フェイト・テスタロッサは考える。
目の前の相手は本当に人間なのだろうか?
「……フォトンランサー」
無詠唱で言葉を紡ぐと同時、フェイトの魔力によって生成された発射体(フォトンスフィア)から魔力弾が放出される。
フォトンランサーは直射型の射撃魔法である。それゆえ直線飛行のみで誘導性能を有しないが、代わりに弾速が速く回避するのは至難の業に近い。
まして、発動者はフェイト・テスタロッサ。その閃光は、余波によって舞い散る木の葉を破裂させながら対象者の心の臓へ向けて正確無比に喰らいつく。
並の魔導師の障壁ならやすやすと貫くその一撃を、非殺傷設定が無い状態で魔力を持たず障壁を張る事も出来ない一般人が受けたならば、その命は容易く失われてしまうだろう。
無論、フェイト自身にそんな経験は無いが、それでもわかる。何の対処もせずこの一撃を受ければ相手は確実に死ぬ、と。
自分に迫り来る閃光をこのまま受ければどうなるかぐらい、目の前の相手にだってそんな事はわかる筈だ。
それなのに。白く、白く、どこまでも白い存在は、避けようともせずその一撃を甘んじて受け入れる。
降り注ぐ魔力を受けて、相手の足元のタイルが爆砕する。
土煙、粉々に砕け散ったタイルの残骸、余波によって荒れ狂う風、それらが混ざり合い相手の姿を覆い隠してしまう。
もうもうとたちこめる土煙で見えないが、結果を見るまでも無いだろう。
自分の放ったフォトンランサーは、相手の心臓の辺りに間違いなく直撃した。その衝撃は全身を激しく吹き飛ばし、心臓の動きを停止させているだろう。
そうでなくては、おかしいのだ。
手応えは、あった。真正面からこれを喰らって立ち上がれる人間がいる筈が無い。まるで自分自身に言い聞かせるようにそう呟く。
なのに何故?
「あァ……なンつーか、弱っちィを攻撃チマチマとウザってェなァおい」
何故相手の声が聞こえてくるのだろう。
困惑するフェイトをよそに、段々と砂煙が霧散していく。
「どう……して?」
確実に死ぬはずの一撃を受けてなお、目の前の相手は生きていた。
閃光に包まれる前と全く変わらない姿で、全く変わらない表情を浮かべて、全く変わらない足取りで此方に歩いてくる。
呆然と立ち尽くし、まるで亡霊でも見るような視線を向けているフェイトの口から自然とそんな言葉が漏れ出す。
殺し合いの舞台でそんな隙を見せるのは殺してくれと言っているようなものだ。
そんな事はフェイトもわかっている。わかっていてなお動きを止めてしまう。
目の前の相手はフェイトの理解の範疇を軽く超えていた。
もしこれが、何らかの障壁を張られた上での結果ならまだわかる。回避行動をとり、急所を逸らしていたならまだわかる。
それならばフェイトにも対処のしようがあった。
フォトンランサー以上の魔法を放つなり、確実に急所に当たるようバインドで動きを止めるなり、選択肢は無数に存在していた筈だ。
でも、確実に死へ誘う筈の一撃を、十度も防がれてはどうしようもないではないか。
「ハッ!! もォ終わりかァ? 自分から殺しにきといてなンなンですか、そのザマはよォ!!」
恐怖。
今フェイトの心を占めているのは純粋な恐怖だった。
目の前の相手が、怖い。
「はぁ……はぁ……っ、フォトンランサー!」
悲鳴のような叫び声と共に、閃光が放たれる。。
フェイトの叫びに呼応してか、生成されたフォトンスフィアは四つ。そこから放たれる四本の閃光は、相手の動きを止めるかのように足元へ炸裂した。
もはやフェイトには相手を殺す意思は残されて無かった。
恐怖に支配された脳内が送る命令は単純。
ただ、近付いてくる相手から逃げるために。少しでも距離をとるために。
その為だけに魔力を放出しろ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
目を見開き、絶叫と共に紡がれていくのはフォトンランサー以上の威力を誇る砲撃魔法。
本来ならデバイス抜きでは発動出来ない筈の魔法。
しかし、フェイトの持つタバサの杖が彼女の叫びに呼応するように彼女の生み出す魔法をフォローし始める。
スラスラと高速で詠唱される呪文に比例するようにフェイトの周りに環状魔方陣が展開され、そこから更に高密度の魔力が生み出されていく。
生み出された魔力は一度杖の先端に収束、そこから雷撃の魔法へと高速変換。
時間にしてここまで約30秒。
近付いてくる相手は、自分の行動などまるっきり無視するかのようにゆっくりと近付いてくる。
更に十秒。相手との距離は15m程。
(この距離なら、外さない。外すわけが無い)
そう自分に言い聞かせながら、高密度の魔力を先端へと要した杖を相手へ向ける。
「撃ち抜け、轟雷! サンダースマッシャー!!!」
雷激を纏う高出力の奔流が、相手を滅ぼさんと唸りをあげながら放たれる。
夜の闇を切り裂くように、放たれる閃光が周囲を光で照らし始める。
轟音を響かせながら相手へと向かう荒れ狂う奔流は、コンクリートの地面を容易く砕きながら進む。夜道を照らす役割を任ぜられていた街灯は根元から巻き込まれ、莫大な熱量を一身に受け入れドロドロと形を失っていった。
射線上にあるもの全てを食い散らかしながら進む一撃は、その対象に白い存在を認めると、周囲の魔力を取り込みながらさながら濁流の如く降り注ぐ。
5秒、10秒、15秒。
少しずつ去り行く時と共に、相手を喰らいつくさんとする本流も次第にその力を失っていく。
だが、その結果を悠長に見守っている暇などフェイトには無い。
(これなら少しは足止め出来た筈。今のままじゃ分が悪すぎる……ここは一度引いて、体勢を立て直さないと)
あくまで、フェイトの目標は最後の一人になる事だ。
その為の一番手っ取り早い方法として殺して回る事を選んだだけであって、積極的に殺して回りたいわけではない。
勿論自分が死にそうであれば、迷わず逃げるつもりだった。
そして、今回は相手が悪すぎた。
無防備に攻撃を受けてなお笑っていられる存在など、どうしようもないではないか。
自分と同じく呼び出された参加者の中には、相手を倒せるような存在がいるかもしれない。
目の前の相手を倒すのは何も自分でなくても構わない。あくまで、自分が最後の一人になればいいのだ。
震えそうになる心を叱咤するように言い聞かせると、土煙に包まれる相手には目もくれず一目散に相手と逆方向へ走り去ろうとする。
「オイオイオイオイ。人にこンな事しといてドコ行くつもりだっつーの」
フェイトの考えは間違っていない。
勝ち目の無い相手に立ち向かって死ぬなど、それこそ無駄死にと言われても仕方が無いだろう。
そう考えれば、ここは逃げの一手を打つのが最善だ。生き残るためには、無茶をする必要は無い。
その為に、高出力の砲撃で相手の動きを足止めし、その余波で作り出した土煙に紛れて相手から逃げる。
考えうる限りでは、もっとも有効な一手だったと思う。
そう、ここまでは正解だった。
「いい加減黙って喰らっとくのも飽きたしよォ――」
間違っていたのは、認識。
自分と相手の間にある絶望的なまでの戦力差を、フェイトは理解できていなかった。
どれだけ策を弄しようとド素人がプロに勝てないように。
フェイトの打った一手は、目の前の相手にとって策ですらなかった。
「――いっぺん死ンどけクソガキ」
ゴガ、という音と共に、相手の足元から無数のコンクリートの破片が放たれる。
「ギ……ァ」
放たれるコンクリートは、唸りを上げながらフェイトに向けて突っ込んでくる。
その速さの前に成す術も無く、その体でコンクリートの弾丸を受け止め事しか出来ない。
小柄な体ではその威力を受け止めきる事など出切る筈も無く、壊れた玩具のように10数m吹き飛ばされるとそのまま硬い地面へとダイブ。
ガガガガ、と嫌な音を立てながらコンクリートの上を滑る。透き通るような白い肌は今は見る影も無くなっていた。コンクリートの破片に削られ顔のあちこちを血に染めながら、ようやくその勢いを失うと瀕死の芋虫のようにピクピクと地面を転げまわる。
激痛のあまり指一本動かす事が出来ない。なんとか立ち上がろうとするのだが、体は脳の命令を受け付けようとはせず、ひゅうひゅうと浅い呼吸を漏らしながら激痛に耐えようとする。
「ギャハハハハハ!! ンな愉快に寝転がりやがって、俺を誘ってンのかァ」
そんなフェイトを嘲笑うかのように、狂気の白が迫る。
(このままじゃ……死、ぬ……何とかしないと……っ)
愉快そうに顔を歪めながら迫る相手に対し、思いっきり横に転がる事で回避。
ほんの一瞬前まで自分のいた場所に、まるで高速の弾丸が突っ込んでくる事に恐怖を覚えるがそんな余裕は無い。
追撃が来る前にこの場を離れようと、灼熱の如く全身を襲う激痛を歯を食い縛って耐えながら杖を支えにフラフラと立ち上がる。
そのまま痛みに負けて手放しそうになる思考を奮い立たせると、ズリズリ足を引きずりながら少しでも相手から離れた場所へと歩き始める。
その足取りは朦朧としており、最早歩いているのかすら疑わしい。
だが、それでもフェイトは諦めない。
一歩、また一歩と先へ進んでいく。
周囲を見渡す余裕も無いのか、既に一方通行からの攻撃が止まっている事にも気付いていない。
「待ってて……母、さ……」
そして、そのまま眠るように意識を失うその瞬間まで、フェイトの足が止まることはなかった。
◆ ◆ ◆
ズシャァ、と派手な音を立てながら金髪の少女が崩れ落ちる。
それを確認してからゆっくりと側に座り込むと、口元の耳を近付け生死の有無を確認する。
唇が耳に触れる寸前まで顔を近付けてみると、荒い呼吸にはなっているがちゃんと呼吸はしているようだった。
なるべく手加減はしていたつもりだったが能力の調子が悪く、まだ小学生くらいであろう少女に対するには些か強すぎる攻撃になってしまった感は否めない。
全身を一瞥してみれば、艶やかで風に靡いていた金髪は泥と埃に包まれくすんだ色を放ち、まだ幼さの残る容姿は全身を激しく打ちつけた衝撃のせいか真っ赤な血に染まっている。
「チッ……こりゃァなンなンだ一体よォ」
少女の姿から目を離すと不機嫌そうに表情を歪める。
まるで、罪悪感を感じているかのように。
自分自身ではそれに気付かないまま、一方通行は苛々と地面を蹴りつける。
昔の自分なら確実に殺していた筈だった。
相手が何歳の子供でも関係ない。自分に牙を向く相手には容赦なく死の制裁を与えてきた。
あの時も、あの時も、あの時も。あの“妹達”の時も。
それなのに。それなのに、目の前の少女を殺す事はどうしても出来なかった。
何度も放たれた雷撃を反射すれば、簡単に息の根を止める事が出来ていただろう。
そんな事をせずとも、相手に触れて血液のベクトルを操作するだけで相手を殺す事は出来ていた。
相手がどれだけ足掻こうと、もがこうと、一方通行にはその全てを踏み躙るだけの力があった。
だが、結局一方通行が選んだのは少女を生かす道。
殺さないように気を使いながら、意識を失う程度に痛めつける。
殺すよりも遥かに神経を選ぶ方を、一方通行は選んでいた。
「クソッタレが。なンで俺は厄介な方を選ンでンだか」
自嘲するように、呟く。
一方通行が選んだのは、殺すより遥かに難しい道。
この少女が目を覚ませばまた自分を殺そうとするかもしれない。自分に怯えて、瀕死の怪我を負ったままこの殺し合いの舞台へ逃げ込むかもしれない。
一方通行は、それを止めなくてはならないのだ。少女を生かすために。
どうしてこんな道を選ぶのか一方通行自身にもわからない。
(あのガキといいこのガキといい……迷惑ばっかかけてンじゃねェっつの)
それでも、不思議と後悔は無かった。
目の前の少女を救い、打ち止めを救う。
あれだけ大量の“妹達”を殺してきた自分だが、それでも救いたい。
それを自覚しないまま一方通行はこの殺し合いの舞台へ上がる。
さながら、あの日出会った幻想殺しのように。
「このクソガキ……なンも考えず撃ちやがって。とりあえず移動すっか」
まるで照れ隠しのように言うと、周りを見渡してみる。
先ほどのやり取りのせいか、地面は抉り取られ街灯は軒並み溶解している。
誰がどう見ても戦闘があったとしか思えない。
加えて、少女の魔法によりここら一帯に轟音が響き周りに見えるほど閃光は光を点していた。
それを見た誰か――この殺し合いにのった奴らと遭遇するのは避けたかった。
自身の能力がいつも通りにいかないうえに、今は足手纏いも抱えている。
こんな状態で誰かに遭遇するのはあまりに危険すぎる。
周囲の気配に気を配りつつデイバッグから地図を取り出すと、数秒考え込む。
(このガキ連れたまま森に入ンのは危険すぎる……かと言って高校や警察が絶対安全とは言い切れねェ。
それならいっそ森に身を隠すってのもありだが――それじゃアイツを見つけンのに時間がかかりすぎる。)
頭の中をぐるぐると思考が駆け巡る。
どうするのが一番いいか。メリットとデメリットを頭の中で構築し全てリセット。
最優先事項は打ち止め。
(……警察だな。アイツが素直に泣いてる奴だとは思えねェ。行動するとしたら、一番安全そうに感じるココだ)
学園都市第一位の演算能力をフルに活用して打ち止めの思考をトレースすると、一気に結論を導き出す。
目的地は隣のエリアにある警察署。
そう決めればもたもたしてる暇はない。
二人分のデイバッグを背負うと、所謂お姫様抱っこの形でフェイトを抱えあげる。
「お……母……さ」
「……………………………」
フェイトの無意識の呟きに、一方通行は答えない。
無言のまま警察署へと歩みを進めていく。
あの日救えなかった少女達。
その代わりになるとは思っちゃいない。
ただ、もう二度と悲しむ人を作らないように。
せめて自分の手のひらで包めるくらいは救ってみせる。
「なンて、俺らしくねェよな……つーか気持ち悪ィ」
とある少女との出会いを経て心の奥底に生まれた気持ち。
一方通行がそれに気付くのは、きっと――
【B-5 病院の玄関/1日目・深夜】
【一方通行@とある魔術の禁書目録】
[状態]:苛立ち、少し前髪が焦げている、自身の能力制御がうまく行かない事に違和感。
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、写真入りCD-R@魔法少女リリカルなのはA's、大河の写真@とらドラ!、高槻やよいのブロマイド@THE IDOLM@STER
[思考・状況]
基本:打ち止めを探す。本当の意味で無敵になりたい。
1:警察署に移動する。
2:少女を守りつつ打ち止めを探す。
3:北村ってさっきの長髪の女が叫んでた奴か?
[備考]:アニメ20話「最終信号」終了直後から回復させての参戦。
能力の制御が普段より雑になっています
【フェイト・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:ダメージ(大)、全身に擦り傷があり血まみれ、意識不明
[装備]:雪風のタバサの杖@ゼロの使い魔
[道具]:支給品一式、不明支給品0~2
[思考・状況]
基本:この次元世界から脱出し、早くプレシアの為にロストロギア回収を再開したい。
1:母さん……
2:この次元世界からの脱出、その為に出切る事はなんでもする。
[備考]:ロストロギア回収途中から参戦。
なのはとの面識があるかは不明。
一方通行との戦闘で病院周辺がボロボロになりました。
また、轟音や明かりが周辺にも漏れたため誰かに戦闘があったと気付かれる恐れがあります。
最終更新:2009年08月17日 22:05