冥王星の暗躍

「……まさか、あんなアイテムがあるなんて!」

暗い部屋で、鈍い打撃音がした。拳を壁に打ち付けた音だ。
希望崎の制服に身を包んだ少女がそこに立っていた。
彼女の名は、冥王星。険しい顔で虚空を睨んでいる

「……気持ちは分かるけど、そう荒れるのはよくないと思うな」

隣に立っている少年は、諌めるように、しかし優しい声で冥王星に声を掛けた。
少年の名は、カロン。冥王星の衛星であり、常に彼女を支えてきた無二の存在だ。

「一旦落ち着こうか、冥王星ちゃん。状況を整理しよう」
「……うん、ありがとカロン。そうだね、事の始まりから整理していこうか」
「まず、僕達はある計画の為に、水星ちゃんを鬼遊戯大会に参加させた」
「そう、計画の一端として、彼女を殺すためにね」
「そして目論見通り彼女は三日目の試合中に命を落とした。ここまでは良かったんだけどね」
「けれど、四日目に彼女は蘇っていた」
「『友情の証』というアイテムによって蘇ったらしいね。まさか死者を蘇らせるアイテムがあるとは流石に驚いたね」
「そう、あのアイテムさえなければ『今回の』目標は達成できたというのに」
「でも、『たられば』に囚われて物事を考えるべきではない。普通の人間からしたら気の遠くなるような時間を過ごしてきた僕たちは、経験上わかっていることだろう?」
「そうだね。私達は計画の為、前へ進むしかない」
「となれば、どうする? 鬼遊戯大会の日程はそう残りがあるわけではないね」
「試合中に彼女が死ぬのを待つ、というのが本来の方針だった。けど、そんなのを待ってたら生き延びてしまうかもしれない」
「――ということは?」
「私達で、なにかしら手を加える必要がありそうね」
「そうだね。そしてこういう時、狙うべきは相手の弱点だ」
「弱点ね……水星が今同棲している相手の二年生の子。彼女を狙うべき……?」
「うーん、どうだろう。彼女は一度壊れてしまったようだけど、今は正常に戻っている。却って盤石になっていると見るべきじゃないかな」
「……つまり何が言いたいの、カロン? 貴方は優しいけれど、時々迂遠な話し方になるのが悪い癖よ」
「それはすまないね。率直に言おう――狙うべきは、最近天文学部に入部した『あの子』だよ」

◇◇◇

「ひぐっ……えぐっ……やめて、ください……」
「悪いね。僕も女性を傷つけたくはないんだけど、冥王星ちゃんの為とあらば、ね」
「ちょっと。それじゃ私が悪いみたいじゃない」
「ここまでしといて自分が悪いと思ってないのかい? それは流石に無自覚にも程があるよ」
「まぁ、そうね。私は外道に落ちても目的を達成する覚悟を決めたんだった。認めるわ、全部私が悪いの。だからそこの子、千冬といったっけ? あまりカロンを責めないでね。カロンは私の為に行動してるだけだから」

少女は冥王星の方を向いて怯えるように、そして同時に敵意を僅かに示すような表情で口を開いた。

「こんな、ことして……何になるんですか……」
「さてね、貴方には関係ない話よ。それよりカロン、ちゃんと痣がバレないように殴ってるよね? 水星にバレたら計画は頓挫しちゃう」
「勿論、そこはちゃんと考えてるよ」
「水星、さん……? 貴方達、水星さんに何かしようとしてるんですか……?」
「私達がするんじゃなくて、貴方にしてもらうの。貴方が協力してくれるようになるまで、この暴行は止まらないから」
「そ、んな…… でも、私は屈しませ、ぅぐっ!!」
「協力してくれると約束してくれれば、すぐ終わるんだけどねぇ」
「この調子じゃあ時間がかかりそうね。まぁ、夜はまだまだ明けないわ。じっくり待ちましょう、カロン」
「そうだね、冥王星ちゃん」

夜は更ける。まるで準惑星の薄暗い野望で塗りつぶされていくかのように。

【END】






最終更新:2016年10月16日 20:05