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第十五章-第三幕- マキナの脅威






前方から敵の大集団が迫った事により、ソニアはやむなく
キョウカ王妃を守っての孤軍奮闘を
強いられる事態となったのであった。
「キョウカ王妃、ここは私一人で凌ぎます。
 ジルベルト君の所へ一人で逃げて下さいますか?」
「そんな……あなた一人置いて行けと?」
「いいえ、私一人だけじゃ厳しいので、急いで
 ジルベルト君達を呼び戻して欲しいんです」
「……分かりました。急ぎます!」
キョウカ王妃が同意したので、ソニアはチトセの腹を叩く。
「さあ、後ろに敵はいないわ。突っ走ってちょうだい、チトセ!」
「ひひぃぃん!!」
どからっどからっどからっ!
凄まじい速度で走り出すチトセ。
正直キョウカ王妃が振り落とされないか心配ではあったが、
キョウカ王妃も割と必死に
手綱を握っているので心配は少ないだろう。
それより今は目の前の敵集団と思しき兵士達への対処である。

「……で、キョウカ王妃をむざむざ逃がしたって事は、
 わざわざ私に何の用なのかしら?」
「ふん、意外に抵抗が激しいようなのでな。作戦を変えて、
 一人捕まえておけば、精神的な動揺を誘えると思ったまでよ。
 勇者軍リーダーに近しいと思われる貴様なら、むしろ好都合だ。
 あの小僧ならば露骨に動揺してくれそうだからな」
と、前に出てきたのは、
ネイチャー・ファンダメンタルのリーダー、
ラッカード=ジモンであった。
相変わらず無駄に身振り手振りが多い。
「相変わらず姑息だこと。いくらサブメンバーとはいえ、
 勇者軍をまともに敵に回して、
 無事に帰れるだなどと思わない事ね」
ずだん!
足を踏み鳴らすソニアに、早速怯む敵兵士達。
よく見れば包帯まみれな者などもおり、
直接ソニアに殴られた兵士もいるのだろう。
その強さは必要以上に理解していたのだった。
「大体、仮に負けたとして
 大人しく生け捕りにされるとでも思ってるの?
 意地でも逃げるなり何なりしてやるっての!!」
ソニアはそう言いながらも、逃げるどころかむしろ前へ駆ける。
いけ好かないジモンに一発叩き込んでやるつもりだった。
「ずぇいッ!!」
大振りの連続パンチがジモンへと叩き込まれる。
五発放ったうち、三発が回避され、
一発を受けられ、一発がヒットした。
「ぐっふぁ! ふふふぅ……やぁぁるではないかぁ」
だんだんテンションが上がってくるジモン。
「ふふふはははは! 楽しい、楽しいぞ!
 こうでなくてはならんというものではないか!!」
「戯れるなッ!!」
どごすッ!!
ソニアが更に鉄拳を叩き込もうとすると、
ジモンはゆらりと動き出し、素早い一撃をソニアの腹に叩き込む。
「かはっ! 女の子のお腹叩くなんて、非常識な奴……ッ!
 将来子供が産めない身体になったらどうしてくれんのよ!!」
「あんな惰弱な小僧の子など産む必要も無かろう!
 どうせ産むなら我輩のように強靭な男の子を産むことだ!
 それが自然の摂理というものであろう、ふふはははははは!」
クソ勝手な事をほざくジモンに、ソニアが憤る。
「私がッ!」
ごがん!
「誰と付き合おうと!」
どごん!
「あんたの知った事かぁぁぁぁッ!!」
二回地面を叩きつけ、大量の土砂が巻き上がる。
ソニアはその土砂を腕に纏い、超重量の土の拳を作り上げる。
「アースナックル!!」
どごす!!
ソニアの最終奥技がジモンのどてっ腹に叩き込まれる。
「うぐぁっはぁ! だが、いい!
 我輩が苦しい時は相手も苦しい!
 それが戦いの摂理道理心理ぃ! ふふふははははははは!!
 それでいい、それでいいのだ、我が世の春が来たぁぁ!!」
意味不明の事を口走り始め、
それによって更にテンションが上がるジモン。
「どおぉぉぉぉりゃああ!」
更に一撃を叩き込もうとするソニアの動きに合わせ、
ジモンがカウンターで斧を叩き込む。
ざぐっ!
「がふっ!」
ソニアが寸前で気付いたが、軽く腹を切り裂かれる。
「また……お腹……ッ!!」
悪態をつきながらも、ソニアはようやく不利を悟った。
「逃げないと……!!」
ソニアは素早くきびすを返し、
ジルベルト達の向かった湖上の塔の方角へと
ややよろめきながら素早く逃げ始める。
「ふふふははは! 女! 気に入ったぞ!
 マキナぁ! 生け捕りにするのだぁぁぁ!!」
「マキナ!?」
その名に驚くと、いつの間にか湖上の塔への進路を塞ぐように、
あのデウス=エクス=マキナが市街地にも関わらず立っている。
しかし回避するだけの余裕は与えてもらえなかった。
ばちんッ!!
平手で雑に叩かれただけだが、
その攻撃はジモンの攻撃の比ではなく、
大きく地面を滑り、ソニアは戦闘不能となり、気を失った。
マキナはその大きな手でソニアを軽々と握る。
「生け捕り……成功した。気を失っているだけ……」
「ふふふははは! よくやった!
 この女を人質として持ち帰る!
 その後の処遇はゆっくりと牢に閉じ込めてから考えてやろう!
 者共、喜べぃ! 我が軍の、あ、勝利であぁぁぁるぅ!!」
妙な物言いで勝利を祝うネイチャー・ファンダメンタル軍。
「者共、凱旋である! 引き上げるぞ!!」
「おおーッ!」
珍しい戦勝ムードに浮かれまくりつつも、速やかにソニアを
特製の檻に入れ、運び始めるのだった。

そして時が経過すること、しばらく。
リンナ=リンクスをようやく撃退して
帰路についていた勇者軍主力部隊は、
突如としてキョウカ王妃と愛馬チトセを目撃した。
「大変です、皆様!!」
「キョウカ王妃、どうした!?」
コンラッドが問いかける。
「ソニアさんが敵の大軍に襲撃されています。ソニアさんは私に、
 皆さんに急いで救援に向かうように伝えてくれって――」
「ほら見ろ、だから過信は禁物だって言ったんだ!
 急ぐぞ、ジルベルト! ……ジルベルト?」
見れば、もう前を走っていた。気が急いているのだろう。
ゼクウも同様のようで、その後ろを走っている。
「兄様を追いましょう……」
次いでメイベル、そして残りのメンバー、
最後にキョウカ王妃とチトセがジルベルトを追い、
そしてソニアを助けるために動くのだった。

そしてハイアード・タウンの街中。
戦闘の痕跡だけが静かに残されていた。既に逃げ惑っていた
一般人達も、とっくに街に戻って各々の仕事に戻っている。
「おい、誰か! 俺達は勇者軍だ! 俺達の仲間が
 ここで戦っていたはずだ!
 どうなった! 誰か見ていないのか!?」
バスクが慌てて周囲に呼びかける。
「あ、ああ……俺逃げ遅れてそばで隠れて見てたけど、
 その人なら負けて気を失って……大軍の方に連れてかれたよ」
「どこに!?」
「知らないけど……変な喋り方の奴と、デカいのと戦ってた」
「くっ……ジモンとマキナか! 反応、追えないのか!?」
レーダーを必死に探すが、既に有効範囲外だった。
見ると、ぼろぼろと涙をこぼすジルベルト。
「ソニア……さん……ソニアさん……」
よほどショックなのだろう。戦意さえ失っているように見える。
「ジル君……」
そっ、と肩に手を置くキョウカ王妃。慰めようがないのだろう。

……しかし、その時、テディの端末に連絡が入った。
「こちらテディ、誰だ?」
「俺だよ、久しぶりだね、テディ」
「……ライナスか!? どうした! 近くにいるのか!?」
「ハイアード・タウンからは割と離れた位置にいるが、
 君達からそう遠い位置、というわけでもないようだ。
 急いでそちらに合流しようと走っていたんだが、
 何やら怪しい集団と、デカい奴と、変な檻っぽいのを見かけた。
 主力部隊の作戦行動に何か関係があるんじゃないか?」
その通信内容に全員が驚愕し、そしてテディの端末を見る。
「大有りだ! 重要どころの話じゃない!!」
「そうか。で、俺は何をすればいいのかな?」
そこまで言うと、ジルベルトが割り込んだ。
「決まってるのー! 後を付けて拠点の位置を割り出すのー!
 ソニアさん助けなきゃ駄目なのー!!」
凄まじい剣幕で喚き立てるジルベルトに、全員がまたも驚く。
「ジル君、あなた……」
キョウカ王妃は非常に鈍い事に、ようやく気付いた。
ジルベルトが好いているのは、
幼馴染みで自分の娘であるユイナ姫でなく、
あのソニア=メーベルヴァーゲンであるという事を。
「……まあやっぱりそう言うだろうと思って、
 実はこっそりと、後をつけてる。気付かれてない。
 ただ隠密行動ってのがあんまり得意じゃないから、
 偵察に使える人員を一人か二人ほどよこして欲しいかな。
 拠点の位置の特定まではバレたくないから、ね」
「既にやるべき事が分かってるんなら
 いちいち意味の無い確認をすんな!
 ゼクウ! フローベール!! 分かってるな!?」
「是」
「行きましょ、ベアトリス!!」
ヴァジェスの要請で、二人が頷き、動く。
「二人が到着するまで何としてでも
 見失うんじゃないぞ、ライナス!」
コンラッドも檄を飛ばす。
「分かっている。あんな大軍見失うものか……通信を一旦切るよ」
通信が切れた。

ぼろぼろとこぼしていた涙を拭き取ると、
凄まじい気迫と闘志をその目に宿らせたジルベルトが、
真っ先に無言で歩き出す。
「……ソニア、大事だもんね?」
ルシアの問いかけに、ジルベルトは頷く。
「むざむざ奪い取られたなんてシエルやジークに知られたら、
 後で怒られちゃうもんね?」
その問いかけに、また頷く。
「……助け出そうね。私達の手で」
三度目の頷きは敢えてせずに、ジルベルトは先行した
ゼクウとフローベールの向かった方向へ、
猫を抱いたまま走り出す。
ルシアが、次いでキョウカ王妃が、
そして残りのメンバーも後を追う。
打と意地と誇りの名の下に、ソニアを救い出すために。



<第十六章-第一幕-へと続く>
最終更新:2013年08月23日 19:59