第六章-第三幕- 三重波状攻撃作戦(後編)
それを発見したクロカゲが真っ先に動く。
「来る……そこ……!!」
敵意を感じた方面に手裏剣を多数叩き込む。
あえなく回避され、影は姿を現した。
「策は二重でなく、三重に張って効果を発揮するモンだ。
予想通り、相応に消耗しているようじゃねぇか」
無機質ながら、随分と荒っぽさを感じる声で、
出現した紫の騎士はそう言ってのけた。
「あなたも
白虹騎士団ですか」
「パープルナイトだ」
「という事は、あなたを含め、あと三名撃退すればいいわけですね」
ブルー、シアン、レッド、イエロー、そしてパープル。
ここまで来れば推測レベルでも容易に想像できた。
合計、七人いて虹などと名乗っているのだろう、と。
「さあ、それはどうだかな。だが弱ったところを突くのは
戦術の常道だ。遠慮会釈無しにいかせてもらうぜ」
パープルナイトは斧を取り出してみせた。
「では、他の者を休ませて、私が盾になってみましょうか」
ウォルフ王子も斧を取り出す。相性は互角だ。
そして、縦横家同士の舌戦が始まる。
「あなた達のようなまともな生物とも思えない人外を
率いているのが誰なのか、私としては興味がありますが」
「俺達は
シドミード王国の騎士だぜ、ははっ」
「そうではない。騎士団というからには団長がいるはず。
我が勇者軍の作戦部隊に隊長がいるのと同じように」
すると、パープルナイトの腕が震えだした。
さも不愉快なことを思い出しているかのようだ。
「手前ぇ……虎の尾を踏むつもりか!?」
「どうやら不愉快なことらしいですね。
あなたは、それに従う事を歓迎していない」
「当たり前だ! あんな低能に何故従わなきゃならねぇ!
実力も、策略も、全部俺の方が上だっての!!」
「その程度で激昂する辺り、縦横家としてたかが知れます。
これ以上は見るも無様、かかっておいでなさい!」
「後悔するなよ!」
舌戦に脆くも敗れてしまったパープルナイトは激昂し、
斧を構えてウォルフ王子に突撃してくる。
「おらおらおらぁ!」
乱暴に斬りかかってくる、辛くもこれをいなして、
ウォルフ王子が急所への一撃を叩き込もうとする。
「ぬりゃあ!」
だが、パープルナイトもさるもので、
凄まじい力で押しのけ、カウンターを叩き込む。
かろうじてかわすが、軽くかすってしまった。
「なんという馬鹿力ですか……厄介な」
「舌戦で負けても、体力勝負じゃ負けやしねぇ!
今すぐ、くたばりやがれぇぇッ!」
パープルナイトは調子に乗って攻勢をかける。
だが、そこにローザが割り込んだ。
「お前等はどいつもこいつも馬鹿揃いばかりだな。
一人で互角の相手が大量に揃っている所に
飛び込むような愚か者に、負けてたまるかよ!
来やがれ! 力任せの勝負なら俺の出番だ!」
「いいえ、ローザさん。ここはあくまで私は
策の勝負を打たせてもらいます。
パートナーは、クロカゲさん。頼みます。
端末でフォーメーションパターンの確認を」
「分かった……!」
クロカゲは端末で指示を確認すると、
すぐさまその場から跳び、戦場をうろちょろし始める。
撹乱と陽動のつもりだろうか。
「ええい、鬱陶しい!」
パープルナイトがクロカゲに攻撃を仕掛けるが、
それに割り込んで、ウォルフ王子が攻撃を止める。
「貴様も邪魔だ!」
パープルナイトが一方的にウォルフ王子を押すように見えているが、
防御と回避に徹したウォルフ王子はそれを軽く捌く。
「せっかくの戦術もこの詰めの甘さ……悲しくなるな」
本当に寂しそうに、ウォルフ王子は距離を取る。
そのウォルフ王子に、クロカゲが筒状の何かを渡した。
「そんな小さい物体で何をする気だ!」
離れたウォルフ王子に追撃しようとするパープルナイト。
だが、ウォルフ王子が持ったのはスイッチだった。
かちり。
ずどごぉぉぉぉおん!!
爆音と共に、今まさにパープルナイトと同じ位置から
大量の土砂が吹き上がり、吹き飛ばされる。
それに合わせ、ウォルフ王子は既に跳躍。
空中から叩き落すために斧を振るう。
どがす!
そしてちょうど穴に落ちたパープルナイトの上に
噴き上がった土砂が注ぎ、生き埋めの状態になった。
まともな生物ならこれで戦死確定となっただろう。
「詰めも甘ければ、練りも甘い。
よくもそれで策と呼べたもので」
嫌味たっぷりに言ってのけるウォルフ王子。
土砂からはロバートがマントで味方を守っており、
二回連続でマントが珍しく役に立つ形となった。
「本気で相手を殺す気でやると、えげつないな、お前」
ローザがびっくりして言う。
「あんな乱暴な策士などいてたまるものですか。
蛇蝎の如く嫌われて然るべきでしょう」
にべも無く言い捨てるウォルフ王子だった。
どばん!
だが、パープルナイトもまた異常にしぶとく、
土を押しのけ、凄まじい跳躍力でその場を逃れた。
「ちっ……この借りはいずれ返してやるからな!」
そして去って行くパープルナイト。
ウォルフ王子の策が完全に上回っていた。
それでなくてもまだ余力を残していた面子も多く、
どのみちパープルナイトに勝ち目は無かっただろう。
保険があるから、彼も無茶をしたのである。
彼は一重目の策である、己を盾とする戦術、
二重目となる落とし穴の戦術しか使っておらず、
戦術・戦略に対する余裕からして根本的に桁が違っていた。
やはり、パープルナイトは無様と言えただろう。
「さあ、これ以上の増援はまずは無いだろうが、
ここに留まる意味も無い、離れるぞ」
「分かったのじゃ!」
エリックの指示で、今度こそ一同はその場を離れ、
一路ダイギン城への進路を取り始めた。
パープルナイトの立てた三重波状攻撃作戦は、
ようやく打破されたのであった。
その後はしばらく滞りもなく進軍が続き、
戦いの舞台は一気に遠くへ移る事になる――
最終更新:2011年12月10日 21:12