第二十九章-第三幕- 民政部の真意(後編)
勇者軍主力部隊は民政部の幹部達の総がかり攻撃によって、
なし崩し的に乱戦へと持ち込まれてしまった。
多数の人員が負傷もしくは一時的に拘束されたりしながらも、
なんとか
ミミックマン、メロウ、フィアナの三名を撃退した。
ようやく
メロウ=クミンを撃退して一息ついたライナス達のチームだが、
そこへ
ヴェルファイア=ブレッドと愛竜
コモドが切り込んでくる。
「うわわッ!?」
大慌てでその場から退避するライナス。
「させません!」
怪球ミームを掲げ、シルヴィアが即座に対応しようとする。
「コモド!
ストレイトシャウトだ!!」
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
甲高く、しかも凄まじい音量の咆哮が辺りに轟く。
直接戦闘している者だけでなく、他区域での者まで
思わず動きを止めて耳を塞いでしまう。
耳を塞がなければ鼓膜をやられてしまいかねない破壊力だ。
シルヴィアも例外ではなく、ミームの制御に失敗した。
「みー、みー!」
怪球ミームはてーん、てーんとバウンドして
遠くへ離れてしまった。
途中で制御が解かれてしまったせいである。
「今だ、コモド!」
ヴェルファイアが相変わらず仁王立ちのまま指示を飛ばす。
コモドは即座に対応し、突撃を敢行する。
「そうは……させない……!」
メイベルが前に出る。鎧のおかげでいくらか騒音が軽減されたのだ。
「
アフターバーナータックル!」
ずごぅッ!
赤い鋼鉄の塊と化したメイベルが轟音をあげて突貫。
ずがんッ!!
これまた凄まじい轟音を立てて激突。
「ぬぐぉッ!?」
「ぎゃぁぅ!!」
ヴェルファイアとコモドは揃って転倒。
マキナのような超巨大物が対象で無ければ、
やはりこの攻撃も破格の破壊力があった。
「クロス!」
更にリゼルが奥技で仕掛ける。
「アイアンメイデン!!」
下から大地が隆起、上から氷柱の二段攻めで
鋼鉄の処女の如く、上下からコモドを挟み撃ちにするリゼル。
「ぎゃぅぅ!!」
まともに動けなくなったコモド。
どうやらヴェルファイア自身が大した戦闘力を持っていないようで、
実質、コモドの救助に専念せざるを得ないようであった。
「首相ーッ!」
そのリゼルの横から戦域を離脱してまで
レオンハルトと愛馬
エルトリオンが仕掛けてくる。
リゼルの退避はすぐには間に合わない。
「無理をするな! 下がれッ!」
そこへテディとドルカス、そしてセシリアが立ちはだかる。
「とぉぉりゃあぁ!」
テディのハンマーがレオンハルトの槍とぶつかり合う。
「そこッ!」
ドルカスの狙撃銃と、セシリアの弓がレオンハルトを狙うが、
レオンハルトは一切の無駄の無い動きで回避してみせる。
「ブレインフォックス、貴君か!」
「その名でなど、今更!」
更にドルカスが仕掛けようとすると、レオンハルトが構える。
「
ブレイド・オブ・アイシクル!!」
氷柱が槍を覆い、強化される。彼の奥技だ。
「そんな距離で槍なんて!」
ドルカスも追撃しようとするが、レオンハルトは槍を突き出した。
「バスタァァァァショットォ!」
なんと、氷柱がそのまま
バスター系魔法の如く飛来する。
「これは!? ソニアの真似だとでもいうの!?
そしてソニアが一つの戦闘の流れを作った、と!?」
予想外だった。ドルカスはすんでのところで回避するが、
次々とブレイド・オブ・アイシクル・バスターショットが
セシリアやドルカスをかすめていく。
「させん!
マグマロックストライク!!」
地面を隆起させるテディのハンマー。
土塊に地熱を帯びさせて叩き込む。
思わず槍でガードしてしまうレオンハルトだが、
隙はそこにこそあった。
「二ノンの翼、発動!」
セシリアが二ノンの翼を発動させて、そのまま疾走する。
陸上歩行の補助装置として使っても異常に優秀である。
相手の背後まで回りこんでから弓を一撃叩き込む。
それでもレオンハルトは寸前で回避するが、
そこにドルカスの狙撃砲が待ち受けていた。
「予測射撃! アイズ・オブ・バーバリアン!」
狙撃砲『アイズ・オブ・バーバリアン』が火を噴き、
彼の
槍の穂先ごと、肩を撃ち貫いた。
「ぐおっ!」
とうとう落馬するレオンハルト。
パラディンとしても
破格の実力であるが、やはり多人数相手では分が悪かったようだ。
そのテディとドルカスに向けて、
ソーサーが飛来する。
「ぬおっ!」
「わわっ!」
二人は大きく退避し、聖杯ライブチャージャーの力で
周囲の補助に回る事にするつもりだったが、ソーサーは
それを許さず、二人を追撃にかかろうとする。
だが、そこにソーサーが一枚対抗してかかる。
ジルベルトが念動力で動かしているものであった。
もう一枚のソーサーもソニアが見事に受けた。
アースナックルをホールド状態で使っているのだ。
もちろん、ソーサーの使い手はリルル、否――
念動力使用中のみの人格、
シャルル=ブレッドである。
「これ以上好き勝手はさせないわ!」
更に三枚のソーサーを展開。脇から乱入しようとした
コンラッドを抑制し、残る二枚をユイナ姫に向けた。
これでコンラッドは完全に動きを封じられてしまった。
「
チトセ、好きに動いていいわ! 武器は私が抑えます!」
「ぶるひひん!」
チトセに機動を任せ、自らは二枚のソーサーを何とか払いのける。
「私を忘れちゃ駄目なのよね!」
シエルが無理矢理乱入し、呪文でソーサーを攻撃する。
「シエル! 無理しちゃ駄目!」
「この構図、懐かしいたらありゃしなくて、
それで燃えちゃうのよね。おかしいかしら!?」
シエルが生き生きと回復呪文を唱えつつ言う。
「懐かしい?」
「私と、お兄ちゃんと、ユイナ姫とソニアさん!
初陣の時と同じメンツなんだもの! ここにいる人って!」
「そう言えばそうですね!」
妙な一言で士気が上がり、ユイナ姫は槍をしまう。
「チトセ! 五十秒時間をちょうだい、それで決めます!」
「ひひん!」
チトセは懸命にソーサーから逃げ回る。
「ユイナ姫! 大人しく降参して! 怪我をするわ!」
あくまで強気にシャルルが言い放つ。
「シャルル! 勇者軍の底力を甘く見ない方がいいわ。
幻杖レプリアーツ! 力を示してちょうだい!」
幻杖レプリアーツが輝き、その力を示す。
その中から現状に最適な技を選び出し、抜き取り、使う。
「
デスヴォイスシャウト!!」
ジルベルトとシエルの義姉、ラティシアの奥技だ。
彼女の声が衝撃波となって伝わり、周囲の地盤が緩み、
電波が撹乱され、地面に軽く亀裂まで走る。
そのレベルの音波攻撃の前では、シャルルも力を失い、
リルルに戻るしかなかった。こうなれば無力である。
「はぁぁぁぁぁッ!」
槍を取り出し、一気に接近する。
シャルルならともかく、リルルでは反撃の術は持たない。
「きゃぁぁぁぁッ!?」
「殺しはしません! ただ痛いのは我慢して!」
ユイナ姫が斬りかかろうとする、が――
「そこまで! 我々の敗北である!」
と、ようやくコモドを助け出したヴェルファイア首相が
声も高らかに、しかも威風堂々と宣言してのけた。
「そこまで、って……」
あまりに唐突な終了宣言に、ユイナ姫も、リルルも呆然とする。
「並びたまえ、諸君! 我々民政部はこれより
勇者軍主力部隊と、共同戦線を張る!!」
「えええええッ!?」
主にフィアナとリルルのあげた声であるが、民政部一同、驚いた。
勿論、勇者軍も驚いた。壮絶にである。
「ど、どういう事ですか、首相!?」
だが、フィアナの言葉は無視して、ユイナ姫を呼ぶ首相。
「ユイナ姫もよろしいか!? 我々はこれより協力して、
FSノア49を完全に撃墜する作戦に当たる!」
「と、言われましても、なんでいきなりそんな事に?
民政部はFSノア49と停戦交渉を続けるつもりだったのでは!?」
「あれは――嘘だッ!!」
あまりにも堂々とした態度に、開いた口が塞がらない一同。
ただし、レオンハルトを除いて、ではあるが。
「嘘ぉ!?」
「うむ。勇者軍にも、民政部にも嘘をついていた!
私の狙いは、あまりにも強大なFSノア49に対して、
勇者軍の警戒心を煽り、全力を出す決意をさせた末に、
最初から民政部と共闘して事に当たる事にあったのだ!」
「だ、だったら最初から言って下されば良かったのに……」
「自衛だ何だと慢心更々の寝言を聞いているだけの
余裕を出して勝てる相手ではない。だからこそ我々は
自ら憎まれ役を買って出て、あなた方の危機感を煽った。
それこそ、味方まで騙して、だ。すまなかった」
「…………」
何か釈然としないものはあった。ここまで策略で
好き勝手に弄ばれていい気分がするものではない。
だが、四の五の言っている場合でもなかった。何より――
(分かったのー。一緒に頑張るのー)
という身も蓋も無いジルベルトの同意があっては誰も拒否出来ない。
「では案内しよう、もうすぐFSノア49が修理を完了する。
出来れば我々の内輪揉めで警戒が緩んだ隙を突きたい、急ぐぞ」
「りょ、了解!」
あくまでヴェルファイア首相及び民政部の主導で、
勇者軍主力部隊は共同戦線を張る事となった。
最終決戦はもう目前である。
FSノア49は、そう離れていない位置で修理を進めていた――
最終更新:2011年09月24日 23:02