もはや懐かしき桜舞う日のこと
いよいよ私の高校生活がはじまる!
ああ、希望崎学園。我が学び舎よ。願わくば素晴らしき出逢いのあらんことを!
魅羽は、けして猫背にならないように、背筋を真っ直ぐにして席から立ち上がり、クラスメートたちを見回した。
自己紹介! 第一印象! 一撃必殺!
スウと息を吸ってからハキハキした声で、魅羽は言った。
「雛代中学出身、猫岸魅羽です。よろしくお願いします」
教室が、一瞬凍りついたような反応だった。その後、ざわめき。
どうやら、魅羽の一発目は大失敗であったようだ。
「はい。猫岸さんがユニークな人なのは保護者の方から聞いてますよ。それじゃ次の人」
冷たい感じのする担任教師はそう言って魅羽を座らせた。
クスクスという笑い声が何箇所かで起きる。完全に、失敗した。
魅羽はしょんぼりと自席に腰をおろした。
“雛代中学校”は既に存在しない学校である。
生徒の失踪事件が相次ぎ、最終的にはハルマゲドンが発生して廃校となったのだ。
最近開校した魔人女学院、妃芽薗学園のルーツであることでも有名である。
そんな中学校の出身を名乗れば、クラスがこんな反応になるのも当然のことだった。
(あーあ、失敗しちゃったなぁ……)
と魅羽が落ち込んでいると、左の席の子が脇腹をひじでツンツン突いてきたので左に顔を向ける。
確か、隣の子の名前は、えーと、月見さん!
月見さんはちょっとタレ気味の目を満月の夜の海のようにきらきらと輝かせながら、小声で話しかけてきた。
(ねーねー、猫岸さんもやっぱり高校デビュー狙ってるクチ?)
(高校デビュー……まあ、そうなるかなぁ)
(今のブラックジョーク、私はいけてたと思うよ!)
(うにゃー、ありがと)
それが、輝海ちゃんと交わした最初の会話だった。
窓の外には校庭の桜並木。
一陣の風に散らされた桜の花弁は、開いた窓から教室の中まで運ばれてきて二人の頭の上に乗った。
「あ」と二人は同時に呟き、同時に互いの髪へと手を伸ばして花弁を摘んで手に取った。
その動きがまるで鏡写しのようで可笑しくて、二人は同時に「ふふふ」と笑った。
その笑顔が、魅羽が希望崎に入って最初に見つけた宝物だった。
(おしまい)
最終更新:2016年10月16日 18:21