8ターン目、人形遣いとの対戦。
雨竜院暈哉は有利に優勢に戦っていた。倍位上の差があったHPも今ではリードしている。
(勝てる……勝てるよ暈哉)
半左空は手に汗握り、心中で名を呼ぶ。確かに勝利は目前。HPにもある程度余裕を持って勝てる。そう思った。
が
「ぐぅっ……!!」
敵の投げがクリーンヒットする。HPを70以上削られる大ダメージだった。
しかし、お互い体力は残り少ない。次の一撃、中・上段柄打ちか壮暈牙を当てれば勝てる。敵は反応0なので完全に選ぶ技次第だ。
睨み合い、最後の技を繰り出そうとする。
(あと一手……暈哉頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ……!!)
「暈哉!! 好きぃっ!!」
「っ!!」
思わず出た叫び、秘匿にすべき告白であった。
「好き!? え、あっ俺も! いや、あっ……」
混乱の中出した技は、「脱皮突き」。相手のHPを削り切れない技だった。
「しまっ……ギャー!!」
雨竜院暈哉、敗北!!
「ごめんね……暈哉、僕のせいで……」
「いや……何だ。でも、その……」
目前の勝利を逃した暈哉だが、今はそれよりも重大なことがあった。
「半左……その……さっき言ったこと」
そう言うと、半左は顔を真赤にして俯く。
「半左、実はその……俺も」
「知ってる」
「え?」
「ごめんね……聞いちゃったんだ。あの日の夜」
「あの日」の意味に気づき、暈哉も顔を赤くする。お互い暫し黙った後で、半左がぽつりと言った。
「その時はびっくりしたけどね。僕も暈哉のことが好き」
「……半左」
ここ数ヶ月の想いが報われたことに、しかし暈哉はすぐには実感を持てなかった。
数秒経って、掌で顔を覆う。恥ずかしさと多幸感が一気に押し寄せてきて、まともな顔を出来る自信が無かったのだ。
「でもね、暈哉。言わなきゃいけないことがあるんだ」
「え?」
半左は暈哉の手を取り、自分の胸に持っていった。
・・・
「埴井葦菜さん」
「ん? げえっ!! 雨竜院!!」
暈哉に声をかけられた埴井葦菜は引きつった顔で叫び、さっと飛び退いた。
1ターン目で戦った2人だが、葦菜の脳裏にはあの時の悪夢が焼き付いているのだ。
今はオッサンで無くなった分、余計にあの体験は忌々しかった。
近寄るなとばかりにローキックで牽制しつつ、蜂を伸ばす。
「何よ? アイテムならアンタが1ターンでやったことのお詫びだと思いなさい」
「アイテムはまあ……それより、聞きたいんスけど、どうして性別が変わったんスか? 魔人能力?」
「性別? 魔人能力じゃないわよ。思い出すのも嫌だけど、呪いを受けたのよ。呪いの力で性別が変わったの」
「性別を変える呪い……それはどんな」
暈哉の食いつきに何だこいつと思いながらも葦菜は答える。
「『狂頭の試練場』って知ってる? 地下ダンジョン。そこにあるアイテムの呪いよ」
「呪いのアイテム! それはまだあるんですか」
「呪いを受けて即出てきたからわからないけど、他にもあるかも知れないわ」
「マジっすか!! ありがとうございました。
じゃあ、行ってきます!!」
テンションの上がった暈哉はよろよろと傘を杖代わりにダンジョンへ向かう。
(あの子……男になる呪いなんかどうするのかしら?
男があの呪いを受けても……あ、より男臭くなるとか?
そう言えば、女みたいな男子連れてたわね……あー……)
1人納得した埴井葦菜は暈哉の背中を見送る。
(半左……待ってろよ。
俺は女になる呪いを受けて、お前と……)
お互いに誤解を抱えたまま。
・・・
地下ダンジョン入り口前。
「ここか……しかし、今更だけどこの体じゃ無茶な気がしてきた……」
地下ダンジョンのモンスターのレベルはそう高くない。1人とはいえ、今の暈哉なら単身攻略も可能かも知れない。
ただそれは、彼が万全ならばの話である。
「どうする……最終ターンを控えた今、流石に……」
「部長! 俺達がいるじゃないですか!」
その声に振り向くと、そこには傘部の部員達の姿があった。
言ったのは副部長。
「お前ら……」
「ダンジョンはパーティで攻略するもんでしょ!?」
部員Bが言う。
「でも、これは俺の部と全然関係無い個人的な戦いなんだぞ?」
「何言ってるんスか? 部長、部のために命がけで戦ってくれたんだから、これくらいさせてくださいよ」
部員C。
「今までずーっと部長と半左さんがいちゃつくの見せられたんスよ?
手助けもしたくなるでしょ」
部員D。他にも2人の部員が、傘を手に力を貸すと言う。
「お前ら……」
暈哉は目頭が熱くなるのを抑えられなかった。
SSによっては存在が無視される都合のいいモブなのにありがとう、と謝りたいと感じていた。
そうして、傘部パーティー7人は女になるアイテムを求め、地下ダンジョンへと踏み入った。
スライムやゴブリンを倒したり、熊をナントカ倒したり、ドラゴンに出くわして逃げ出したりしつつ、ダンジョンで10数個の宝箱を発見した。
・・・
大会最終日、朝。
「か、暈哉なの……?」
「そうだよ。ほら、学生証。姉貴じゃないぞ」
半左空の家を尋ねたのは、1人の小柄な少女だった。その正体は、何と雨竜院暈哉。
身長180cmの男子高校生が、150cm程の中学生のような少女へと変貌を遂げている。
ダンジョンで発見したアイテムを手当たり次第試していったところ、6つ目のウィッグをつけた途端、こうなったのだ。それこそが男体化の付け髭と対をなすアイテム・女体化のウィッグであった。
因みに、7つ目は埴井葦菜を男体化させた付け髭であった。
そして、魔人能力「1/2」で女性へと戻っていた半左も、暈哉が女体化したことで再び男体化したのだ。
「お前は女が好きな男。俺は男が好きな女。
なんか普通になったな」
暈哉がそう言ってニッと笑う。
「もう……馬鹿!」
半左は涙ぐんで笑った。
「暈哉、可愛いね。けど、今は女の子だし、何て呼べばいいかな? かさや……かさや……」
「『暈哉』のままでいいよ」
「あ、さやかちゃん!」
「やめろ恥ずかしい!」
この日も雨だった。
体格に比べると大きすぎる「アタナンテ」を差して、2人は学校へ向かう。
「今日で、ついに最後だね」
「真生徒会室に行けないのが心残りだけどな。ベストを尽くすよ」
「うん……ねえ、暈哉」
少しばかり真剣な声音で半左が言う。暈哉も少し真剣な面持ちになって、隣の少年の顔を見た。
「暈哉さ、大会に生き残ったら、僕に告白するつもりだったんだよね」
「……そうだけど、どうした?」
暈哉は顔を赤くしつつ、応じる。
「でも、もう僕ら、両想いになっちゃったじゃない?」
「う、うん」
お互い、顔がいっそう赤くなった。
「だからね、暈哉」
「ん?」
半左の小さな手が、今やそれより小さい暈哉の手を取った。
真上を向いていた「アタナンテ」が傾き、通行人から2人の姿を隠す。
そして、
「……っ」
半左がそっと、暈哉の額に口付ける。
「えっ……あ……」
暈哉は口をパクパクさせながら額に手をやり、残る温度を感じた。
暈哉もそうだが、半左の方も真っ赤な顔で見つめている。
「今日が終わったら、その、口にしたげる。だから、頑張って」
やや背伸びした半左の応援に、暈哉はブンブンと首を縦に振った。
「それでさ、そうしたら僕のことも……『空』って呼んでくれる?」
大会最終日、2人は相合傘で学校へ向かう。
今までに何度もあった光景だ。
ただその肩と肩、繋がれた手と手の距離は、嘗て無く近い。
最終ターンに続く