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昼休み。月見輝海はふと思い立って馬術部へ行きました。
馬場には誰もいません。そこで馬小屋へ行ってみることにしました。
中へ入ってみるとお友達の魅羽ちゃんが一人で掃除をしていました。
「魅羽ちゃんおつかれさま。掃除ひとりで頑張ってるんだね」
あたりを見回しながら独り言のように漏らした問いに、
「うん、馬達と早く仲良くなりたいからね……。
 皆に頼んでやらせてもらってるんだ。へへへ」
魅羽は額の汗を拭いながら、
ちょっぴり残念そうに、それでいてとても楽しそうに笑います。

「そうだ」
そんな魅羽を微笑ましく眺めていた輝海は鞄から魔法瓶と、
薄っすらピンク色した小さな塊が詰まったガラス瓶を取り出しました。
魅羽はいかにも興味津々といった様子で見ています。

「はい」
輝海は魔法瓶のフタを外して魅羽の手に持たせると、
ガラス瓶からピンクの塊を2つ取り出し、まぶされていた白い粉を払うと、
魅羽の手のコップの中へ落とし、魔法瓶から透明な液体、
湯気の立つお湯を注ぎました。
すると辺りに例えようのない独特な香りが漂い、
お湯の中ではピンクの塊がふわりとほころんで小さな花に姿を変えました。
「わぁ、桜だ……」
季節外れの桜に魅羽は驚きの声を上げます。
「うん、桜湯。桜茶っていったりもするね」
そういって輝海は目線で桜湯を飲むように促します。

コクン。

一口含むとほんわりとしたしょっぱさとすっぱさが。
飲み込むと鼻からふわっとあの桜餅みたいな香りが抜けました。
まさかこの時期に桜の花を楽しめるなんてちょっとしたサプライズです。

「体を動かして汗をかいたら水分・塩分とクエン酸なんかを摂るのはいいんだよ」
風流のいまいち分からない輝海らしく質実な説明です。

だけど本当にそれだけでしょうか?
この桜は、二人が初めて出会ったあの日、窓の外に咲いていたあの桜です。
その花を摘んで水洗い。
ゴミやガクを取り除いて数日塩漬け。
水分が出たら絞って梅酢に漬けて、2-3日したら絞って天日干し。
最後に塩をまぶして容器に密閉。
難しくはないけど手間暇掛けたそれは。

コップの中で2輪。並んで可憐に咲いています。

輝海は魅羽の手からコップを取り上げちょっと迷うと、
いたずらっぽく笑って魅羽が口を付けたところからコクリと飲みました。
目をまん丸くした魅羽は破顔してアハハと声をはじけさせます。
舌をちろりと出した輝海も照れくさそうにウフフと笑いました。

窓の外では桜が青々と茂らせた葉の影で、涼む小鳥がキョキョキョと囀ります。
季節は夏。輝く光。魅かれる笑顔。
多感な10代の少女たちの、宝石のような友情。
その先にはきっと幸いが待っているのです。






最終更新:2016年10月16日 18:24