
「タマ太ーっ!?」
「邪魔されると困るんで眠ってもらったよ。さあパンツを脱ぎなさい」
「……どういうつもりですか?」
「こっちが聞きたいね。なんで鋸さんところで鼻血を治したんだい? 痔の方が優先だろ?」
「それは……その、おしり見せるの恥ずかしかったので……」
「命が懸かってるのに恥ずかしがってる場合じゃないだろ? さあ脱ぎなさい」
「あ、いいこと考えました。私だけ脱ぐのは恥ずかしいから先輩も脱ぐってのはどうでしょう?」
「却下」
ハスナイト先輩は、医者や獣医を多く輩出している家系の出身で、医術の心得があるくのです。
そして、一族秘伝の『霊薬』によって、どんな怪我でも治せるそうです。
患部に霊薬を塗布してもらったお陰で、魅羽の怪我は翌日には全快していました。
でも……あんな格好で、あんな所に指を突っ込まれて薬を塗られるのは屈辱的な体験でした。
もっと屈辱だったのは、可愛い後輩の女の子にそんな格好をさせておいて、冷静そのものだったハスナイト先輩の態度です。
ぜんぶ見られてしまいました。
誰にも見せたことのない場所を、はっきり間近でぜんぶ見られてしまいました。
それなのに、ハスナイト先輩は興奮した様子ひとつ見せませんでした。
我慢できずに襲って来たら流石に困りますが、少しは動揺して見せるのが礼儀ではないでしょうか。
(私って、女性としての魅力がないのかな……)
怪我を治してもらったことに感謝しつつも、落ち込む魅羽でした。
(少なくとも今後、痔の治療は鋸さんに頼もう……)
めでたしめでたし?