ドラゴンを狩るにゃん

私の名前は猫岸魅羽。人間だ。
雛代中学を卒業して、希望崎に入学した、ごく普通の人間だ。
不思議なスコップの力によって魔人並の強さを手に入れたけど、それ以外はまったく普通の人間だ。

それじゃあなんで、私は猫の怪物に変身してしまったのか。
スコップの副作用だろうか。
そうかもしれない。
でも、心の奥底で渦巻いている嫌な予感は決して消えてくれない。
自分は本当は人間じゃなくて、怪物の方が本来の姿なのではないかという気がしている。

大丈夫。
そうだとしても大丈夫。
答えはもう、輝海ちゃんから貰っている。
桜舞うあの日の輝海ちゃんの笑顔。
ちょっとすっぱくて春の香りがする桜湯。
豆乳片手に話したたくさんの色々なこと。
それら全ては間違いなく「人間・猫岸魅羽」の大切な思い出だ。

蟇郡委員長&マコさんとの戦いで倒れた輝海ちゃんは、今、病院で生死の境をさまよっているという。
面会することもできない危険な状態だそうだ。
どうか無事でいて欲しい。
馬術部の部室に飾られた騎士聖人・聖ゲオルギウスのタペストリィに、魅羽は祈りを捧げた。

聖ゲオルギウスはキリスト教の聖人で、馬術をたしなむ者にはなじみの深い存在だ。
馬術にあまり縁のない方でも、“龍退治のブリティッシュ・コーギナイト”と言えばピンとくるだろう。
馬術部のタペストリィにも、ブリティッシュ・コーギーという品種の馬を駆り、カッパドキアの邪龍を槍でひと突きにする聖ゲオルギウスの勇壮な姿が描かれている。

(ドラゴン……!)

聖ゲオルギウスの姿を見て、魅羽は途方もないことを思い付いてしまった。
竜退治こそは騎士として最大の誉れである。
もし、自分が竜退治を成し遂げたのなら……!
それは、誰もが認める「人間・猫岸魅羽」の偉業となろう。

決めた。私は副会長の龍さんに挑もう。
そして、必ずや打ち倒し、ドラゴンスレイヤーとして私の名前を歴史に刻み込むんだ。

決意に燃えて立ち上がる魅羽。
振り向くと、部室の入り口に誰かが立っていた。
黄金に輝く鎧を纏った堂々たる騎士であった。

「龍に挑むつもりか……そのままでは君は死ぬことになる」

黄金の騎士は、魅羽にそう告げた。

(『ドラゴンを狩るにゃん』おわり。次回につづく)






最終更新:2016年10月16日 18:40