はるか昔の出逢いのこと
タマ太と出逢ったのは、私が中学二年の春だった。
帰り道沿いの空き家に痩せた三毛猫が出入りしているのが気になった私は、不法侵入を繰り返すこと三度目、ついに遭遇に成功した。
埃っぽい土間の奥にうずくまる猫の近くに、私は持参したビニル袋から煮干しを取り出して置いてやった。
一瞬、警戒心と空腹がせめぎ合った様子もあったが、警戒心は瞬殺され、その後、煮干し達も秒殺された。
「ニャーン!(おいしかった!)」
久し振りに満腹するまで食べたのだろう。
猫は満足げに鳴いて、私の方に半歩近付いてから床に丸まった。
「おまえ、さ、親とかいないの?」
「ニャア?(おやとか?)」
「……いないんだろうな。うちも母さんが私を産んですぐ死んじゃって、父さんと二人きりだけど、家族がいるだけマシだよね」
「ニャーン(おさかな、おいしかったよ)」
飢えに苦しむ子猫を一匹、空腹から救うことができ、私はとても充実した気持ちだった。
名前が「猫岸」ということもあって、犬か猫かと問われたら私はダンゼン猫派だ。
「そうだ名前!“おまえ”じゃ呼びづらいもんね。どれどれ、男の子かな? 女の子かなー?」
腋の下に手を入れて持ち上げ、股間を確認する。
煮干しですっかり懐柔できたようで、抵抗はまったくなかった。
んー、ついてる。男の子だ。
「よし、それじゃ、おまえの名前は“タマ太”にしよう!」
「ニャー……!(たまた……!)」
なんか下品な命名になっちゃったかもしれないが、ほかの名前は考えつかなかった。
本人(本猫)も嬉しそうだし、悪い名前じゃないと思う。
「そして、誇り高き“猫岸”の名も与えよう。猫岸タマ太! 今日から私の弟になりなさい!」
「ニャーオ!(おとーと!)」
それから数週間、私は姉の務めとして煮干し、鰹節、オカラなどをせっせとタマ太に運んでやった。
やがてタマ太の身体はみるみる立派になり、狩も上達して姉の助けはいらなくなった。
自慢の弟だ。
「だが弟よ、恩義をけして忘れず、姉が困った時には必ず助けるのだぞ」
「ニャーン!(当然だぜ姉ちゃん! まかせとけ!)」
(おしまい)
最終更新:2016年10月16日 18:22