■真野さんアイテムありがとうSS■
天気の良い、昼下がりの中庭。
手元のメモを見ながら「もうっ、なんで私がこんなお使いみたいな真似を……!」と、ぶつくさ文句を言いながらせわしなくやって来たその勝気な美人はやはり、せわしなく去って行った。
「(屋外運動部とか言ってたけど、あんな奴いたっけか……?)」
野球帽は首を傾げた。
野球帽が最後にその美人を見た時はプールであり、その時彼女は屈強な黒人男性だった。
「はい、これアンタの取り分。感謝しなさいよね!」と言って先ほど渡された二つの品を見やる。
今では珍しくなったVHSのカセットに、標準的なバット。
カセットを懐にしまい、野球帽はバットを構えた。
「かっきーん!」
スイングと共にそんな声をあげてみる。
真野という男は、死んだらしい。
関わりは無かったが、こうして死後アイテムを同じ陣営に配布するくらいだ。
存外情に厚い、いい奴だったのかも知れない。
元・ランキング1位、真野来人。
良くも悪くも、彼の話題を聞かない日は無かった。
今大会「最強のファイターは誰か」と尋ねれば、きっと意見は割れる。
サイコパス書道部、ランキング1位の落語家、あるいはつい先日ランキング1位・2位をまとめて殺した科学部、鉄仮面の猫耳戦士に残虐文芸者。
議論はそうそうまとまるまい。
ただ、「最速のファイターは誰だったか」と尋ねた時、人々は渋い顔をしながらも、皆揃って真野の名を挙げるだろう。
それほどまでに彼の速さは圧倒的だった。
彼の戦い方はキャラクター性も相まって、反感を買うものだった。
自分の勝てる、弱い相手をいの一番に狙い、余力を残して次の獲物を狩る。
多くのファイターがそんな戦法は卑劣だと非難し、彼の死を望む者は少なくなかった。
そんな敵ばかりの環境においても彼は勝ち続けた。
死の直前まで彼に攻撃を当てられた者はいなかった。
ひかりのように駆け抜ける彼を捉えられる者はごく僅かだった。
野球帽も戦場で、何度か真野の姿を見たことがあった。
……といっても、その動きは残像でしか捉えられなかったのだが。
「かっきーん!」
もう一度素振りをしたあと。
野球帽は、バットを置いた。
「オレとヤる前に逝っちまいやがって。」
ヒュウっと息を吸って、野球帽はめいっぱいに引いた腕を木に向かい、鞭のようにしならせた。
突風が吹き付けたかのような衝撃に枝がざわめき、ヒラヒラと葉が数枚落ちる。
「……テメェのために鍛えてたんだぜ。
どうしてくれんだよまったく。」
ザァっと、中庭に風が吹き抜けた。
最終更新:2016年10月16日 20:24