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第4話

「思ったよりも多いな」
自衛隊の最高司令官である日本国首相、石原浩二は提出されたケリア派遣戦闘群の最終作戦報告を見て、唸った。

  • 報告
ケリア派遣統合集団は目的を達成。ケリア聖王国は日本国に対して無条件降伏。
  • 損害
戦死者 23名
負傷者 16名内10名は重傷
大破・廃棄 10式歩兵戦闘車1両
96式装輪装甲車2両
軽装甲機動車3両
UH-60J1機
OH-1B1機
中破・小破装備については省略。現在修理の為本土へ輸送中。
  • 備考
各種車両の駆動系にも相当の負担が掛かっているものと思われ、帰還後点検検査の必要を認める。
  • 検討
作戦地域の道路事情は極めて劣悪であったことが今回の損害を生んだものと思われる。96式装輪装甲車の喪失は駆動系の故障によるスタックが直接の原因であった。今後、駆動系の信頼が高い12式装輪装甲車の配備が求められる。
ヘリ2機の損失についてはそれぞれ原因が異なる。OH-1Bの喪失は敵のワイバーンによる攻撃であると判明している。ワイバーンは垂直離着陸や短距離離着陸能力を持つことから、基地攻撃による航空兵力の撃滅が困難であることが判明した。
UH-60Jの喪失理由は現在の所まだ判明していない。ただしオブザーバーは対空攻撃魔法の可能性を指摘している。これが事実であるならば敵には有力な低空域防空火力が存在することとなり、早急にその対策を講じる必要があるだろう。
今後、従来型のヘリの運用は慎重を期す必要がある。航空偵察については航空自衛隊の作戦機又はUAVに一任することになるだろう。

全く異なる兵器体系の軍隊と交戦するのだからそれなりの損害が出ることは覚悟していたがヘリ2機の喪失は予想外だった。
「まぁ、少々高い授業料を取られたということですよ。これが大国との大規模戦闘なら損害はさらに増えていたはずです。少なくとも我々は高い授業料のおかげで対策を練るだけの時間を貰いました」
笹原衛防衛大臣が感想を述べる。今回の紛争はこの世界での自衛隊の戦闘方法を検討するには良いモデルケースとなっただろう。少なくとも不用意なヘリの運用は危険ということが判明し、今後それなりの対策を考える時間がもらえたのだから。
「防衛大臣は、戦死者をかなり軽く見ているのですね」
竹下要官房長官が笹原に皮肉を言う。
「自衛隊の中では戦死者こそ少ないですが、殉職者というのは珍しいものではありませんからね」
笹原が皮肉で返す。自衛隊員は人間を確実に殺傷する武器を扱う。そのため事故による死亡というのはそれほど珍しいものではない。
「それにその間に国内で自殺した人間の数のほうが多いですから」
そう、日本では毎年5000人以上の自殺者が出る。それだけの戦死者ならもはやこれは戦争と言っても十分通用する。
「どちらにしても今後、人命の損耗を抑えるという点は防衛省でも追及するつもりです。21世紀型の軍隊の整備目標は戦死者を出さないことですから」
21世紀は高齢化の社会であるため軍を構成する若年人口は極めて貴重な存在なのだ。日本もそれの例外ではない。貴重な若年人口を大量に失えばそれだけで経済に深刻な影響を被る。その貴重な若年人口であり、究極の兵器たる歩兵を出来る限り失わないように戦うのが21世紀型軍隊なのである。
最も後10年もすれば若年人口問題は大幅に改善することが予想されたが・・・
「川原君、経済産業省は後どのくらいの『猶予』があると見ているか?」
石原首相が川原翔太経済財政担当大臣に残り時間を尋ねる。
「はい。現在のレベルでの生産を続けた場合遅くとも2年後かと。最悪の場合今起こっても不思議ではありません」
そう、日本の残り時間は少ないのだ。転移によって日本は全ての海外市場を失った。そのため体力のある大企業を除いて、多くの企業が倒産の憂き目にあった。それに伴って発生した大量の失業者は政府のシャングリラ開発計画によって何とか雇用することが出来た。
だが、真の問題は民間経済である。
国内企業は現在、最低限の生産ラインとその最大限の雇用で経営を行っている。それでも在庫がかなり溜まっているのだ。
もちろん政府もそれに対して最大限の内需の拡大という対策を打っている。法人税課税率の極低水準化、所得税の半減、消費税の凍結などギリギリともいえる消費者の購買力拡大の手を打った。
しかし、それでもなのだ。
企業の在庫が膨大な量に達すれば、1929年の世界恐慌の悪夢が襲ってくる。規模こそ国内に留まるもののこうなれば政府に打つ手は無い。最悪のシナリオを演じれば経済生産の停止という事態もありえるほど深刻な状況なのだ。
それを防ぐには企業の在庫を減らせば良い訳で、内需が限界ならば外需を求めるしかない。
タイムリミットまでに海外で日本に匹敵する巨大な市場を確保することが出来れば、世界恐慌の悪夢からは逃れることが出来る。
「遅くとも2年か・・・」
そのタイムリミットは2年以内、時間はそれほど残されていない。交渉が進まない、もしくは交渉に応じない場合は解決手段として軍事力を行使してでも各国の市場を開放させなければならないのだ。
時間は日本の敵であった。

最終更新:2006年08月04日 22:36