ミケナイトのエピローグ『騎士叙勲』

鬼遊戯大会の戦いが終わった希望崎学園を、赤く燃える夕陽が照らす。
大グラウンドに長い影を落とす時計塔の上には、二人の魔法少女と、二匹のマスコットがいた。

「終わりましたね、老師」
エアバズーカ砲を肩から降ろし、長い三つ編みの魔法少女が言った。
タカアシガニ状の六脚下半身を持つ魔法の射撃手・夢見花卒羽(どりみっかどりみ)である。
既に魔法弾生成能力は解除しているので髪の青い光は消えており、髪は夕陽の色に染められている。

「うむ。儂等の出番がなくて何よりじゃ」
老師、と呼ばれた少女の表情も穏やかだ。
歴戦の魔法少女、後藤うさの任務は真・生徒会長の武藤を狙撃する卒羽の護衛と補助であった。
既に武藤が倒れた今、武装は解除し、鎧でありマスコットであるウミサソリの“ぷてりん”は、うさの近くでフワフワと浮いている。
「あの子も、無事で良かったのう」

「ニャーン(ああ。あんたの教えてくれた最終手段、今回は使わずに済んで良かったぜ)」
最終手段。魔法少女とマスコットの絆を介して自身の生命エネルギーの全てを受け渡す、本当の最終手段。
猫岸魅羽にもしものことがあれば、タマ太は迷わず最終手段を使うつもりだった。

「“今回は”か。おぬし、これからどうする気かのう?」
「ニャー(知れたこと。当然、このまま陰ながらミウのことを見守り続けるさ。死ぬまで、な)」

[ギシ……ギギギシ……]
普段無口な“ぷてりん”が何かを言った。

「ニャ?(何て言ったんだ?)」
タマ太にはウミサソリの言葉はわからない。

「“馬鹿だ”と言ったんじゃよ。おぬし、あの子にあわせる顔がないとか思っとるんじゃろ。本当に馬鹿じゃ」
「ニャー……(だが、俺はミウのことを苦しめて……)」
「で、影からこっそり守りたいと。そんなの、いつまでも儂等が許すとでも思ってるのか?」
「ニャッ?」
「さあ卒羽、やりなさい」
「はい、老師!」

卒羽の長い二本の三つ編みがしゅるしゅると蛇のように動きタマ太を捕らえた。
そして卒羽は六脚をしっかりと踏み締めて体勢を安定させ、タマ太を抱えた三つ編みを後方に伸ばし、上体を後ろに大きく反らした。
その姿は攻城カタパルトの如し!
全身のバネと自在頭髪の力を乗せて、タマ太を放り投げる!

「えいやぁーっ!」

「ニャアアアアアーッ!?」

夕陽に染まった赤い空に放物線を描いて、真・生徒会室へと飛んでいくタマ太。
タマ太が命を落とす運命は、回避されたのだ。

「ニャアアーッ!?(今まさに命の危機を感じてるんだけどーっ!?)」

ガッシャアアーン!
真・生徒会室の窓を割って、タマ太が飛び込みブギャンと呻く。
最強の男・カツオに敗れ、変身も解けてぐったりと倒れていた魅羽だったが、その声を聞くとダメージが一切無きが如く飛び起きた。
そして、ガラス片の中に飛び込んで、タマ太のことをかき抱く。

「タマ太! どこに行ってたの!? 心配……したんだから……! ごめんね! ぶったりしてごめんね……! もう私、大丈夫だから! 私、ちゃんと“人間”だから! ……だからお願い! もうどこにも行かないで……!!」

涙と鼻血でぐちゃぐちゃの魅羽の顔を間近で見て、なるほど俺は馬鹿だったな、とタマ太は痛感した。
もう二度と離れまい。魅羽の側に寄り添い、守っていこうと思った。この命、ある限り。
久し振りに触れる魅羽のおっぱいは、やはり大きく、柔らかく、暖かかった。


(=・ω・=)


魅羽とタマ太はとっても仲良し。
いつも一緒にお散歩するの。

「いよいよ、待ちに待ってたこの日が来たのね! いざ行かん、騎士道会館へ!」
「ニャーン!(おっぱい!)」
「なんでそこでおっぱいなの!」
「ニャーン(いや、新調したサーコートが、ボディラインにぴったり沿ってて似合うなぁって)」
「ううーっ、もうちょっと他に誉めかたあるでしょ!」

魅羽は、双子の動物語翻訳能力者である希望崎学園初等部のコニャック君とポニャック君に猫語を教わったのです。
もともと猫だったのですから上達は早く、今ではタマ太の言葉をほとんど理解できます。
自分がなぜ人間になったのか。タマ太の過去に何があったのか。猫岸舞さんがなぜ死んだのか。タマ太から全部聞きました。
タマ太のことは、おじいちゃんと呼ぶべきかもしれないとも考えたけど、結局は変わらず“タマ太”と呼ぶことにしました。

さて、魅羽は新品のサーコートを着て騎士道会館へ行く目的は何でしょうか。
それは、魅羽とタマ太が何に乗ってるのかを見れば解るかもしれません。
魅羽たちは、巨大な馬に乗っているのです!
その馬は、緑色の鱗に覆われた長く大きな体をくねらせながら悠々と空を翔んでいます。
オリエンタル・ドラゴンという品種の馬で、名前を“龍”といいます。
龍は、真・生徒会長亡き後、自らを打ち倒した魅羽を新たな主人と決めたのです。

つまり……その通り!
魅羽は今日、騎士道会館で正騎士として叙勲されるのです!
慣例通りなら騎士称号は騎馬から採って“オリエンタル・ドラゴナイト”になりますが、そこはお願いして“ミケナイト”にしてもらえる予定です。

「ふー、緊張するなー。喉が乾いてきちゃった」
「ニャーン!(そんな時は豆乳だな!)」
「ガオーン(俺も飲みたいです!)」

パッケージの絵の鳥のように、金色に耀く日の光を浴びて空高く飛びながら、魅羽とタマ太と龍は豆乳を飲みました。
振り返れば東京湾の中に浮かぶ希望崎の人工島。
見下ろせばスカイツリーの青い尖塔。
彼方を見やればそびえ立つ霊峰富士。
まるで世界のすべてを手に入れたような、そんな光景ですから、これほど美味しい豆乳はかつて無かったかもしれません。
魅羽たちは気合いを入れて叫びます!

「狩るにゃん! 狩るにゃん! 狩るにゃん!」
「ニャーン! ニャーン! ニャーン!(おっぱい! おっぱい! おっぱい!)」
「ガオーン! ガオーン! ガオーン!(嵐を起こします! 嵐を起こします! 嵐を起こします!)」

「って、タマ太! なんでそこでおっぱいなの! ……あっ、マタタビ吸ったな! 私にもちょうだい!」
「ニャーン(これから式典だし、酔っぱらい騎乗はやめといた方がいいぜ)」
「ぐぐっ、ずーるーいー!」
「ガオーン(そろそろ降りますよ。しっかりつかまって)」

そんなことをしてるうちに、騎士道会館はもうすぐです。
鬼雄戯大会を力強く戦い抜き、馬術部の財政難を救った見習い騎士は、ついに正式な騎士になるのです!
ガラーン、ガラーン、ガラーン。
時刻を伝える会館の鐘の音が、正騎士ミケナイトの誕生を祝福するかのように青空へと高く高く響き渡りました。

(ハッピーエンド!)






最終更新:2016年10月16日 20:33