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第六章-第二幕- 三重波状攻撃作戦(中編)





勇者軍主力部隊は、カルナード港周辺で足止めを食い、
ダイギン城のソルジャー達をようやく撃退したのであった。
しかし休んでいては更なる攻撃を受けるリスクが高まるため、
一休みする暇も無く、速やかに行軍を再開する準備を行っていた。
「さて、ぶっ潰しに行くとするかね、シドミード王国!」
ローザが真っ先に立ち上がり、皆も追従する。
既に敵を撃退してから五分以上が経っている。
これ以上留まる事は得策ではないのは明らかだった。
「よし、行軍です、出発!」
ウォルフ王子の指示が飛び、一同が歩き始めた途端――

「真打ちを迎えぬまま、舞台を去るおつもりですか?」
今度は黄色の騎士が現れた。どうやら事態を
今まで静観したらしく、近くにいたにも関わらず、
誰もその存在を察知出来ていなかったようである。
「白虹騎士団だな」
「ええ」
マリーの問いに、ゆるりと答える黄色の騎士。
「白虹騎士団、イエローナイトです。お見知りおきを」
随分と礼儀正しく一礼するが、マリーは挨拶は返さない。
「随分と無礼者ばかりかと思ったが、礼儀正しいのもいるようだな。
 だがそれは戦場においては不要な礼の作法だ。気に入らぬ」
マリーは槍を抜き、イエローナイトに突きつける。
「我等武人の挨拶は、口で語るより、これよ!」
「そちらがお望みとあらば、如何様にも」
イエローナイトは棒を取り出し、構える。
「烈風!」
マリーがジーニアス家の伝統武技となっている
『烈風剣』の技を繰り出す(ただし持っているのは剣ではないが)。
確実に急所を撃ち貫くための必殺技である。
「疾風!」
それに対応して、イエローナイトが同じくジーニアス家に伝わる
『疾風剣』の技を繰り出す。恐ろしく素早い連続攻撃だ。
「な……!?」
マリーが驚愕のあまり動揺するが、イエローナイトは
当然であるかのように平然としている。
「己が技の強力さに溺れて、それが模倣される可能性など
 考えもしなかったようですね。ははは……無様ですよ」
「黙れ! オリジナルにデッドコピーが勝てるものか!」
「それを慢心というのです」
動揺からか、マリーの技に乱れが出る。
「ほら、隙だらけ」
どごすッ!
右肩に一撃を叩き込まれるマリー。
「ぬぐっ! 武人を愚弄するのか、許せぬ!」
痛みとプライドが邪魔して、更に激昂するマリー。

「ヒールバスター!」
すると、エナの治癒魔法がマリーの傷を癒す。
「無粋な……」
イエローナイトがエナを睨む。
一瞬怯むが、エナは構わずマリーにゆっくり告げる。
「無粋かもしれなくても、どんなに無様で卑劣でも、
 大事な人を……仲間を見捨てて戦うような事は
 私には出来ません。それが……いえ、
 これが私の、私に出来る反逆ですもの!
 一人で乗り込んで暴れるだけの匹夫の勇を
 振るうだけの人に、なじられる謂れはありません!」
「それで正しいのだ、エナ!」
マリーも冷静さを取り戻し、構えを取る。
「仁に過ぐれば弱くなる。義に過ぐれば固くなる。
 礼に過ぐれば諂となる。智に過ぐれば嘘を吐く。
 信に過ぐれば損をする。私はこれらの中道を行き、
 無の境地に達し、それを一つの極みとする也!」
そう高らかに宣言したマリーに加勢しようとする
エリックとローザを止めるウォルフ王子。
「何故止める、ウォルフ王子!」
「彼女一人で充分です。冷静さを取り戻した彼女は、強い」

「来い、不必要だがそちらの流儀に合わせてやる」
マリーは指で誘う。
「随分な余裕で。ならばお言葉に甘えて……疾風!」
「疾風!!」
二つの疾風剣が、槍と棒にてぶつかり合う。
そのスピードたるや、まさに超音速。
傍目に感知出来るような状態ではなくなっていた。
その余波が弾け飛び、周囲にいる味方に吹きつける。
「隠れろ!」
ロバートはマントを展開し、シールド代わりにして味方を守る。
「うお、そういう使い方があったのか!?」
驚くエリックにサムズ・アップを黙って返すロバート。

互角であったはずの打ち合い、
互いへのダメージもほぼ互角だったはずの競り合い。
だが、少しずつ……本当に少しずつではあるが、
手数においてマリーが圧倒し始め、そのうち
多数の攻撃がヒットし始める。
「わああああッ!?」
大きく吹き飛ばされ、かろうじて受け身を取るイエローナイト。
「個人でこれだけの力量を持ちうるとは……
 匹夫の勇はどちらですか!?」
「少なくとも私でないのは確かだ。私の後ろには
 これ以上無いほど頼りになる者達が控えているからな」
「化け物め……!」
勇者軍の実力に戦慄し、つい毒づくイエローナイト。
「貴様等はその化け物に手を出したのだ。
 人の法で己が身を守れるなどと、
 ゆめゆめ思うなよ、愚物め!」
更に追撃しようとするマリーの勢いに押され、
イエローナイトは凄まじい機動でその場を離れる。
既に鎧は傷まみれ、本体にもダメージがいっているはずだが、
やはり白虹騎士団はまともな生物でない、と推測されるだけあり、
構わず恐ろしい耐久性と敏捷性で、退却していった。

「所詮はデッドコピーか。たかが知れる」
鼻息も荒く、マリーは武器をしまう。
「やれやれ、おかげでこっちは少し休ませてもらったよ」
ローザがありがたそうにマリーと握手する。
「これぐらいはジーニアス家なれば当然のことだ。
 即ち、カレン家も、スターリィフィールド家でも然り。
 誰が相手をしていても、大して差は無かろうよ」
そしてマリーはエナの頭を撫でてやる。
「だが、貴様の言葉は効いた。万の援軍の心地よな」
マリーは初めて、一同の前に満面の笑顔を見せる。
「い、いえ……私、大したことは……」
「恥じらう事も無い。助かったぞ」
「そうからかってやるんじゃねぇ。
 それがこいつの愛いところだ。
 マリー、貴様と違ってな」
「大きなお世話だ」
ロバートが口を挟み、マリーはいつもの如く反論する。
「うむ、エナは愛いのじゃ!」
アンリエッタ王女までが同意してきた。
「う……い?」
まったく意味を分かっていないエナが首をかしげる。
「愛らしい、という事ッスよ」
それを聞いて、エナは顔を真っ赤にして照れる。
「…………どっちがからかってるんですか…………」
あとは言葉にならず、エナは顔を隠してしまった。
それを見て、レオナとエリックが笑う。

だが、そこで和みモードは中断となった。
クロカゲが突如として、周囲を警戒し始めたのだ。
「どうした、クロカゲ」
「イエローナイト……いなくなった!
 だが……違う敵意……出てきた……近い!」
「まずいな、すぐに出発だ。これ以上の戦闘は本当に危険だ!」
「了解!」
エリックの指示に従い、すぐさま一向は歩き始める。



<第六章-第三幕-へ続く>
最終更新:2011年12月10日 21:10