――――。
世も末である。
かつての支配者は崩れ行き、かつての被支配者は立ち上がる。
下克上である。
人間とその常識がパラパラと崩れた先にあったのは。
ジューシーで、ワンダフルな世界であった。
「あぁあっ……」
狭いこじんまりとした部屋。
灰色の壁に覆われた人に絶望を与えるための地下牢。
かつての人間が使い放置して、そしてそこに今はその人間が閉じ込められている、現代世界の象徴。
そこに数人の発育の良い美しき少女達が半ば絶望して座り込んでいた。
湿り気を帯びた地下牢の床の冷たさが少女達へと伝わる。
そこにはフカフカとは言いがたいもののベッドもあるのだが、そこには誰も佇んでいない。否、佇む余裕すら与えない。
「ねえ……きっとあのベッドにもこれまで何人もの女の子が寝てきたんだよね……。
そして…………、何人もの女の子が供物にされてきたんだよね……」
誰かが不意にそういうことを言う。
周りの少女達はその言葉に聞く耳ももたず、ただただポカーンとしている。
そんなことを受け入れたくないのか、もしくはそんなこととうの昔にわかっているのか。
ここは、人間牧場である。
牧場といっても輝く太陽とのびのびと生きる牧羊などを想像してはいけない。
日の当たらない室内で、少女達が完全に「飼育」されている、文字通りの人間牧場である。
管理しているのは、勿論人間ではない。
21XX年、人類は突然変異した鰐によって完全に管理下におかれることになった。
「鰐」。そうだ、ワニである。
突然変異した特異な知能を持つワニは数百年単位で徒党を組み、人間への反逆を考案していたのだという。
数百年にも及ぶゆっくりとした進化は鰐を人語を解する、しかし人食いの化け物へと変貌させた。
もはや鰐ではない、新種の動物へと。学者達はこの鰐を「鰐α」と呼んだ。
人間は兵器やらなんやらで応戦したものの、しかし圧倒的なスピードで全国に展開していた「鰐α」には及ばなかった。
「鰐α」は若い女性の肉を好んで食し、世界各国で少女、もしくは幼女までが鰐αに食べ放題されていた。
次々と世界中の主要施設が襲われた。
「鰐α」には半端な弾丸や兵器などは全く通用せず、それも人間側の絶望を加速させた。
最終的にはどうやら人間がわの主要人物の全滅によって人間側の敗北に終わったそうだ。
敗戦した人間側は「鰐α」の完全管理下におかれることとなる。
世界中の美味しい美味しい厳選された幼女、少女達が各国に置かれた「人間牧場」に運ばれた。
また、一部は美味しい人間という食料種の保存の為に養殖されるそうだ。
それが、この今の世界の冷酷で残忍、残酷な現実だった。
完全的に敗戦した人間側は既に半分の人口まで減らされ、また鰐α側の人間の美味しい調理方法も確立されつつあった。
そして最新の調理方法と言うのが――
丸呑みである。
いやそれを調理方法というのかどうかはわからないが。
生きた少女、幼女に調味料をかけ、そのまま咥え、噛まないように最大限注意して飲み込む。
原点回帰にも程があるが、しかしこれが近年健康食法として一般的に普及している。
そこらの少女
レストランでも丸呑みが推進され、メニューの一部は丸呑みジャンルが埋め尽くしている。
話がそれてしまったが。
「鰐α」は柔らかい肉を求めて、今尚逃亡中の三割に上る少女幼女を狩猟している。
いかに車などがあるといっても、「鰐α」はタイヤに踏まれても平気な強固な皮膚としつこい執着心がある。
丁度そろそろ燃料が切れるころだろうし、最近はぞくぞく少女が
生け捕りにされ、そしてそのまま人間牧場へとすすんでいる。
この、新しく地下牢もとい「人間牧場」に入った少女達もその類である。
つい昨夜のことだったか、ほぼ同時刻に別々の場所で生け捕りにされ、食用高級品と判別されてここに搬送された。
そのためこの地下牢に入ったのはわりと最近の時刻の事であり、その時までは手と足に錠をつけられ食欲を抑えきれない鰐αに全裸に剥かれ、全身をなめ回されていた。
一応この地下牢に到着した際に全身にシャワーを浴び、布切れ一枚を与えられたものの。
しかし舐められた時点で「沢山の少女を食べた鰐の口が近くにある、」「何時食べられるかわからない」という恐怖を存分に埋め込まれた少女達は、もはや絶望に包まれ気が気でなかった。
だが同時にまだまだこんな地獄は序の口だということも悟っていた。
実際は舐め回されて全身に調味料を塗ったくられ、そして口の中にはいりそのまま体内を旅行して帰ってくるときには排泄物なのだから。
幾時間後。
地下牢の中の雰囲気は先ほどよりも幾分か落ち着いていた。
死の恐怖に馴れた、というのだろうか、ともかく恐怖感が薄れて、結構しゃべっているような雰囲気だった。
無論、会話の内容というのは自分達が何をされるのか、といった内容である。
「前のことだけど……ウチの友達が鰐αに捕まったんだ……。
それで何とかケータイ隠し持ち込めたらしくて、両親に向かって実況中継してたんだ……。
『食べられる前にシャワーで念入りに洗われる、自分で洗うんじゃなくてワニが洗う』だとか
『仕入れられた少女は品質順に部屋に入れられてて、入り口に近い方が高品質』だとか
『食べられる場所はレストラン、少女取扱店、それからスーパーとかでも』……
といった機密情報が漏れてるのもこういった命を懸けたスパイのおかげなんだってさ……」
「一昔前までは丸呑みじゃなくって丸齧りだったらしいね……
そう思うとこの時代の少女でよかったと心の底から思うよ……」
「いや、それは……
丸齧りは一瞬で終わるけど丸のみは呑まれてから糞便として出るまでずっと……」
口調は弱弱しく、ネガティヴさが滲み出ていた。
しかしそれでも元気に逸話を話せるところが人間の逞しさだろか。
少女達の話し合いは深夜遅くまで続いた。
死期が迫ると人間はその死期を悟るらしい。
そう、少女達が食用として出荷される日まで、あと2日を切っていたのだ。
朝、少女達は起きる。そうして、気づく。
自分のあられもなく見せられた僅かな膨らみに、謎のシールがついていることに。
「何これ……」
何時の間についていたのだろうか。
そう思いながら少女達はそれぞれそのシールを見ようとするが自分の胸についているもので中々見えない。
少女達の平均年齢は11歳。いかに発育がよいといっても、やはりシールの中身を見ることは困難であった。
ちなみに強固に張り付いていて取る事は難しく、また11歳の少女には不可能だと思われた。
「これ、私達の値札だよっ!」
誰かがそのシールの内容に気づく。
シールに書かれていたのは他でもないその少女の値段。
少女達が深夜まで語り合い、爆睡した際に取り付けられたと思われるその値札には、単位こそわからない物のかなりの数の0が連なっていた。
今回運ばれた少女達は、一級品の食材であった。
11歳の柔らかい肉感にして発育の良い胸、全く生えていない毛。
整った顔は鰐αの情感を刺激させ、よりよいディナーとなる。
繰り返すようだが、今回選ばれた少女達は、一級品の食材であった。
もはや、この牧場に入った瞬間から少女達は人間ではなかった。
極上の、とても美味な、高級食材に他ならなかったのだ。
誰も少女達を人間とは見做さなかった、間違いなく食材と見ていた。
昼、少女達は苦しむ。そうして、思い出す。
あのここに「運送」されて以来、一回も御飯を食べていない事に。
排泄行為はしなければいけないゆえしていた。
今でもこの部屋の端っこのトイレ用と思われる穴には少女達全員分の排泄物が詰まっていた。
流れないところを見ると、少女達が食べられた、その次に運送される少女達が来るまではこのままなのだろう。
しかしそう考えることは出来てもやはり悪臭は悪臭、近年の鰐αによる迫害とそれに伴う悪い食生活も合間って近寄りたくもない悪臭が広がっていた。
給水のほうはと言うとおしっこを飲まざるを得なかった。
あまりの恐怖感からして空腹には気づかなかったものの、やはり喉の渇きには気づくらしく、誰が始めたのか気がつくと全員が自分のおしっこを飲んでいた。
地獄のような光景ではあるが、みんな最後の瞬間まで生き残るという根性が鰐αからの逃走劇でついたらしく、みな生きるために飲んでいた。
ちなみにおしっこは空気に触れる直前までは無菌らしい。
さて置き、ここに運送されて以来全く食べられるものを食べていない。
水分はおしっこで何とかなるかもしれない(そうだとしても極めて酷い環境だが)が、食べ物の方はうんこじゃどうにもならない。
空腹に気づかなかった少女達もあるとはいっても、しかしどうにしても空腹だ。
「そういえば、人間が死ぬとき腸内に食べ物があると凄く臭いらしい……
やっぱりそういうのかな」
無理に納得する。
納得してもそれはあくまで鰐側の都合である。
基本前向きな彼女達は徐々に鰐に食べられるために尽くす様に変わってきていた。
夜、少女達は別れる。最後の晩と。
この地下牢で明かす夜は二日目になる。しかしこれで最後となることはみんな知っていた。
夕方になってから、鰐αが部屋の中に現れた。
彼はどうやら便所掃除に来たらしく、全裸の少女達をジロジロと見ると、
「美味しそうだな……だけど明日になったらもういないのか」といった。
それが切り皮となって、少女達は何故か自分の体を整え始めた。
もう半分以上狂っていたともいえるかもしれない。今から自分を食べる鰐に対して少しでもいいものをお届けしようとするというのは。
本人達こそ表立って言わないものの、最早少女達は生まれたときから鰐αに食べられるために発育してきたと思わせる従順ぶりだった。
少女達はベッドに誰も横たわらなかった。
雑魚寝をしながら誰かがいった。
「ねえ……明日の今頃は私達どうしてるんだろう……」
「食べられて、胃の中でネトネトかな!」
「それは……ちょっとあれかな……
だけど……不思議だな、なんかそれでもいいような気がしてきた」
その言葉には、少しの迷いもなかった。
「わかるかも知れない……
例え私達が鰐αさんたちの胃の中でネチョネチョに溶かされて、
それで腸の中でグチュグチュに吸収されて、
それで最終的にうんこになって肛門から出るのも、ありかもしれない……」
「なんていうんだろう……
これはこれから食べられるって人にしかわからないかも…・・・
人間の真理っていうかなんていうか……これが人間に出来る最後の罪滅ぼしっていうか……
傲慢だった人間がこうなるのも、なんていうか運命だったといわれても納得できる……」
「鰐αに食べられるのも、なんか運命かな、みたいな……」
「もうここまできたらいっそのこと食べられていいや……
こうやって命は繋がってきたんでしょ……食べて、鰐αさん……」
もう、彼女達はくるっているといっても過言ではないだろう。
傍から見て、そうとしか映らない。
雑魚寝している少女達は、艶かしく、またどこか哀しげであり、だけどこれまでよりも活き活きしているような気がした。
こうして、彼女達は雑魚寝で怖い怖い会談をしながら生前最後の晩を終えた。
真夜中に、何度も何度も彼女達の空腹を告げる腹の音がなっていた。
彼女達の体の中にはもはや食べ物は入っていなかった。
早朝、少女達は起こされる。忌まわしき鰐αの手によって。
まだ人間の時刻でいうと4時も迎えていないような時間だった。
部屋に入ってきた大柄の鰐αは強靭で、打ち倒せそうにもない。
いつの間にか付けられていた手錠足枷もあって、反逆する気は全く起こらなかった。
無言でついてこいという合図とともに、少女達は廊下へと出る。
廊下に出るとそこは少女達の思う数倍はあるであろう長さの廊下に、ギッシリと牢屋が詰まっていた。
行きと帰り二回しか人生で通らなかった廊下を踏みしめる。
値札についている大量の0が彼女達の身分を証明しているように、ざわめきは全くなかった。
帰り際に牢屋の入り口にある電光掲示板を見ると、「現在135112人収容」の文字が赤く光っていた。
「シャワー室」と書かれた部屋があった。
そこに少女達は誘われるがままに入っていく。
ボロい布切れはそこで脱がされ、抵抗するはずもなく生まれた時の姿に少女達はなる。
妖艶で幼げで美しく可愛く愛おしい少女達のボディーが白日の下に露になった。
そこは、少女達が4歳かそこらの頃に見てそのまま忘れていた、「お風呂」そのものであった。
お風呂といっても、並みのお風呂ではない。大浴場と呼ばれるであろう、巨大な露天風呂であった。
久しぶりの空が見渡せる。空はまだ暗く、時刻を再確認させられた。
「お前らは購入者の我侭でこんな時間に出荷されてるんだ
我侭は絶対に守れ、そうじゃなければ商売は成立しない。
だから、1人50秒で俺がお前らの体を洗う、異論はないな?」
誰も異論するものはいない。
その一瞬の沈黙の直後に、その鰐αはそのただの鰐とは比べ物にならない機動力で手近にいた少女に襲い掛かった。
鰐特有の冷たいボディが少女にぴったりとフィットする。
割愛するが、あっという間に少女達は石鹸で体の隅々まで洗われた。
最早体中どこをなめ回されても健康だと言い張れるほどに。
少女達は清潔になり、その露天風呂から出る。
その露天風呂から覘けた空が、彼女達の見た最後の空になること。
それを彼女達は知っていたのだろうか、それとも知らずに謳歌していたのか。
何にせよ、彼女達は食べ物で、今のは殺菌処理に過ぎなかったのだ。
そこを忘れると、後々後悔する羽目になるであろう。
最終更新:2012年11月28日 23:05