古強者達の地下闘技場

わああああーっ!
地下闘技場の観衆から大歓声が上がる。
スポットライトに照らされた金網のリングでは、ゴリラの如き筋肉の老人が、小学生のような少女の脚を掴んで逆さ吊りにしていた。

「ぐふふゥ……ワシの勝ちじゃァ……! 見とるかクミコォォォッ!!」

勝利を確信した老人は孫娘の名を叫んだ。
後は金網なり床面なり叩き付ければ勝負ありだ。
しかし!

「まだ終わってないよっ!」

ど・み・そ!
逆さ吊りになった少女の拳に填められたナックルが電子音とLED明滅パターンでモード変更をお知らせする!
出力電圧リミッターを解除した違法改造医療機器「低周波ナックル」が彼女の武器だ!
ぱしゅん! 軽い電炸音と小さな閃光!
少女はナックルで自分自身の太腿を電撃殴打した!

「やあっ!」

少女の短い脚が驚くべき力を発揮してゴリラ老人の巨腕を振り解く!
ナックルから放たれる電流によって強制的に筋肉を駆動して潜在能力以上の脚力を発揮したのだ!
だが限界を越えて強制動作させられた脚へのダメージは大きい!

次で決める!
少女は宙返りしながら低周波ナックルのモード変更スイッチを二度押下!
どれみふぁそらしどー!
ナックルが電圧フルチャージの電子ノーション!

「応急対所攻撃っ!」

ずばちゅんっ!
まばゆい閃光と空気を震わせる電炸音!
宙を舞う少女は右腕を繰り出し、電気パンチで巨大ゴリラ老人のこめかみを打ち抜いた!

「ぐぼああァーッ!!」

泡を吹いて倒れる老人!
着地した少女は足の痛みによろめき膝をつくがまだまだ元気な様子!
勝負あった!

「うゥーん。やっぱり、ゆにばちゃんには勝てんのゥ」

心配して駆け寄った孫のクミコさんに抱え起こしてもらいながら、能力が切れて本来のやせ細った姿に戻ったお爺さんが勝者の少女を讃えた。
彼女こそは臨戦介護師・福篠単波。
老魔人養護施設「まつごのさけ」地下に建造された地下闘技場の発案者にして若きチャンピオンである。

ここは、平和な時代にあって幸か不幸か老齢まで生き延びてしまった戦闘型魔人のためのレクリエーション施設なのだ。
身体を動かすことによって、痴呆症が劇的に改善した入所者もおり、良い効果が出ていると言えるだろう。
たまに死者も出るが、学園自治法に準じた法適用により問題なく運用されている。

ぱしゅ、ぱしゅ、ぱしゅっ。
地上の職員更衣室に戻ったゆにばちゃんは、汗で濡れた体操着を脱ぎ、痛めた脚を低周波ナックルでほぐします。
昼間は福祉の大学で勉強、夕方から夜にかけては老人ホームの準職員、おまけに地下闘技場でのバトル。
ゆにばちゃんの毎日は多忙ですが、充実しています。

希望崎学園の三年生だった頃に参加したハルマゲドン、通称「War&Wall」から数年が経ちました。
進学した者、就職した者、なぜか未だに希望崎にいる者。
生き延びた学園の仲間は、それぞれの道を歩んでいます。
例えば、今もゆにばちゃんと親しくしてくれている雨竜院家の畢(あめふり)ちゃんは短大を卒業して今年、念願の保育士になったそうです。
僕もがんばらなくちゃ、と気を引き締めるゆにばちゃんでした。

(そう言えば葦菜さん……)
ゆにばちゃんは「War&Wall」で転校生に捧げられそうになった、ミス・ダンゲロスの埴井葦菜さんのことを思い浮かべました。
畢ちゃん経由で伝え聞くところでは、葦菜さんは呪いを受けて男性化してしまい、呪いを解くため格闘大会に参加しているとか。
(浮気者の彼氏を持つと大変だねっ!)
ゆにばちゃんは葦菜さんに同情しました。

(ところで……仕事の前にもう一戦あるのかなっ?)

ゆにばちゃんの介護第六感が先程から、何者かが更衣室に潜んでいることを伝えています。
ナックルの安全装置を解除。
どれみふぁそらしどー。

(そこだっ!)

ぱちゅんっ!
金属製のロッカーに軽く電気パンチで通電!

「ギャニャッ!(アバッ!)」

ロッカーの中から、職員の手荷物に紛れ込んで潜入し、その後昼寝をしていた猫がびっくりして飛び出してきました。
その猫は三毛猫で、二本の尾をはやしていました。

「ニャー……(うう……小学生なみのダブルAおっぱい……かわいい……)」

電撃を受けてフラフラになりながらもおっぱいレポートは忘れないこの根性!
この猫はもしかして、ミケナイトのマスコット、タマ太ではないでしょうか?
でも、どうしてこんな所に?

「うーん、可愛い猫ちゃんだけど、衛生上出てってもらわなきゃねっ!」

ゆにばちゃんは新しい体操服に着替えてエプロンを羽織ると、電撃でぐったりしているタマ太を抱えて中庭に向かいました。
猫アレルギーの入所者がいたら大変なことになるので、猫はすぐに追い出さなければなりません。
でも、その前に中庭を掃除中の夢見花さんに事情を聞く必要があります。
タマ太が潜んでいたロッカーは、研修生の夢見花卒羽さんのものだったからです。

「あっ、タマ太さん!」

ゆにばちゃんの姿を見た卒羽は、手に持ったホウキと髪に持ったチリトリを置いてあわてて駆け寄りました。
諸事情で妃芽薗留学を取り消された卒羽は、熟練の魔法少女・後藤うさの監視の元、この施設で人間界研修中です。
自在に動く長い三つ編みはとても便利だし、四丁トカレフ触手拳で闘技場でも活躍しています。
噂によると、葦菜さんの彼氏を一度は殺害したこともあるとか……?

「ごめんなさい、福篠さん。その猫……タマ太さんがどうしても老師に話があるって言うものだから……」

卒羽はタマ太を連れ込んだ理由を慌てて説明しました。
その時! どこからともなく中庭に声が響きます。

「ほう、儂に用があるじゃと……?」

中庭の地面から大量の粘液が噴出し、巨大な粘液の柱を形作りました!
ばしゃあっ!
粘液の柱が崩れると、そこにはウミサソリの鎧を纏った小さな魔法少女がいました。

「瞬間移動っ!? 後藤さんいつの間にそんな技を?」

驚くゆにばちゃんに、後藤さんの弟子の卒羽が解説します。

「『ヴぃすかす・テれぽーと』……噴き上げた粘液の死角から密かに走って近付き、瞬間移動で現れたように見せかける老師の移動技です!」

「いや、そこは解説せんといて欲しいんじゃが……」

せっかく格好良く決めた登場演出の種明かしをされて、赤面する後藤うさ。
気を取り直して、ゆにばちゃんに抱かれたタマ太に語りかけます。

「ニャーン(猫岸家のことは調べさせてもらったよ。タマ太くん、君は猫岸舞さんの飼い猫だったのじゃな)」

「ニャ……(いや、俺は……)」

「ニャオ(ああ、すまぬ。“弟”と言ってあげるべきだったのう)」

「……」

「ニャーン(君の方から来てくれて助かった。教えてくれ。ミケナイトとは、“猫岸魅羽”とは一体何者なのかを)」

「ニャーン……?(言えば……俺の頼みも聞いてくれるか……?)」

(『古強者達の闘技場』おわり)






最終更新:2016年10月16日 18:49