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第十五章-第一幕- 地を駆ける忠の駿馬






レイリア、エイリア、サイモンと合流し、大きな目的の一つを果たした
勇者軍は、続けてキョウカ王妃とイスティーム王、
並びにその娘ユイナ姫とを再会させる方向で話を進めつつ、
敵を撃退しながら出来る限りの情報を探るという方向で話がまとまり、
チルド・シティからすぐさま出立。遂にザン共和王国領内へと
本格的に足を踏み入れるに至ったのである。
そして真っ先に立ち寄ったのは、ヴェール・シティ。
レースで繁栄を得た、海洋都市である。
その海洋都市に足を踏み入れ、
さっそくそこら辺をほっつき歩いていると、
何やら器用に二足歩行する黒猫らしき生き物が
こちらの猫達に近寄ってくる。
「にゃーにゃーう」
「にゃんにゃんにゃん!」
「にゃーにゃ!」
「にー!」
何やら盛り上がっているようだが、レイリアは一目で見抜いた。
あれはケット・シー。以前とある勘違いから
勇者軍を苦しめた妖精族だが、和解したので何やら猫同士、
親睦を深めているのだろう。
「ほう、ケット・シーとはな。珍しいものを見たぞ」
と、ヴァジェスが大仰に驚く。竜族のテリトリーでは
まあ見ないであろう生き物なので当然だが。
だが、そこからが妙だった。
慌てて、きなこを筆頭に猫達がジルベルトにすがりつく。
「?」
「にゃーにゃーにゃー!」
何やら必死に伝えようとしているらしいので、
テレパス能力を解放して、ジルベルトは愛猫達の心を読む。
(この街が誰かに包囲されてるって言ってるよ!)
(しかもどうやら、僕達を探してるみたい!)
(マスター、脱出しよう、急ごう!)
(あのケット・シーはそれを教えに来てくれたの!)
あんみつまで加わって凄い剣幕で怒鳴りたてるので、
最終的にジルベルトはどう伝えていいか混乱してしまった。
「敵」
と、ゼクウがジルベルトが伝えるべき事を察して言い放つ。
「何だと? 本当か、ゼクウ」
「伝」
猫達が言いたい事を伝えたのみ、と言いたいようである。
それを大まかに察して、ヴァジェスも指示を出す。
「あまり騒ぎ立てるな、ここは市街地だ。
 まず猫共とレイリア、エイリアは
 キョウカ王妃の護衛に回れ。
 こちらとしても防衛対象は
 一箇所に集まっていて欲しいからな」
「うん、分かった」
「任せておいてくれ」
「ゼクウ、偵察を頼むぞ。敵の規模と脱出ルートの確認を頼む」
「了」
ゼクウはすぐに去っていった。
「残りは前衛に出る。いいな?
 気付かれないに越した事はない。
 ジルベルトとゼクウは心配無いと思うが、出来るだけ
 無駄口を叩かないように、静かに脱出できれば理想的だ。
 逃亡しつつの戦闘となると、
 キョウカ王妃に無理が出るからな」
「了解」
ルシアを筆頭に、全員が頷いた事でこの作戦は承認となった。

ゼクウの到着を待つこと約三十分。彼は戻ってきた。
「完」
偵察任務を完了したようで、概要をメールで送信してきた。
『敵は四方から包囲を敷いているが、むしろそれ以外が手薄。
 我は、北西ないし、南西からの脱出を推奨するものである』
「ご苦労。ならばどうせ北に進むのだ。北西から行くぞ」
「よし、分かった」
ヴァジェスの指示にテディが頷き、全員がひっそりと歩き出す。
キョウカ王妃も念のためにと用意したフードをかぶって顔を隠す。
市街地での騒ぎは出来るだけ避けたかった。
何としても脱出したいところだが、無事にいく保証は無い。

そして街の出口にて、検問らしきものが用意されていた。
明らかにネイチャー・ファンダメンタル軍のものである。
「お前はただの市民だな、通って良し!」
また一人、市民が通過したと思しき声が聞こえる。
「さあ、次の者、前へ!」
係官と思しき人物が、勇者軍を見定める。
「…………武器はともかく、特に不審な点は見当たらん、か。
 妙に人数が多いのは若干気になるが……」
入念にチェックして変装したのだから当然とも言えるが、
敵は思ったよりしつこいようであった。
「…………まあ、いいだろう。通れ!」
内心、勇者軍全員はホッとしながらも悠々と通過――
「待てぃ!」
しようとした時に係官が制止してくる。
「な、何か?」
ソニアが作り笑いしながら切り抜けようとするが、
残念なことに敵も甘くはなかった。
「何かじゃない! その女性の物腰や身のこなしは、
 VIPレベル特有のものだ! 何故、こんな所に
 そんな重要人物がいるのだ!? 戻って来い!」
キョウカの物腰の独特さは、
よほどの貴人であると彼には映ったらしい。端から見れば
分からなかったが、見る人が見れば分かるのだろう。
もう演技は通用しそうに無かった。
「ちっ、バレたか……逃げろ、キョウカ王妃!」
コンラッドが必死にキョウカ王妃に前を歩かせる。
「キョウカ王妃だと! まさか貴様等は!!」
「通過寸前まで来てから気付くようでは遅いな!」
テディがハンマーで地面を叩き、
地面を隆起させて即席のバリケードを作る。
「おのれ、包囲網の薄い所を狙ってきたか、
 今すぐ隊長に知らせろーッ!」
大声でバリケードの向こうから係官が喚き立てるが、もう遅い。
キョウカ王妃を気遣いながらも、じわりじわりと
勇者軍主力部隊は遠のきつつあった。

次第に包囲網から兵士達が離れ、勇者軍の追撃にかかる。
着実にそれを退けながらも、
キョウカ王妃の撤退がいまいち進まない。
レイリアとエイリアが同行している上に、
肝心の王妃の足が遅いのだ。
「ちっ、厄介な!」
ドルカスが麻酔銃を乱射しながら、悪態をつく。
敵の兵士の数がやはり尋常ではない。ウィルスユーザーズなど
遥かに凌ぐ規模で活動しているとしか思えないのだ。
幸い守るべき対象が撤退中という事もあって、
防衛に専念すれば撃退は出来なくも無いが、
それでは逆にキョウカ王妃と離れ離れになる。
一応レイリアとエイリアがついているとは言え、
それはそれで多角的配慮面から危険だと言える。
いっそキョウカ王妃が俊足の持ち主なら
一緒に走る方が安全なのだが――

と、いきなり勇者軍の真正面に一人の男が立ちはだかる。
「見つけたぞ、勇者軍。このシーゲル=クーパーの包囲網を
 ここまで掻い潜るとは、やってくれるが……ここまでだ」
「あなたが指揮官なのね!」
フローベールが息巻いて早速攻撃を仕掛ける。
「間合いが甘いわ、素人!」
びっしぃッ!!
フローベールとベアトリスの連携攻撃を苦も無く防ぎ、
手にした鞭でベアトリスを叩く。
「ひひんばー!」
「ベアトリス、大丈夫なの!?」
あまりの痛みにもがくベアトリス。
殺傷そのものよりも痛みを与える事にこだわった構造の鞭らしい。
「ふふははは、獣風情が一人前に苦しむか!
 ならば娘、次に同じ目に遭うのは貴様だ!!」
冷静に話していたかと思えば、急にテンションを上げるシーゲル。
「可哀想じゃない! なんでそういう事するの!」
ベアトリスをさすってやりながらフローベールが猛抗議する。
「貴様には分からんだろう!
 生き物の悲鳴というものによって
 我が身に与えられる優越感! 快感!
 これはたまらんものだと!」
「分かるわけないでしょう! もう許さない!」
「待て、フローベール、軽率だ!」
ベアトリスから降りて突貫するフローベールを
制止しようとするバスク。だが、もう遅かった。
「ふんっ!!」
びしばしッ!
「ぐっ!!」
鋭い悲鳴をあげて、フローベールがその場に突っ伏す。
喉元を二回も叩かれ、相当に苦しい目に遭っているようだった。
「かっ……は……」
ロクに呼吸も出来ずにかなり長い時間苦しんでいるが、
ようやく落ち着くと、敵を睨み据える。
「なんだ、その目は!」
ごすぅッ!
フローベールを雑に蹴り飛ばすシーゲル。
「がっ!!」
フローベールは更に吹き飛ぶ。
顔を蹴られたらしく、流血していた。
「野郎、もう勘弁ならん! ヴィッセル!!」
なおもフローベール一人を執拗に攻撃しようとするシーゲルに対し、
バスクが激昂して突撃しようとするのを、メイベルが制止する。
「止めないでくれ、メイベル!」
「自分が圧倒的に人より優位だと
 思い上がっている人に対してなら、
 私が行かなきゃならないの……
 それに適しているのは私だから」
「メイベル?」
「よくも私の友達を――許さない……!」
メイベルはいきなりスカーレット・アーマーのブースターを展開。
兵を制圧するために動けない他のメンバーに代わって、
シーゲルに天罰をくれてやるべく、真紅の雌鹿は飛翔する。
「なっ……アーマーナイトが飛ぶ!?」
驚愕したシーゲル。だが既に遅い。
かろうじて反撃するも、量産物の鞭などでは
スカーレット・アーマーに傷すら付けられなかった。
「アフターバーナーターックル!!」

がごしゃっ!

「がっ!?」
メイベルは時速500kmを突破するスピードで激突。
とんでもない勢いで地面を滑るシーゲル。擦過傷だらけだ。
「メイ……ベル……」
「フローベール! 大丈夫なの!?」
「痛い……けど、だいじょぶ。傷は深くはないみたい」
シーゲルはよろよろと立ち上がる。
流血している自分が信じられないようであった。
「痛い……痛い? 痛い、痛い痛い痛い! 馬鹿な、馬鹿なぁぁ!
 このような事があっていいはずは、無ぁぁぁいぃぃぃぃ!!」
狂ったように怒り狂うシーゲル。
「許せん! 一人たりとて逃がすな!! 全員生け捕りにしろ!
 私自ら、嬲り殺しにしてくれる! 覚悟するがいい!!」
シーゲルの指示で敵の攻勢はより一層激しくなった。
このままではキョウカ王妃が危ない。

少し離れていたレイリア、エイリア、キョウカ王妃の小隊は、
ネイチャー・ファンダメンタルの主力部隊に
ほどなく追いつかれようとしていた。
「まずいね……どうしよう」
エイリアが呟く。
「すみません、足手纏いで……
 最悪、私一人置いて行っても……」
「そんな事言っちゃ駄目だよ、キョウカちゃん、ほら、急ご」
「レイリアさん……でも、大丈夫なのでしょうか……」
「世界最強の勇者軍に守られてるんだよ、もっと自信持って」
レイリアは懸命に、キョウカ王妃を励ます。
だが、すぐ後方にまでシーゲルが迫っていた。
どうやら防衛網を強引に怒り狂ったまま突破してきたらしい。
「来るのか!」
エイリアが、続いてレイリアが迎撃態勢を取る。
「キョウカ王妃、かぁぁぁくごぉぉぉぉぉぉ!!」
キョウカ王妃だけを狙って、シーゲルの鞭が飛ぶ。
そんな攻撃がキョウカ王妃に回避出来るわけはなかった。
が、その瞬間――
「ぶるっひひひぃぃぃぃぃぃぃぃん!」
ごがッ!
シーゲルの前に割り込み、
空中で身体を捻りざまに後ろ足で蹴る馬。
「ごふぁっ!!」
シーゲルが無様に吹き飛ぶ。
馬は見事に着地し、地面を滑走する。
そして落ちたシーゲルの所へ一直線に向かい――
ぼす! ぼす! ぼす! ぼす! ぼす! ぼす!
「げはっ! ごふっ! ちょっ! やめっ! がっ! べぶ!」
これまた怒り狂って、その健脚で何度も何度も
それはもうしつこくしつこく、ひたすらに
シーゲルの腹やら頭やらを蹴りまくる雌の馬。
いい加減シーゲルが動かなくなったのを確認して、
勝ち誇るように鳴く馬。なんとなく誇らしげだ。
呆然と見守っていたキョウカ王妃はその馬と、
それに付けられている鞍と鐙に見覚えがあった。
「ち……チトセ?」
「ひひん!」
嬉しそうにキョウカ王妃に近寄ると、乗るように促す。
それはユイナ姫の愛馬であるチトセそのものであった。
「そう……ありがとう。
 あなたがユイナの代わりに助けてくれるのね」
そう言うと、キョウカ王妃は意外に軽々と騎乗し、手綱を握る。
「さあ、一緒に行きましょう。ユイナの所へ」
「ぶるるっ!」
ひと鳴きして、キョウカ王妃と猫を乗せたまま、
全力で駆け出すチトセ。
「エイリア、これで一気に脱出出来る。走るよ!」
「分かってる、遅れるな!」
レイリアとエイリアも全速力で走る。

前線も一気に動くキョウカ王妃に気付いた。
「急にキョウカ王妃の移動速度が上がった……何があった!?」
バスクがフローベールの手当てをしつつ驚くが、
ルシアはもっと冷静だった。
「そんなモンどうでもいいでしょ! 原因は知らんけど、
 これならみんな全速力で走れば振り切れるわ。逃げるわよ!!」
「分かりました! ベアトリス、きついだろうが頼むぞ!」
「ひひんばー!」
バスクに励まされ、フローベールを乗せてベアトリスが飛翔する。
次いでバスクがそれを護衛するように馬を走らせる。
「ヴィッセル! ベアトリスに続け!」

それらに続き、残りのメンバーが順次離脱していく。
殿をメイベルとヴァジェスが勤め、無事に振り切った。
ネイチャー・ファンダメンタル側も、
指揮官が気を失ったままでは無理な追撃戦を行う事も出来ず、
取り逃がすしかなかったようである。

勇者軍は速やかに移動しつつ、大きく西進して、
湖の町、ハイアード・タウンへと苦もなく到達しつつあった――



<第十五章-第二幕-へと続く>
最終更新:2011年04月16日 21:06