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第3部 終章-第三幕- 史書に載らぬ未来






そしてC・C1248、ジルベルトが18歳になるのを待って、
ジルベルトとソニアはとっとと結婚してしまった。
まあ当然の帰結なので、そこは誰も何も言わない。
で、更にその二年後、C・C1250の時点で二人には子供がいた。
娘である。名前をミリア=ストレンジャーといった。
それから五年の月日が経過。C・C1255の時点では更に
ミリアの弟として、ハーディ=メーベルヴァーゲンが産まれており、
ゆっくりとではあるが、ようやく乳幼児を卒業しつつあった。

「あーうー」
ハーディはゆったりとソニアに抱かれ、満足気な笑顔を見せる。
それを見てジルベルトとソニアは二人でほのぼのしていた。
傍で本を読んでいたミリアはすっ、と立ち上がる。
「父上、母上」
と、ミリアが唐突に二人を呼んだ事で、振り向くジルベルト達。
「どしたのー?」
「一緒に抱っこしようか? ミリア」
あくまでのほほんと接する二人に対し、
どこかぼーっとしたような目で二人を見るミリア。
そして、静かに、しかし流暢に口を開き始めた。

「古来、生物の進化というものは
 各種交配や遺伝子プールなどにおいて
 強く、また環境に厳しく適応出来る者のみが生き残れます。
 然るにおいて、植物などがこれに該当すると思われますが、
 動物も基本的には例外ではありません。中には赤子の状態でさえ、
 それなりの自立が可能な力を有した生物もいるほどとされます。
 ですが、人間のように親の力を借りなければ歩く事も、生きる事も、
 また知能を高める事さえ出来ない生物は極めて稀だと言えましょう」
五歳児の垂れる高説をじっくりと聞いてやる親二名。
毎度の事だが結構な辛抱強さだと客観的に評価していいはずだ。
「人間の赤子は極めて脆弱でありながら、人間以外の動物にも
 時に保護してもらったりと、本来あるべき進化の流れとは
 真逆の性質をもった生物だと言ってもいいかもしれません。
 それは父性本能と一般に称される保護欲を刺激する性質が
 人間の形状に由来するものであると
 私は仮説を立てました。つまり――」
「つまり?」
と、そこまで言ってからミリアは、弟ハーディに近寄り、頭を撫でる。
「可愛いですよね、赤ん坊」
つまりはそれに尽きるのであった。

にゃーにゃー鳴いてミリアに撫でてくれるよう催促する猫達。
いつの間にやら、きなこが仔猫も生んでいて少し大所帯になった。
「人間が猫に対する愛情を人類の子供に対する愛情に
 例えて表現する説も現在、多く聞かれているといいます。
 これは猫が他の動物に比べ、顔に対して大きな目を
 持つことが、人間の赤子や他の動物の子供を連想させ、
 可愛い、と感じる要因になっているとも思われるそうです。
 という事はですね、要するに――」
「要するに?」
ミリアはようやく催促に応じ、猫達の喉を撫でてやる。
「可愛いですよね、猫も」
まあ、やっぱりそれに尽きるのであった。
猫達はしっぽをミリアの指に巻きつけたりして、
親愛の情を示していたりする辺り、
やはりストレンジャー家の子であると言ってよかった。

と、このようにミリアは若年にして、
恐ろしいインテリぶりだが、彼女がさっきまで読んでいた本は
かの『相対性理論』を『中高生』向けに
分かりやすく解説する本である。
半ば彼女はこの理論をもマスターしつつあったのである。
要するに勉強疲れの気分転換に弟を撫でたかっただけであろう。
実に、回りくどく育った娘であった。誰のせいかは知らないが。
それを理解すると、またほのぼのし始めるジルベルト達。

で、ひとしきりハーディが眠ってしまうと、
割と夜もいい時間なので、ミリアも軽く目を擦った。
「父上」
今度はジルベルト一人を呼ぶ。ソニアはハーディを抱っこしたままだ。
「何ー?」
前よりはいくらか口数も多くなったジルベルトが応じる。
「幼少時の精神形成は、親とのスキンシップやコミュニケーションに
 多大な軸を置いていると、私の経験から考えて間違いないです。
 そもそも親に庇護されているという信頼感が、
 健やかな子供を育てると断言して間違いないと思います。
 まず言わせていただければ、人は理解出来ない物を恐れる生物で、
 理解している物を恐れる必要はまったく無いと言えるでしょう。
 然るに、寝る時にただ暗くて怖いと快適な睡眠環境と
 適切な休息、果てには肉体の健全な生育に支障が出ますので……」
ひょい、とミリアはジルベルトにしがみついた。
「一緒に寝ましょう」
要は甘えたいだけであった。
「なのー」
特に意味の無い応対だけして、ジルベルトとミリアは
寝室へ引っ込んでいった。それを追って、ソニアとハーディも
仲良く寝室へと引っ込んで行くのであった。

とろん、と眠りそうなミリア。ハーディはとっくに寝ている。
それを川の字的に挟んで、ジルベルトとミリアは苦笑した。
「なんで、こんな風に育ったのかしらねー」
「分からないのー。たぶんソニアさんのせいなのー」
「私のせいなのー?」
くすり、と笑うソニア。
「そうです……」
「え!?」
やっぱり、とろんとした目で今にも眠りそうなまま
返事するミリアに驚く二人。
「母上は……私に……情の深い人物になれ……と……
 そう仰られて……私を育てました……
 けど、たまたま私は反抗期だったので……
 ついつい、反骨心が先に立ってしまい……」
「って、あんたまだ五歳でしょ!? 何が反抗期よ!」
小声で、しかし叱責するソニア。
下手するとハーディが起きるので、
ジルベルトは慌てて止めた。泣かれるのは勘弁である。
「そして理の方が先に立つ人間に……すぅ……」
どうやらそこで力尽きて眠ってしまったらしい。
「……この子、将来どうなるのかしらねぇ」
軽く頭を抱えてソニアが唸るが、ジルベルトは
ハーディのお腹を軽くぽんぽん叩いて気にしてもいない。
「なるようになるのー。だってこの子は、
 僕達勇者軍の後を継いでいく子なのー。
 本人がどうしようもなくても、周りが支えてくれるのー」
「そうね。私だけが気にしてもしょうがないかもね。
 それじゃあ、もう寝ましょう。お休みなさい……」
「お休みなのー」

そして明かりが消されて、夜は静かに更けていく。

こうして、ジルベルトの次代からしばらくの間は、
勇者軍の名前が史書に載ることも無くなる。

だが、人々よ、決して忘れてはならない。
勇者軍がある限り、いや人類がある限り、
世に大乱の種は尽きまじ。

だが、人々よ、決して忘れてはならない。
その度に、何度窮地に立たされようと、
勇者軍は絶対勝利を掴み取るのだ。
それが人類史上最強の自衛互助組織である限り。

そして人々よ、決して忘れてはならない。
この物語さえも、伝説の一端に過ぎない事を――



<勇者の館G 完結>
最終更新:2011年09月05日 21:41