猫の願い
現ランキング2位、審判部の一太郎。
ミケナイトが優勝者となるためには、必ず狩らねばならぬトップ2の一人だ。
そして……生徒会特別役員となった輝海ちゃんを初日退場に追い込んだ相手でもある。
許さない。
退場させたことは別にいい。
輝海ちゃんは一命を取り留めたし、これ以上、辛い戦いをしないで済むから。
許せないのは、試合後に無理矢理に痔の治療を迫ったことだ。
あと、ついでに言えばハスナイト先輩も一生許さない。
ミケナイトはビンセントと、一太郎は蟹田と戦っていずれも手痛いダメージを受けている。
勝負は一撃で決まるだろう。
「猫耳の騎士に問う」
一太郎は、ミケナイトの戦意にゆさぶりをかける。
「君は人なのか、獣なのか。ルールの守護者たる風紀委員に相応しい存在なのか。答えてもらいたい!」
その拳は固く握り締められている。
返答如何によっては、鉄拳による審判をくだすつもりだ。
「私は――私の本性は獣です」
胸に刺さる辛い質問に、ミケナイトは堂々と答えた。
狩るにゃんフィールドを凛として展開、一太郎の身体に狩るにゃん渦がまとわりつく。
「そして私は人間です!」
屠龍大円匙を振りかぶり、突進する。
「人の規範を守り、人と繋がって、人として生きていきたい!」
突進の全運動エネルギーと、輝海ちゃんへの想いを剣先に乗せた必殺斬撃、狩るにゃんドラギニャッツォ!
「ふっ、いい答えだ」
一太郎はニヤリと笑って、特大スコップのよる攻撃を身じろぎもせずその身で受けた。
白球よりも速くフィールドを駆ける強靭な脚力で床を踏み砕き、かろうじて踏みとどまったが、力尽き、仰向けに倒れる。
ミケナイトの勝利である。
ミケナイトは既に確信に至っていた。
自分はもともとは猫であり、人間の姿を得たのはこの一年以内のことであると。
彼女には、矛盾する二つの記憶があった。
猫岸魅羽として生きてきた十五年間と、心の奥深く封印されていた獣が持つ、子猫としての記憶。
猫の記憶は曖昧で断片的だったが生々しい実感を伴っており、それと比べると魅羽としての記憶は書き割りのように平板だった。
そして、自分が卒業したはずの雛代中学校が、50年も前に廃校になっていたことを知り、人間としての記憶は何者かに与えられた偽りの記憶であると悟ったのだ。
でも、希望崎学園では、間違いなく人間として生きてきた。
猫耳の騎士“ドラゴンスレイヤー”ミケナイトは人間として龍を討ったことを、多くの人が見てくれた。
だから、悩まない。
猫岸魅羽は、ただ真実を知りたい。
(タマ太……後で必ず、教えてもらうからね……!)
タマ太は、きっと全てを知っているはず。
勝ち続け、生き延びて、タマ太と再会して答えを得ること。
それが、今のミケナイトの願いである。
(『猫の願い』おわり。第7ターンに続く)
最終更新:2016年10月16日 20:14