宅急部エピローグ
――希望崎学園 生徒会特別ピラミッド建設予定地
「オラァ!急げ急げェ!ノルマはまだ半分も終わっとらんぞ!」
鞭をもった空手部モヒカン役員の罵声が響く。
ここは生徒会特別ピラミッド建設予定地。
希望崎学園では借金を負った学生救済のための公共事業として、毎年生徒会長のためのピラミッドの建設を行っているのだ。
「生徒会長退任までに完成しなかったら報酬は払われんぞ!借金を返したかったらキリキリ働けィ!」
債務労働者達の目に光はない。
毎年生徒会特別ピラミッド建設では100を超える死者が出ている。
だがそれも、借金を返済できないよりはマシな未来なのだ。
いっそのこと事故が起こってくれれば、労災で借金が返せるのに……そう考えている労働者も少なくはない。
石を運んでいた労働者の一人が、足をもつれさせて倒れる。
真っ赤に腫れ上がった手脚。対照的に顔色は生気のない土気色だ。
「貴様ァ!なにを休んでいる!」
空手部モヒカン役員の鞭が労働者の体を強かに打擲する。
労働者はよろよろと立ち上がる。だが、石を持ち上げることは出来ない。
一人のノルマ未達成はまわりまわって全員に返ってくる。だがそれでも、この労働者に手を貸すものはいない。
それも当然であろう……彼は、佐川ヤマト。経営破綻した宅急部の元部長だ。
強引な手段で不在票を投函する宅急部に、好印象を持っている生徒はまず居ない。
鬼雄戯大会で負った借金も、他の部活からの融資があれば致命傷とはならなかっただろう。
だが、融資はなかった。宅急部は経営破綻し、部長である彼は責任をとってここで働いている。
「早く働きなさいよ!外道!」
労働者がヤマトを蹴る。
「痛い?でもね、あんたの部員に渡された不在票はもっと痛かったわ!」
「そうだそうだ!」
「いい気味だぜ!」
石を投げる労働者もいる。やじを飛ばす労働者もいる。無視する労働者もいる。
だが、彼に手を貸す者はひとりとして存在しない。
ああ、神よ……これが傲慢の報いなのでしょうか…………
一方その頃、オーストラリア行き飛行機内。
「ビーフ オア チキン?」
「チキンプリーズ」
にこやかな笑顔でCAに注文をつけているのはビンセント・タークハイツだ。
彼は鬼雄戯大会最終戦での賞金を持ち逃げし、ファーストクラスで故郷に帰ろうとしている。
飛行機の窓の外には東京湾を見下ろすことが出来る。
希望崎学園、彼の留学先。色々なことがあった、だが、今となっては……
「……宅急後進国ではあったが、いい経験になったマーマイト」
あそこでの日々を思い出し、ビンセントの顔には思わず笑みが覚えた。
「さようなら、希望崎学園。さようなら、宅急部」
宅急部エピローグ 完
最終更新:2016年10月16日 20:32