【バレット・レイン、アイ・ミス・ユー】

雨。蒸し暑い空気をじっとりと地上に塗り込めるような、陰鬱な雨。
あの人は、もう、帰ってこない。
あの人と話していると、つまらない現実を忘れることができた。でも、もう二度と逢えない。
雨。忌々しい雨。この雨が、あの人が放った弾幕だったらいいのに。1

父親が引き起こした事故によって故郷の町に居られなくなった矢達メアは、
東京の親族に身を寄せ、妃芽薗学園の中等部に編入した。
故郷を失い、友人を失い、メアの心は荒んでいた。つまらない現実に失望していた。そして、雨が大嫌いだった。2

現実を見限ったメアの心は、物語の中に逃げ込んだ。
もともと読書好きだったこともあり、胸躍る架空世界に耽溺し、現実への興味を失っていった。
だが、図書委員となったメアは、巨大な妃芽薗図書館の中で、夢見花卒羽と出逢った。3

夢見花卒羽と書いて「どりみっか・どりみ」と読む。
高等部の図書委員である卒羽は、日本人ではなく、地球人ですらなく、異世界からの留学生で、魔法少女であった。
なんという非日常的存在! 現実に倦んでいたメアは、卒羽に興味を持ち、親しくなった。4

卒羽は魔法少女能力として、特定の“本”に入り込む力を持っていた。
彼女が語る“本の世界”の旅は、メアにとって理想郷そのものだった。
四丁トカレフ触手拳を振るう卒羽の冒険譚に憧れ、いつかメアは自分もそんな経験をしてみたいという思いを強くした。5

……だが、夢見花卒羽はもういない。
所属していたサバイバルゲーム部の活動で希望崎学園に出向いていた卒羽は、
部活動同士が潰しあう“連合間紛争”に巻き込まれ、妃芽薗に帰ってくることはなかった。
メアは思った。やはり現実世界はつまらない、と。6

卒羽の夢「いつか素敵な触手と出逢って仲良くなりたい」は叶ったろうか。
多分、叶っていないだろう。卒羽が捲る“本の世界”の続きをメアが聞くことも、もうないだろう。
そう。現実はつまらないのだ。
夢が叶うとは限らず、人生という物語は理不尽な展開を許容し、伏線は放置される。7

雨。降り続く雨。あの人はもういない。
四丁トカレフから弾幕の雨を降らせる夢見花卒羽は、遠くに行ってしまった。
メアが独り見つめる図書室の窓の外で降り続けるのは、ただただ憎いだけの雨。
悪臭を放つ、雨竜院金雨の穢れたる雨。8

メアは現実への失望を更に深め、つまらない日常から抜け出す冒険への渇望はますます強まった。
矢達メアが運命と出逢い、その人生が鮮やかな色彩を取り戻すのは、まだ少し先のことである。
いまはただ、去っていった卒羽のことを想い涙するメアだった。9

(【バレット・レイン、アイ・ミス・ユー】おわり。「ダンゲロス流血少女3」に続く)






最終更新:2016年10月16日 20:07