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烈火の将 その決意

烈火の将 その決意 ◆mfN0eC9miI



 ありえない。

 流石に三度も呟くと、心は冷静になる――が、やはり口から漏れるのは

「ありえない、ですよねー」

 当然のようにこの言葉。

 ざっと三十秒で四度目の台詞を言い終えると、何とか状況を飲み込もうと半ば本能的に周囲を見渡してみる。
 何度見ても景色は変わらない。
 まず最初に目に入るのは、壁。薄汚れたねずみ色の、壁。しっかり目を凝らしてみれば所々緑色をした苔が生えている。随分と不衛生だが、今は思考の端にでも置いておくとする。
 続いて右に視線を移せば、そこにも壁。向かって正面を見たときと同じ、苔の生えた薄汚れた壁が目に入る。
 何故だろう? 頭がクラクラする。一縷の期待を込めて左へ視線を移す。当然そこにも――苔の生えた、薄汚れた、壁。
 壁、壁、壁。恐らく、スプーンやフォークでちまちま削っていくだけでも一生を費やしてしまうであろう厚い壁。見るだけで重苦しい雰囲気を放つ――不衛生な環境もあるだろうが――壁は、動揺する自分を嘲笑うかのようにソコに在った。
 まだ終わりじゃない。正面、右、左には行く手を阻む壁がある。だが、後ろはどうだろうか? もしかしたらその先には広大な空間が待っているかもしれない。そうだ、そうに違いない。
 自らに言い聞かせるように、決して心が折れないように、ブツブツと呟きながらまだ見ぬ方向へ視線を移す。

 結論から言えば、そこに壁は無かった。

 壁の代わりに視界へ飛び込んできたのは――黒い、黒い、柵だった。
 柵、と言うより檻と言った方が正しいかもしれない。
 ともかくその――柵、は、分厚い南京錠によって閉じられており、到底抜け出せそうも無い。

 まるで何かを閉じ込めるような。
 まるで何かを逃がさないような。
 まるで何かを捕らえるような。

 そんな感じすらするような設計をしたこの空間に、一つだけ見覚えがあった。

 これは……そう、日本人なら――いや、日本人じゃなくとも大半の悪人が恐れる、アレ。
 たしかそれの名前は――

「どこをどう見ても牢屋にしか見えないんですが」

 そう、牢屋。
 悪い事をした人を逃がさないよう捕らえておく空間。それは、いい。
 今問題なのはそんな事じゃない。

 何で自分がこんなところに閉じ込められている?

 ともすれば叫びだしてしまいそうな心を必死に押さえつけ、大きく深呼吸しながら冷静に状況を確認する。
 不安定な記憶をゆり戻しながら思考の糸を手繰り寄せる。
 確か自分はいつものように朝食の用意をしていたはずだ。それは覚えている。それで、相変わらず有能なあの子に仕事を頼もうとして――

 ――そこで、急に視界が入れ替わった。

 状況を把握する暇も無く、高校生らしきグループにわけのわからない説明を受けて、そして、そして、人の首が――飛んだ。
 最初は特撮か何かの撮影だと、そう思い込んでいた――思い込みたかった。 

 だが

 肉の焦げた臭いが、舞い散る真っ赤な液体が、まるでサッカーボールのように転がった顔が……紛れも無い現実だと告げている。

 そして

 次に気が付いたら、牢屋の中だ。 

 一体何のつもりなのだろう。外に出ることすら出来ない状況で、何を、どうしろと?
 彼女達は何を考えているのかわからないが、少なくともまともなことは考えてないに違いない。いや、考えていないからこんなことを起こしたのだろう、が。

 そこで、ふと。いつの間にか側に置いてあったデイバッグに気が付く。
 見るからに平凡そうな男の子が言っていたことが正しければ、この中には何か武器になるようなものが入っているらしい。

 物騒な武器などは必要ない。せめて、この牢屋から脱出するのに役立つものが欲しい。

 そう一縷の望みを託しながらデイバッグを開く。

「これは……もしかして、もしかしなくとも、アレですよね?」

 ママ○モン。

 確かに食器を洗う時には便利になるアイテムだ。だが、今この状況で必要か? と問われれば、誰だってNO!と答えるだろう。

 落ち着け。

 他に何か入ってないか調べるが、でてきたのはママ○モンに名簿、缶詰(どうやって開けろと?)水、ランタン、コンパス、紙、ペンのみ。

 落ち……着け。

 バラバラと床にぶちまけられたそれらをデイバッグにしまう。

 何度目かの大きな深呼吸。

 そして。

 ここでやっと女――三千院家メイド、マリアは泣いた。

【B-5 警察署/1日目・深夜】
【マリア@ハヤテのごとく!】
[状態]:涙
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、ママ○モン×1
[思考・状況]
基本:???
1 涙が止まらないんですがどうすればいいですか?
2 ここから出たい。
[備考]
当然と言っちゃ当然ですが牢屋の鍵は閉まっていません。
冷静さを失っていて気付いてないだけです。

【ママ○モン@現実】 
しつこい油汚れもすばやくスッキリ!!!
決して料理の隠し味なんかに使わないでね。

 ◆ ◆ ◆

 時は少し遡る。
 これは、哀れな少女がまだ牢屋の中で意識を失っている時間のお話。

 ◆ ◆ ◆

「一体これは何の冗談なんだ?」

 ロングストレートをポニーテイルで纏めたキメ細やかな髪。可愛い・儚いと言った言葉を打ち消すようにキリリと整った凛々しい表情。着ているのが古着のTシャツとGパンだと言うのに、全身から立ち上るオーラは彼女がまぎれも無い武人だと告げている。
 闇の書より出でし守護騎士ヴォルケンリッターの将たる『剣の騎士』。『烈火の将』の二つ名を持つ美女――シグナムは、その端正な表情を不快に歪めながら一人呟く。

 彼女がそう呟くのも無理は無い。

 のんびりと日常に漬かっていたと思えば急にどこかもわからない空間へと自分の居場所が変わり、悪趣味な話を聞かされたかと思えば人の首が飛び、状況を理解する前にまた視界が変化する。
 こんな不可解な現象に巻き込まれれば、誰だって冗談だと思うに違いない。例え歴戦の騎士であっても、だ。

「はやて……」

 だが、冗談で済ますには少々過激すぎた。
 すぐ側で吹き飛んだ首はどう見ても本物、火薬で焦がされた肉の臭いは作り物には到底出せない暗さを秘めていた。
 何より、あの場に蔓延していた不気味な違和感は、冗談などでは決してなかった。

 が、そんな事はどうでもいい。

 問題は、あの血塗られた場所にいた、車椅子に乗った幼い少女だ。
 少女の名は八神はやて。闇の書の主であり、ひいてはシグナム達ヴォルケンリッターの主。
 闇の書に囚われていた自分達を解放し、家族として迎え入れ、居場所を与えてくれた最愛の主。
 現在は時空管理局起動六課の隊長として働いているはずの彼女が、何故車椅子に乗っていたかはわからない。

 だが、事実としてそんな彼女もこの不愉快な催しに参加させられている。

 人が人を殺し、獣が獣を殺し、悪魔が悪魔を殺す、こんな殺し合いの舞台に。

「悲しい過去があろうと、消せない傷痕があろうと、生きる意味を見失わなければ人は強く生きていけるもの。か……
 残念だが、私には無理だったようだよ……テスタロッサ」

 心の底から搾り出したような悲痛な声と共に、デイバッグからある物を取り出す。

「私は、はやてを救う。守護騎士ヴォルケンリッターとして――」

 漆黒の中に金色の宝玉が埋め込まれたソレ。
 彼女の上司であり、戦友であり、親友である女性の使っていたインテリジェントデバイス。
 闇を貫く雷神の槍、夜を切り裂く閃光の戦斧。 

「――いや……はやての家族、ただ一人のシグナムとして。私は、はやてを救う。その為の力……借りるぞ」

 泣きそうな顔で告げられた言葉が吐息と共に霧散する。

「バルディッシュ、セットアップ」
『Yes sir!』

 淡い光に包まれ、シグナムの纏う服が消え去る。次に光が掻き消えた時、シグナムはバリアジャケットを身に纏っていた。

 既に彼女の顔からは色が消えている。
 起動六課ライトニング分隊のシグナムは、もういない。

 そこにいるのは、ただの騎士。

 やっと掴み取った暖かな世界から闇へと舞い戻り、最愛の人を救うために鬼となった、一人の女性だった。

 もう、言葉は要らない。
 彼女の中にあるのはただ一つ、八神はやてを救うこと。
 その為なら、どんな犠牲も厭わない。例え救いを求める者だろうと、歴戦の戦友であろうとも、斬るのみ。

 そう――何も気付かず座り込んでいる少女と戦友だろうと、迷いは無い。

 ◆ ◆ ◆

 一瞬。

 それは文字通り、一度瞬く間の出来事だった。
 どうしてこんな事になってしまったのだろう?
 何度自問しても、答えは、産まれる事がなかった。

 ◆ ◆ ◆

 少女――高町なのはがこの場所に連れてこられて、いきなり出会ったのは竜宮レナと名乗る少女だった。
 まず行ったのは、名簿を使ってお互いの知り合いの確認。どうやらお互い大切な知り合いが巻き込まれたらしく、不安そうな表情を浮かべながら与えられた支給品確認を行う。  
 残念な事にレイジングハートは入ってなかったが、代わりに入っていた歩く教会とかいう名前の修道服は、とにかく凄い丈夫な代物らしい。

 レナの視線を気にしながらいそいそと着替えを済ませると、レナはくるくる包丁を回していた。
 その慣れた手つきに多少怯えながら他に支給品は無いかと調べてみるがどうやらこれ一つらしい。
 レナの方に視線を向けてみると、そちらは他にも支給品があったらしく何かをじっと眺めている。

 ザッ、ザッ、ザッ

 不意に聞こえてくる足音。
 音源へと目を向けると、レナの50m程先から見知った女性が歩いてきていた。

 知り合いが無事だったことに安堵の息を吐きつつ、視界に移る女性の強さを知るなのはは嬉しそうな笑みと共に口を開く。

「シグナムさん!」

 弾むような声と共に笑顔で手を振るが、相手は全く反応を示さない。ただ一歩一歩、歩みを進めてくるのみだった。

 おかしい。

 自分の知るシグナムは確かに厳しい女性だったが、こんなにも暗い雰囲気を纏っていただろうか?
 そんな事を考えながらなのはは無意識に手を落とし、ギュッと握り締めた。
 知らず知らずに力がこもっている事にも気づかないまま不安そうにシグナムを見つめていれば、デイバッグを漁っていたレナがシグナムへと視線を向ける。

 最初は警戒するような視線を向けていたものの、なのはが声をかけると安心したのか笑顔と共に近付いていく。

 こんな状況だ、信頼できる仲間が多いに越したことは無い。
 レナがシグナムに話しかけようとするのもなんらおかしなことでは無い。

「バルディッシュ、行けるか?」
『Condition, all green. Get set.』

 なのに何故? どうして自分はこんなにも怯えているのだろう

「ハーケンフォーム……行くぞ!」
『Drive ignition.Haken,Form. cartridge set.』

 戦いを経て仲間になった相手に対し、どうしてこんなにも不安になっているのだろう。

「……え?」 

 その答えは、すぐに現れる。

「疾風迅雷、ハーケンスラッシュ!!」
『Yes, sir.Haken slash. 』

 一陣の風が吹く。

 渇きを潤すために、一度瞼を閉じ、開く。
 時間にして0,1秒もかからないような時間。

 目に映る景色は、大きく変わってしまっていた。

 目の前には、何故だかフェイトちゃんのバリアジャケットを纏ったシグナムさんがいた。
 手にはバルディッシュを構えて、真っ直ぐに見つめてくる。

 どうしたんだろう?

 そんな事を考えていると頬に生暖かい液体が当たる。
 真っ赤で、真っ紅で、赤い、紅い。
 慌てて手の甲で拭ったソレは、ぬるりと広がり、完全には拭き取ることが出来なかった。

 一瞬遅れて、何かが床に落ちる音がする。

 なんだろう?

 好奇心に駆られてそちらに視線を向けようとするが、体が金縛りにあってしまったかのように動かない。

 ポン、ポン、コロコロコロコロ……

 まるでボールのように弾みながら、ソレが視界に転がり込んでくる。
 視線をそらせない。
 紅を撒き散らしながら転がるソレには見覚えがあった。

 そう、ソレは確か――

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」

 ――竜宮レナの、首だった。



 ◆ ◆ ◆

 まずは一人目。

 無表情で高町なのはを見下ろしながら、シグナムは心の中で呟く。
 どうやら、自分と同じく彼女も専用デバイスを没収されているらしい。なにやら修道服のようなものを身に纏っていた。

 助かった、と思う。

 いくら不意打ちとは言え相手は管理局の白い魔王。
 はやてと同じく此方も子供の姿なのが気になるが……そんな余裕は無い。

 下手を打てばやられる。

 そう判断したシグナムは、我を失って叫び続けるなのはの胴に向けてバルディッシュを一閃。
 魔法によって強化されたその一撃は、目にも留まらぬ速さでなのはの体へと肉薄し、その勢いを殺さぬままに振りぬかれる。
 同時に、小柄ななのはの体はコンクリの壁へと吹き飛ばされると豪快な音を響かせながら叩きつけられ、ズルズルと地面へ崩れ落ちる。

「意外と……呆気ないものだな」

 シグナムがそう呟くのも無理は無い。
 なにせ相手は管理局の白い魔王。それがこんな一瞬で決着がついてしまえば誰だってそう呟くに違いない。

 とは言え、相手はバリアジャケットを装備してない生身の少女。
 いくら魔王と呼ばれている相手とは言え、そんな状態でこの一撃を受けては耐えられるはずも無い。
 冷静にそう判断すると、二人のデイバッグを拾い、中身を自分の方へと移す。
 空になったデイバッグはその場に放置すると、一度もなのはの方を振り向く事無くその場を立ち去っていく。

「後、51人」

 淡々と呟くその表情に浮かぶ色は、果たして。


【B-5 警察署の外/1日目・深夜】
【シグナム@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:健康
[装備]:バルディッシュ・アサルト カートリッジ残り5/6
[道具]:支給品一式×3、包丁、不明支給品1~3
[思考・状況]
基本:はやてを救う
1 はやて以外皆殺し
2 最後に自分も死んではやてを優勝させる

【バルディッシュ・アサルト@魔法少女リリカルなのは】 
閃光の戦斧の異名を持つ、フェイトの愛杖。杖というよりは、斧、鎌、槍の3形態を持つ近接武器のイメージの方が近い。
色は漆黒で、宝玉は金色。この宝玉には、起動時などに猫の瞳のような模様が浮き出ることがある。

【包丁@現実】
何の変哲も無い普通の包丁。
安物のため切れ味は良くない。



「う……んん」

 静寂を嫌うかのように小さな唸り声が挙がる。
 どうやら、まだ意識を取り戻していないらしい。

 声を唸り声をあげた少女――高町なのははまだ死んではいなかった。
 歩く教会の名は伊達じゃないらしく、シグナムの一閃の威力を殆ど消し去っていたのである。

 とは言え、壁に叩きつけられた衝撃は消しきれなかったらしく意識を失い昏睡していた。
 それが幸いしてシグナムから逃れられたのである。

 果たして彼女が目を覚ますのはいつになるのだろうか。

 そして、自らの目の前で失われた命を確認した時、彼女がとる行動とは。

 それはまだ、誰にもわからない。

【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に 死亡確認】

【B-5 警察署/1日目・深夜】
【高町なのは@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:気絶中、頭部にダメージ(小)、精神的ショック(大)、頬が血で濡れている
[装備]:歩く教会
[道具]:
[思考・状況]
基本:仲間を増やして脱出する。誰も死なせたくない
1 ???

【歩く教会@とある魔術の禁書目録】 
インデックスが着ている修道服。
教会における必要最低限の機能を抽出した、『服の形をした教会』である。
完璧に計算しつくされた刺繍や縫い方は魔術的意味を持ち、その結界の防御力は法王級。
布地はロンギヌスに貫かれた聖人を包んだトリノ聖骸布を正確にコピーした物で、
その強度は絶対であり物理・魔術を問わずダメージを受け流し吸収するという。
包丁程度では傷もつかず、これにダメージを与えられるのは『竜王の殺息』ぐらいらしい。
…のだが、作中でその素晴らしい効果を発揮する前に幻想殺しに粉砕されてしまったのはいかがなものか。
現在は布地を何十本もの安全ピンで留めているだけの危険な服と化している。



25:信じる人と演じる人 時系列順 27:坂井悠二は淡々と殺し合いについて考える
25:信じる人と演じる人 投下順 27:坂井悠二は淡々と殺し合いについて考える
マリア 37:事件は警察署だけで起きているんじゃない! ペンションでも起きているんだ!
シグナム :[[]]
竜宮レナ 死亡
高町なのは 37:事件は警察署だけで起きているんじゃない! ペンションでも起きているんだ!


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最終更新:2009年10月03日 15:01