世界の8列強国の一角を担う強国である。その歴史も古く、既に4000年に達しようとする由緒正しき国家である。
その強国はある問題を抱えていた。シア皇国の保護国であったタイラン王国が突然タイラン共和国として独立を宣言したのだ。
タイラン王国は南北80㎞ほどの主島を中心とした海洋国家であり中間貿易で大いに発展した国家であった。そしてその商人達は優れた航海術でシア皇国経済圏と他の経済圏との海洋貿易を一手に引き受けていた。
そして200年ほど前に時のシア皇国皇帝が貿易の独占を破壊する為にタイラン王国へ侵攻し保護領とした。このため表面上の商人達の貿易の独占は崩れたが、それでも強力な『座』は存続し続けた。そのため裏では事実上の貿易の独占は崩れていなかった。
そしてその座のメンバー達が共謀して決起し、駐留軍を追い散らして独立を宣言したのであった。
「なんとも愚かな行動だな」
報告を受けたリク皇帝はそう呟いた。
それは国力を比較すればすぐに分かる。シア皇国の国力は旧タイラン王国の地域の国力の100倍以上、軍備でも陸軍常備260万、海軍360隻、空軍2,000騎に対して陸軍12000、海軍30隻、空軍30騎と比較にもならない。
「陛下、これは明らかな大逆です。将来の禍根を経つ為即刻討伐軍を組織して思いあがった商人共を捻りつぶしましょう!」
軍務卿の言葉に配下の臣下が一斉に頷く。表面的に見ればこれは小さな内乱に過ぎない。
だがそれほど外交の世界は甘くはない。そして周囲に脅威のない大国ほど外交音痴になりやすい。
「陛下、しばしお待ちください」
会議に静止を掛けたのは外務卿だった。
「外務卿、貴様タイランごときに臆したのか!」
軍務卿の言葉に外務卿はむっとする。
これだから後先考えず戦をしたがる頭の固い武人は嫌なのだ。
武人は基本的に戦いを好む。それが祖国に無用の損害を与えるものであってもだ。
「タイランの商人達は狡猾です。後先考えずに行動を起こすとは考えにくい。それが行動を起こしたということはそれなりの後ろ盾があるということです。恐らく『ニホン』が絡んでいるでしょう」
外務卿の言葉に全員が唸って考えをめぐらす。
『ニホン』は10年程前東の海域に突如現れた謎に満ちた国家である。
その後しばらくなりを潜めていたが、最近シア皇国の目の上のたんこぶであった同盟の中核国家である
ケリア聖王国を貿易上の問題から攻略し、保護国として同盟各国への政治的経済的影響力を強めている。
どうやらかなりの経済・軍事強国らしい・・・
なにぶん交流が限られている為そのぐらいの情報しかない。これは日本の情報管理が完璧に近かった証拠でもあった。
「例え『ニホン』がタイランの後ろ盾についていたとしても列強である我が国との関係を崩してまでタイランに肩入れすることは無いだろう」
軍務卿はそう反論する。日本は一応シア皇国と不平等ながらも友好条約を結んでいる。この世界では不平等条約の締結は締結国に強弱があることを意味する。それを日本政府は最大限に生かした。それに不平等と言っても表面的なもので実は伴っていない。要はその時まで時間稼ぎが実現できればいいのだ。
そして目的が済めば条約を破る。相互に利益の無い条約は紙切れに等しい。それこそ外交世界の常識だった。
「しかし、同盟と合同して動かれると厄介です。我が国は2正面で戦うことになりますぞ」
「同盟など所詮寄り合い所帯だ。すぐに吹っ飛ばしてくれる!いざとなれば保護領であるケリアを攻めると脅してやればそれで十分!ケリアに駐留している『ニホン』軍は僅か3000名にも満たないではないか!」
その3000に50000の軍が敗れ、120000の軍を持つ国が降伏したのだ。それは数の比較が無意味であることを意味している。軍務卿はそんなことも分からないバカだったと知って外務卿は頭が痛くなった。
「それでも彼らはやる気かもしれませんぞ!事実皇都の大使館は閉鎖の準備を始めているようですからな」
「・・・」
この発言についに軍務卿が黙った。
「これは内乱だ。そこに外交は加味しても躊躇することはあってはならん」
そこへ軍務卿を支持する声が上手の玉座から降る。それは決定の声だった。
「軍務卿、仮に『ニホン』が妨害しても内乱を鎮圧できるか?」
「は、敵の詳細が不明であるので確実をきせませんが恐らく我が軍が数で圧倒するでしょう」
「よし、ならば勅命をもって命ずる。タイランの反乱を迅速に鎮圧せよ」
ここにいたってシア皇国の方針は固まった。