水星と柊先輩と新入部員と。【中編】
鬼遊戯大会一日目。
水星さんはミケナイトさんに挑んで敗北した。
負けてしまったのは残念だったけど、生き延びたことにほっとした。
二日目。
水星さんは一勝一敗だった。
今回もなんとか生き残れたみたいだ。戦闘の一挙一動に喜び、嘆き、心の奥底から水星さんを応援する自分がいた。
三日目。
プールでの水着大会。
恐れていたことが起きてしまった。水星さんは、死んでしまった。
死亡判定が下り、力なく膝をつく柊先輩の姿は、見ていてとても痛々しかった。
柊先輩が負ったショックには到底届かないだろうけど、私もぽっかりと心に大きな穴が開いてしまったかのようだった。
どうしたらいいのだろう。
残された柊先輩に対して、何かしてあげたかった。
でも、こんな私が何をしてあげられるだろうのか。悩み、迷い、考え抜いた。
そして、私は決意した。
ここが正念場だ。勇気の使い所だ。
今まで楽しみを与えてくれたお礼に、最大限自分にできることをしよう。
◇◇◇
私は、空き教室の前に居た。正確には、天文学部の部室として使われている教室である。
ここに来るまでの廊下で何度も立ち止まった。今も足が震えている。それでも、勇気を振り絞るんだ。
一度、深呼吸をする。多少、気持ちが落ち着いた気がする。
一歩踏み出して、ドアをノックする。
「どうぞー」
「……失礼します」
私は今、柊先輩の目の前にいる。女性としては高い身長のはずの柊先輩は、あまり大きく見えなかった。何か抜け落ちてしまったかのようで、地に足がついていないような印象を受けた。
それでも、いいやだからこそ、私が少しでも助けにならないといけないと思った。
「あの、入部したいんですけど……」
私の決意とは、天文学部に入部すること。
水星さんは、部員を集める為に鬼遊戯大会に参加したのだ。少しでも人気を得て、部員を増やすために。
今の所、新しい部員は入っていないようだった。ならば私が、二人に魅せられた第一人者として入部しようと思った。新しく部員が入ることで、一人になってしまった柊先輩を喜ばせられれば良いな、と。側にいることで、少しでも柊先輩の寂しさを埋めることができればいいな、と。
無論、それだけの理由で入ることにしたのではない。そんな慰めの為だけに入部されても迷惑だろう。水星さんと柊先輩が欲していたのは、一緒に楽しく天体観測できる部員だ。元々、私は一度天文学部に入部しようとして躓いている。最初天文学部に入部しようとしたのは、勿論天体観測が好きだからである。今でもその気持は変わっていない。
「一年生かな? はじめまして。私は部長の柊美星です」
「えとぉ……はじめまして、一条千冬と言います。その、私水星さんに憧れて……」
「……あぁ、なるほど。主に活動してるのは私しかいないけど、それでもいいかな?」
「は、はい……」
緊張して、声が裏返ってしまった。恥ずかしい。
「さっきも言った通り、部員がとにかくいなくてね。一人でも入ってくれると助かるよ。天体観測とか好きなの?」
「はい!」
これは、元気に答えられた。普段おどおどしている私でも、自分が大好きな物に関してはこうしてはっきり答えられる。
「そっか。それは良かった。じゃあ入部届けを見せてもらえる?」
「あ、はい」
鞄から入部届けを出し、提出する。
こうして、私は天文学部の一員となったのだ。
◇◇◇
入部届けを出してから、しばらく話をした。
最初は、思ったよりも気丈に話すなぁ、と思った。大切な人を失った直後にしては、自分を律して平静を保っていると思った。
――でも、違った。
彼女は平静ではなかった。話してみて分かった。
彼女は、壊れていた。
柊先輩は水星さんが死んだことを受け入れてなかった。現実から逃避し、水星さんは生きてるものだと思い込んでいた。
私は、悲しかった。憧れの人がこんなことになっているなんて。
柊先輩の今の様子を知ったら、水星さんは悲しむだろう。
だから。
私は、現実を受け入れて欲しかった。その一心で訴えた。
「あの……先輩、聞いて下さい。水星さんは、死んだんです」
なるべく真摯な気持ちを込めて、先輩の顔を見る。
「水星が、死んだ……?」
「先輩その場にいたでしょう……? 確かに水星さんは死亡判定が下ったんです」
「そんなことない! 水星は、今私の部屋で寝てるだけで生きてる!」
その言葉に私は戦慄する。まさか……
「え? 先輩の部屋に今居るのですか? それって死体を……」
「死体じゃない! 水星は、私の水星は! 生きてるの!」
柊先輩は、ヒステリック気味に叫んだ。
私は怖くなった。一歩、知らずと後ずさっていた。
「ぁの……違います。水星さんは死んだんですよ、現実を見ましょうよ……」
「死んでない――!!」
ビクッと私の身体が震えた。
駄目だ。どうしたらいいか分からない。頭の中がパニックになっている。
ごめんなさい、水星さん。私には、柊先輩を正気に戻すことは出来ないみたいだ。
「ごめんなさい……私、私出直してきます……!」
逃げるように、扉を開け放って、私は部屋を出て行った。
悔しかった。柊先輩の、水星さんの力に成れなかった。少しでも支えになるようにと入部したはずなのに。
私は、役立たずだ。
涙が一滴、頬を伝った。
【続く】
最終更新:2016年10月16日 19:27