『最速に挑む者』

購買部でのアイテム交換を終え、追加の武器を入手して御機嫌のミケナイト。
しかし、その帰り道に出会ってしまった。
戦ってはいけない相手のひとり、ビンセント・タークハイツに。
不運な怪我が重なってランキング下位に甘んじているが、ビンセントの打撃力は最強クラスのである。
その必殺技「不在票投函」は、龍ですら撃破に三撃を要するミケナイトの耐久力を二撃で突破する超破壊力だ。
同じ屋外体育系陣営でもあり、できるなら避けたい相手だ。

でも。
ミケナイトの心の中で、野球帽さんがわらう。
「大義のためなら恥を棄てて逃げ回るのも立派な騎士道だぜ」と。
それも、ひとつの騎士道ではあるだろう。
でも、今は逃げるべき時じゃない!
ミケナイトは意を決して名乗りを上げた。

「宅急部のビンセント様とおみうけします。我が名は猫耳の騎士ミケナイト。尋常に勝負していただきたく!」

ビンセントにとっても、ミケナイトは戦いたくない相手だった。
馬術は最速競技のひとつであるだけではない。
宅配においても、機械動力を使わぬ条件ならば馬術こそが最速の高速系宅配術なのだ。
だが、徒歩戦闘のミケナイトならば話は別だ。
(馬さえなければ、俺の方が確実に速い!)
規格外の速さを持つ真野に苦渋を嘗めさせられ続けて尚、ビンセントは己の速さに自負があった。

「宅急部、ビンセント・タークハイツ! ドラコンスレイヤーを狩らせてもらう!」

名乗りを終えた次の瞬間には、ビンセントの拳がミケナイトの腹部にめり込んでいた。神速!
だが、龍と互角以上に殴りあったミケナイトがこの程度で沈むわけがないことは、ビンセントも重々承知だ。
ビンセントは即座に反撃に備える。

「狩るにゃん……」
ミケナイトの周囲にレイノルズ数制御を受けた非定常な狩るにゃん渦が広がるのをビンセントは感じた。
必殺技が来る!
「ドラギ……」
今だ! ビンセントは龍殺しの特大スコップを避けようとせず、逆に踏み込んだ!
斬撃スイングにパワーが乗り切るよりも前のタイミングで敢えて喰らう!
「にゃっ!?」
ミケナイトがバランスを崩してよろける!
ビンセントは短く息を吐きながら、渾身の神速拳をミケナイトのボディに叩き込む!
「ぶにゃごぶぉーっ!!」
キリモミ嘔吐しながら吹っ飛ぶ猫耳の騎士!

地面で一度バウンドし、なおも回転しながら吹っ飛んでいくミケナイト!
勝負あったか!?
いや違う! ビンセントを見る狩猟者の目を見よ!
この回転は攻撃の予備動作だ!

「ジャッジメントーっ!」
回転力を乗せた屠龍大円匙が高速で射出されビンセントに突き刺さる!
ミケナイトは大円匙に取り付けた鎖を引いて武器を回収する!

(ぐ……カウンターも乗らない大気弾でこの威力……なんて馬鹿げた破壊力だ……。だがこれはチャンス!)
武器をキャッチしてから攻撃モーションに移るまでの隙に、ビンセントの速さならばミケナイトに接近して一撃を与えることができる。
全選手中最強クラスの破壊力を誇る必殺技、不在票投函を受ければ流石の騎士もそれで終わりだ。
だが。ビンセントは、ミケナイトの攻撃力を怖れた。
“不在票”はその破壊力と引き換えに、自らのダメージも甚大なハイリスク必殺技である。
もし万が一、ミケナイトが不在票を回避してカウンター攻撃をしてきたら、俺の身体はどうなってしまうのか……。
(編注:(27*2+5)*1.5*2=177点。必殺技が三回転すれば更に+30で200オーバー。相手は死ぬ)
ビンセントの選択は、三度目の神速攻撃だった。
そこで、勝負は決まった。

馬術は、最速競技のひとつである。
三連休にミケナイトがこなした特訓は、龍対策だけではなかった。
大気弾「ジャッジメント」も、回避困難三連撃の「ヴォルテックス」を「ドラギニャッツォ」に強化したのも、“最速”に挑むためである。
ミケナイトは、ゴールデン・レトナイトの恐るべき高速騎馬突撃「ゴールデンラッシュ」を見切る特訓を繰り返した。
それに比べれば。
猫の高い動体視力をもってすれば。
ビンセントの神速攻撃は、まるでコマ送りのようにゆっくりと見えた。

見えることと対処できることは別なので、実際2度もモロに食らってしまったが、同じ技が三度目ならば。
ミケナイトは冷静に、屠龍大円匙の柄でビンセントの拳を受け止めた。
防御に成功しもビンセントの攻撃は重く響くが、ダメージの半分は身を捻って後ろに受け流す。
「狩る……」
勢いを殺さず全力で回転。
ビンセントの破壊力を活かし、ミケナイト自身の膂力を更に上乗せする。
「にゃん……」
渦巻く狩るにゃん非定常ヴォルテックス!
体勢を崩したビンセントは、先程のような防御行動は取れない!
「ドラギニャッツォーっ!」
一回転して勢いを付けた防御からのカウンター必殺スコップ斬撃がうなる!
ビンセントは体勢を崩しながらも右足を上げて脛で防御を試みる!
屠龍大円匙はビンセントの脛骨と腓骨をへし折りながら振り抜かれる!
殺人スイングを受けたビンセントは5メートルほど宙を舞い購買部の陳列棚に撃突、撒き散らされた文房具の中で動かなくなった。

ビンセントは、決して弱い選手ではなく、普通の意味では遅い訳でもない。
だが、“最速”の真野来人や、それに次ぐ速さの一太郎を仮想敵として特訓をしたミケナイトに神速攻撃で挑むには、あまりにも遅すぎた。

沸き上がる喝采の声を耳にして、ミケナイトは購買部前で行われているもうひとつの試合の方を見やる。
いままさに、ミケナイトとランキング同額3位の蟹田正継が力尽きたところだった。
倒したのはランキング2位、審判部の一太郎!

「よーし、絶対に狩るにゃん!」

ミケナイトは屠龍大円匙に、猫耳兜でぐわんと一発頭突きをぶっつけた。
そして、狩るにゃんフィールドを全力で展開!
スピード違反を許さない、ミケナイトの強い意思が一太郎を捉えた……!

(『最速に挑む者』おわり。次回に続く)






最終更新:2016年10月16日 20:03