第二十八章-第一幕- 轟然たる竜騎士
がちゃん、がちゃん。
相変わらずの重装鎧、
スカーレット・アーマーに
身を包んだメイベルが、頭に猫の
あんみつを乗せてやってきた。
「お、すっかり戦闘態勢だな?」
「うん、コンラッド君……エルリック君は元気?」
かなり長い説得の末に、ようやく事情を了承したメイベルは、
一応コンラッドの養子であるエルリックをも気遣ってやる。
「おう。立つにはもうちょい時間がいるがな、まあ元気だ。
それより、これまでの経緯はちゃんと聞いているか?」
「うん……
ヴェール・シティの壊滅……
FSノア49の蹂躙……
ジルベルト兄様の成長……そして
ザン共和王国民政部の妨害……
どれもこれも、ちゃんと報告で聞いてる……」
メイベルは鎌を持って、気合を入れる。
「だから、今は戦う……負けるわけにはいかないもの」
「よし、行くぞ!」
メイベルを連れて、コンラッドはマフィア本部施設を出た。
そして、外で待っていた主力部隊に合流する。
「あの……先程手紙を預かりました」
メイベルは、シルヴィアに手紙を渡した。
「私にですか? たぶん母さんからだと思いますけど」
手紙の送り主を当てられ、メイベルはびっくりする。
「なんで分かったんですか?」
「なんとなくです」
「はあ……」
話があんまり噛み合っていないが、納得する他無かった。
『ミームがもうすぐ調整終了しますので、出来たら送ります』
とだけ書いてあったが、それは最重要事項と呼べるものだった。
それを確認次第、出立する勇者軍だったが、
一通りの戦力が揃った以上、当座の作戦目標が無くなったことになる。
「どうする?」
ソニアとシエルがジルベルトに訊くと、ジルベルトは考え込む。
そして、彼なりに一つの結論を出した。
(一旦、船に戻ってFSノア49が出てくるのを待つのー。
どこの大陸に出てきても、即時対応出来るのー)
「と
なると、近くの陸地に接岸させる必要があるな。呼ぶか」
コンラッドが慌てて、
レッド・ワイズマンMk-Ⅱを呼ぶ。
その後ろで船酔いに弱いユイナ姫がひとりため息をついていた。
前の戦役の最終決戦場であった
アルヘイ島の近くに接岸するというので、
とりあえずはそこを目指して移動することにしたのであった。
だが、百歩も歩かないうちに、事態は急変した。
リゼルの端末が突然、警報をあげ始めたのだ。
「生命反応、二つ! 直上です、回避を!!」
リゼルの警告を聞くまでもなく、
警報の時点で全員回避行動に移っていた。
「ぐぎゃぁおぉぉぉぉぉぉ!」
竜の咆哮だ。ブレスとは違う、ただの絶叫である。
そのあまりの声量に、思わず全員が耳を塞いだ。
「な、何なのだ……?」
立ち直ったジークが見ると、そこには見慣れない竜に乗った
仁王立ちの男がいた。どうやら風変わりな
ドラゴンナイトらしい。
「悪いが、もう一、二手ほど妨害工作を打たせてもらうぞ、
勇者軍主力部隊の諸君。私が何者か、もう分かるだろう……?
そう、私が
ヴェルファイア=ブレッドである」
ザン共和王国民政部の筆頭にして首相のお出ましだった。
「頼りの無い部下に愛想が尽きて自らご出陣か?
ご苦労な事だな、ヴェルファイア!!」
ヴァジェスが凄んでみせるが、いささかも動じていない。
「ふ、戦い慣れない異能者相手は興味深かったろう?
威勢の割には、随分と苦戦してきたと見える」
「何だと!?」
テディが怒鳴るが、ライナスが制止する。
「事実だ。随分と厄介だったよ。痛い目も見させてもらった。
おかげさまで自分達の慢心が消え失せたさ」
「だろうな。だがまだだ。我が孫娘程度に苦戦しておいて、
なお、その慢心が残っているなら、それを砕かせてもらおう」
ヴェルファイアは仁王立ちのまま、
目だけで主力部隊を睨み据えた。
それを合図と感じたのか、乗っている
ドラゴンが戦闘態勢に入った。
「レックスドラゴンの『
コモド』が諸君等の相手をしよう。
手加減は必要無い。思うようにやれ、コモド」
レックスドラゴン――
四足歩行に特化した竜で、豪快な俊足と、
猛烈なジャンプ力を糧に移動する、ほぼ飛行は不可能な竜である。
だが、それだけに四肢のパワーは強大で、
下手に飛行可能なドラゴンより厄介な場合がある。
その
レックスドラゴンの『コモド』が突進を開始する。
「うわわッ!!」
流石にまともに組み付かれてはたまらない。
メイベルとジルベルト以外の全員が回避に移った。
回避しなかったメイベルは真っ向から受け止める。
「ひゃっ!」
大きく跳ね飛ばされこそしたものの、転倒することなく、
かろうじて受け流す事が可能であった。
コモドが走った後の地面には生々しい足跡と爪跡が
刻み込まれており、そのパワーを感じさせた。
「なんてパワーなの……! まともに受けたら
私等ごときじゃ、無事じゃあいられないわね……!」
最初から空中に退避していたセシリアが呟く。
「うにゃぁぁぁ!」
流石に明確な不利を悟ってか、猫達は大きく退避する。
「騎兵も不利だ! 逃げとけ!!」
コンラッドの指示で、騎兵も全員退却する。
この状況では、空中戦が出来るか、
あるいは小回りの利く者でなければ
相手の仕様が無いほどの脅威であった。
「避けろ、ヴァジェスーっ!」
突然、テディが凄い声量で叫んだ。
手を出しあぐねていたヴァジェスに向かって、
コモドは土塊を掬って投げつけてきた。
「うおッ!?」
飛行していない
ドラグーン形態のヴァジェスだったが、
その襟首をイシターが引っつかんで、どうにか回避した。
「すまん、イシター! 今のは割と本気で助かった!」
「遠近問わず凶暴ですね……無事で何よりです」
「負傷を恐れるな! 俺達にはこれがある!
聖杯ライブチャージャーの力を支えにしろ!!」
テディが聖杯ライブチャージャーの存在を示す。
「おう!」
ゼクウやギース、ライナスやソニアが真っ向から勝負に入る。
敵の攻撃はある程度メイベルが受け流してくれるので、
多少は損害も抑える事が出来た。
だが、他の竜族とは一線を画する陸上用に特化した
凶暴さや強力さが、次々と勇者軍にダメージを与える。
素早く、実にタフで、しかもパワーがあり、隙も少ない。
トータルバランスに優れた非常に厄介な相手だった。
しかも、上のヴェルファイアはただ立っているだけなのだ。
彼まで攻撃に加わったら勝てる保証は無い。
いい加減ザン共和王国民政部との決着を付けたい勇者軍にとっては、
この戦いは退けない戦になりつつあった――
最終更新:2011年09月17日 21:46