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第6話

この反乱は1年前から準備され慎重に進められていた。
その1年半前タイランの座はひそかに日本と接触を図っていた。日本にとってタイランの座は極めて重要な存在だった。
貿易は商品と市場があればできるというものではない。
このとき日本に不足していたのは販売ルート、つまり商人の人脈であった。こればかりはすぐに出来るものでもない。新規市場では長い時間を掛けて地道に構築していくしかなく、その時間は何よりも貴重だ。
しかし、タイランの座の力を借りれば訳は違う。経済圏間に張り巡らされた座の人脈を使って販売ルートを構築でき、時間というコストを削減できるのだ。
それはシア皇国の価値よりもはるかに大きいものだった。
それにタイランの座も日本の商品を大量に扱え、なおかつ大量に輸送する手段を得ることが出来る。それは利益の大幅な増加を意味していた。
「ソン大座長、我々は本当に大丈夫でしょうか?」
座を継いだばかりの新入りの座長が元締めであるソン大座長に不安を表明するが、ソンの自信は崩れない。
「大丈夫だ。彼らは必ず約束を守る。そして彼らに敵う海軍はこの世界のどこにもいないだろうな」
ソンは2年前の洋上会合を思い出し、自信を深めた。

1年半程前、秘密の使者が座に接触を図ったことに端を発する。
彼らはスムーズな貿易のために座の人脈を貸してほしいというものだった。
名前も教えず、さらにフード付のマントで姿を隠した彼だが座と何度も接触を重ねて信頼を築き、交渉を詰めていった。そしてほぼ合意に達したのだが、一つだけ懸念材料が残った。それがシア皇国の存在であった。
現在タイランはシア皇国の保護下にあり監視をすり抜けての大規模な貿易は難しいことをソン大座長は懸念として発言した。
『それならば独立して日本に鞍替えすればいい。必ず日本の自衛隊はタイランを守る』と使者は言い放った。
その大言に対して商人のソンは裏づけが欲しいといったため、自衛隊はデモンストレーションを行った。
「しかし」
「絶対だ」
ソンの言葉はもはや確信だった。それもそうであろう。目の前で廃船寸前とは言え200t級の中型船3隻を一瞬で消し飛ばされる光景を見ればだ。

「なんという大きさだ!」
それを見てソンはただその存在感に圧倒されるばかりだった。
タイランの座が持つ最大の船でさえ僅か2000tで速力は帆走5ノットが限界。しかし、その倍はあろうかという巨大な船が3倍以上の速度で整然と艦列を組んで航行している。
そして次に見せられたものを見て、ソンは卒倒しそうになった。
最初、ソンはそれを島だと勘違いした。そして近づいて否応無くその正体を思い知らされた。
それは想像も付かないような巨大な船だった。1隻は巨大な機械飛竜を満載し、もう1隻はどれだけ弾が飛ぶのか想像すら付かないほど巨大な大砲を積んでいた。
そしてその2隻は島のような大きさにもかかわらず、圧倒的なスピードで進んでいた。
まるで伝説に出てくる暗黒帝国の要塞艦と機械飛竜母艦のようだ・・・
ソンはそう感じたという。それはある意味で事実であった。その2隻は新世代の戦艦と空母だったのだから。
その後、機械飛竜母艦に乗って説明を受け、さらにもう1隻の射撃訓練を見学させて貰った。
その大砲は海を揺るがせる様な大音響を発し、その砲弾は従来の大砲の射程の遥か外に居た標的として持ってきたソン達の船を空高く吹き上げてバラバラにした。
もはやどんな説得も必要なかった。海の支配者が誰であるか、それをソンは悟った。

「どうやらシア皇国は制圧を決断したようですね」
そう言って秘密の座会に入ってきた日本の使者は中央のテーブルに大きな紙を広げた。
それを見て全員が息を呑んで絶句した。
それは正確な海図だった。タイランの座が用いている海図はシア皇国内でも一番正確だと自負があったが、見せられたそれはそんな次元を超えていた。海底地形すら手に取るように描かれ、各種磁気航路が正確に記されていた。
それは今後海上輸送においてタイランは日本に確実に勝てないことを如実に悟らせるには十分だった。
「あなた達は・・・これほど海を支配しながらなぜ我々に頼るのですか?」
若い座長が思わず本音の疑問を吐いた。それに対して使者は簡単に答えた。
「海で物を輸送しても陸で売る能力が無いからですよ」
話が逸れましたね、と言って彼はメモを見ながら海図の上に駒を置く。
「シア皇国軍の上陸船団が出航しました。艦隊は約200隻、揚陸予想兵力は7万と推定されます。それに対して海上自衛隊、ああ日本海軍と考えてもらって結構です、は空母、機械飛竜母艦2隻と戦艦、つまりあの要塞艦です、1隻を中心として既に阻止地点に展開しています。まあ、戦闘が開始されれば1日ほどで終わりますね」
使者の言葉に若い座長達は懐疑的な目を向けたが大座長以下の首脳部は満足そうに頷いた。
それを確認して『ああ』と何かを思い出したような声を上げる。
「ここはもうシア皇国ではないので姿を隠す必要はありませんね。ただし、私が日本の意思を背負っていることを忘れないでくださいよ」
そう言って彼はフードとマントを取って自己紹介した。
!!!!
そして、それは最大級の驚きを座会のメンバーに与えることとなった。

最終更新:2006年08月10日 19:48