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第十五章-第二幕- 待ち伏せの塔






勇者軍主力部隊は、湖の町であるハイアード・タウンへと到達。
敵の追撃部隊を確実に捲いた事を確認すると、すぐに休息を取る。
特に怪我のひどかったフローベールも、病院での治療が済むと、
流石に頑丈なようで、すぐに動けるようになった。

ごごご……
勇者軍主力部隊は、休憩の最中に、突然地震を感知した。
そう酷い揺れではないものの、一度や二度ではなかった。
一時間に、三回、ないし四回ものペースで起こっているのだ。
大災害の予兆なのかと思い、バスクはすぐさま端末を開く。
スーパーコンピュータ<メシア>4号機へのアクセスを試みたのだ。
地震の震源地を探れれば御の字、というところであろうか。

「何だと?」
数分後、検索結果が返ってきたのを見て訝るバスク。
(どしたのー?)
ジルベルトがまず近寄ってきた。次いで他の者も寄ってくる。
「震源地はこの近く……、
 勇者軍が『湖上の塔』と呼ぶ地点で、震源高度は0mです。
 地表で起こった地震という事になります。あり得ない」
「人為的に起こされた振動という事か。気にはなるな」
テディも露骨に怪しむ。
「チトセが来てくれたとは言え、
 キョウカ王妃を置いていくわけにもいかん。
 最低限の護衛を残して調査に行くのが妥当だろうな」
とのテディの提案に、全員が頷く。
「メカに強そうなバスクとドルカスは外すわけにはいかん。
 それ以外にキョウカ王妃の手元に置いておけるメンツとなると、
 俊足である必要があるが……誰にしようか」
「私がやるわ」
と、ソニアが一人で買って出る。
「一人で大丈夫なのか?」
「私を誰だと思ってるの? 勇者軍屈指の俊足ランナーよ。
 囮になってキョウカ王妃を逃がしたって、
 単独で脱出してみせるわ」
「……過信は禁物だと思うがな」
「何よ、私じゃ無理だって言うの?」
と、テディが渋るので、妙にソニアが意地を張ってしまう。
「分かった分かった。そこまで言うならやってもらおう。
 ただし、敵の幹部がいるからって深追いはするんじゃないぞ」
「分かってるわよ、それぐらい。
 じゃあ行ってらっしゃい!」
と、ソニアが手を振るので、心配しながらも
キョウカ王妃と愛馬チトセ、そしてソニアだけを宿へ置いたまま、
猫達も連れて、勇者軍主力部隊は湖上の塔に向かったのである。

そして勇者軍主力部隊は、湖上の塔に到着するなり、
いきなりクソ怪しい機械を見かけた。
かなりの大規模なマシンである。
掘削用の機材と思われるが、こいつが振動を起こしていたらしい。
「地下基地でも作るつもりだったの? 誰がこんな事を……」
と、ルシアが手を伸ばして触れようとすると、
いつの間にか、傍に一人の女性が座り込んでいた。
「だ、大丈夫……ですか? おなか痛いとかですか?」
メイベルが近寄って心配そうに問いかける。
「あなた達、とても強そうですね……」
「は?」
メイベルもさすがに真意を計りかねて間抜けに応じる。
「あなた達に殴られたり叩かれたりしたら、とても痛そう……
 ねえ、お願い。私をめいっぱい傷付けて下さい。
 私に生きてる実感を与えて下さらないかしら?」
「い、嫌です! あなた別に敵でもないのに……ッ」
凄まじく陰気な口調でこの懇願。
果てしなく怖かったのでメイベルは断った。
「なんで……なんで攻撃してくれないの?
 私はとても痛みを味わいたいのに……なんで?」
女性はいきなり態度を豹変させ、
いつの間にか手に槍を握っていた。
「うおっ!?」
コンラッドは慌ててメイベルを女性から引き剥がす。
いつ動いたのかも静か過ぎて分からなかったが、
凄いスピードで斬りつけていたのだ。
「ねえ、お願い、私を傷付けてよ……
 何もしないままだと、私、ジモンさんに怒られちゃう。
 ああ、でもそれも素敵かもしれない……でも駄目……
 直接ぶったりしてもらう方が、もっと素敵だもの……
 でないと、趣味じゃない罠まで仕掛けた意味が無いもの……」
ドルカスがその一言で察した。この掘削機は
わざわざ勇者軍をおびき寄せるためだけの餌だったという事を。
もう間違いない。この女性は敵なのだ。
それも、ジモンを直接見知る関係という事は、
幹部クラスの人物なのだろう。何やら怖いが。
「私ってば失礼な事をしていますね……
 私はリンナ=リンクス。こんな失礼な私に、
 どうか慈悲あるお仕置きを……
 ふふ……ふふふふ……うふふふふふ……」

凄まじく陰気な笑みを浮かべながらにじり寄るリンナ。
びしばしびしばしびしぃッ!
このままでは埒が明かないと思ったのか、
エイリアが鞭を握って寸断無く、かなりの数の殴打を叩き込む。
「どうだ、望み通りにしてやったぞ。
 満足したなら消え失せろ!!」
頭から流血するリンナ。
「ああ……ああ……痛い、痛いわ……素敵……なんて素敵なの?
 私はこうやって痛みを感じている……生きているのね……
 清々しい気分だわ……もっと……もっともっともっと!
 もっと殴ってくれなきゃ嫌ぁぁッ!」
凄まじい気迫をもって立ち上がるリンナに戦慄するジルベルト。
まったく思考が読めない。否、読んでも理解出来ないのだ。
「こいつっ、しつこい!!」
レイリアがフォローに入るべく、対物破砕銃を精密狙撃する。
だが、リンナは素早く回避する。
「そんな凶器は……駄目……駄目、駄目よ。
 だって直撃したら一瞬で終わっちゃう。
 そんなのつまらないわ。やっぱり生きる実感を味わうなら
 鈍器でガッツリいかなきゃ駄目に決まってるのよ」
うって変わって生き生きとした目で自分の持論を述べるリンナ。
そう言いながらも彼女の攻撃は休まらない。
流血してふらふらしているというのに、
その動きはやたらと静かで精密、
しかも連続で攻撃を仕掛けてくる。
「ったく、気持ち悪いんだよッ!!」
テディがハンマーで露骨に殴打すると、
更に流血しながら破顔一笑する。
「痛い、痛い痛い痛い痛い! 素敵! 素敵ですあなた!
 シーゲル様と一緒にずっと私をぶっていて欲しいぐらいです」
「ぐっ!」
更にふらふらになりながらも一切怯むことが無いどころか、
恍惚の表情を浮かべて喜び、愉悦する彼女にテディも戦慄する。
それでいて、致命傷クラスの一撃を確かに避けているのだ。
メイベルなどはもはや混乱するしか無かった。

そうして戦闘すること既に四十分以上。
殴られた事によって失神した回数は一度や二度ではなかったが、
立ち去ろうとすると何故かすぐに
起き上がってくるのだ。凄まじい執念である。
「いい加減に――しろッ!!」
ヴァジェスのブレス、そして続くゼクウの手裏剣を巧みに、
しかし信じられないほどふらふらと回避し、
もはや死ぬのではないかと思うような様子で、
ただ無言で自分の悦楽のみを求め、
リンナはしつこく攻撃を仕掛けてくる。
「こいつ、不死身なの!?」
流石に嫌気が差してフローベールが絶叫する。
だが、今までの戦いで、ドルカスは彼女の弱点を見付けた。
「テディ、もっかい彼女を殴りなさい! それに合わせるわ!」
「……何か考えがあるのだな!? 分かった!!」
テディがハンマーを振りかぶって
リンナの横っ腹へ叩き込もうとすると、
リンナは回避どころか、むしろそれを食らいに行くように動いた。
「レイリア、麻酔弾を用意……今!」
ばんッ!
ハンマーのインパクトと同時に
着弾するタイミングで麻酔弾を発射。
レイリアとドルカスの麻酔弾が見事に着弾。
ようやくリンナは倒れ伏して動かなくなった。
「悪いわね。あなたの趣味に付き合っている程暇じゃないの。
 まあ、勇者軍の敵として戦うには確かに厄介な相手だけどね」
と、銃口の煙を吹き消すドルカス。
「なるほど、奴は殴打なら食らいに行くから、
 それに合わせたわけか。考えたな、ドルカス」
「あんたの殴打が餌になってくれたからよ」
テディの賞賛にもクールに応対するドルカスに、周囲は苦笑した。

が、いつの間にかリンナを敵兵士が回収して
治療に当たっている事までは気付いていなかった辺り、
ドルカスも詰めが甘いと責めるべきなのだろうが、
今までに類を見ない相手だけに、それを責めるのは若干酷だろう。
その後、二時間ほどをかけて、
勇者軍主力部隊は湖上の塔を調査したが、
何やら大型のゴーレムを調整するための機材以外は
何も見つからなかった。
件の機材は勇者軍内では周知の事実なので
敢えて誰も触れなかったが、
予想外に時間がかかった事に、サイモンは辟易していた。
「なんで敵はあんな変な奴等ばかりをよこすのかなあ。
 どうせあれじゃあ僕等には勝てないだろうに」
「陽動じゃないか?
 ここへ来てる間に、キョウカ王妃を捕らえに行くとかよ。
 どうせ、俺達の行動は敵に四六時中監視されてるんだろ?」
と、軽くコンラッドが言ったのに、全員が振り向く。
「それか!!」
「それなのか!?」
ジョークで軽く言っただけの言葉に
過敏に反応され、コンラッドも驚く。
「……かなり二人とは距離がある……
 いけない、ソニア達が危ない!」
ルシアが慌てて先走ろうとするので、次いでジルベルトが、
そして残りのメンツが慌てて追う。戻るまでに湖を挟むため、
それなりの時間がかかってしまう。
間に合うかどうかは分からないが、
勇者軍主力部隊はとにかく急ぐしかなかったのであった。

時を遡ること、三十分以上前――
一方のソニアとキョウカ王妃は、喫茶店にチトセを繋いで、
のんびりお茶など楽しんでいたのだったが、そこを出るタイミングで
銃弾が発射された音を聞いた。
「危ない!」
ちゅん!
キョウカ王妃を押し倒して、かろうじて自分を狙った銃弾を回避。
どこかへ逸れて跳弾はどこかへと飛び去るが、外したと見るや、
敵兵士がどこからともなくわらわらと出てきた。
町民たちが逃げ惑うのを押しのけ、
敵兵士達が二人へと殺到してくる。
「敵!?」
キョウカ王妃は慌ててチトセへと騎乗し、
ソニアは拳を構えて臨戦態勢へと移るのだった。
「意地でもキョウカ王妃は捕まえさせないからね!
 あんた達、しつこいのよ! しかも市街地で……!
 出来るものならやってみなさい!!」
ソニアはキョウカ王妃を守るために、
敵兵士集団に真っ向から立ちはだかった――



<第十五章-第三幕-へと続く>
最終更新:2011年02月20日 23:00