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第七章-第一幕- 奪われた翼





勇者軍主力部隊はデス・ボルガノンと呼ばれる休火山を通過し、
シドミード王国領内を隠密行動で突き進み、
偵察を綿密に行ってくれた(ただし特別報酬を要求されたが)
クロカゲの苦労もあって、以降未発見のまま王城である
ダイギン城間近という地点まで到達したのであった。
正直、上出来という以上の成果である。

これ以上の成果は望むべくもないが、ここから先は隠密行動は
ほぼ無理なので、城下街を真っ向から突き進むより他は無い。
木を隠すには森の中、人を隠すには人ごみの中、である。
そう思って一行が城下街の入り口を通過しようとした瞬間だった。

ずだん!

突如緑色の騎士が空中から降ってきた。
「わっ、何なのじゃ!?」
びっくりした愛馬ポニーを落ち着かせるアンリ姫。
「白虹騎士団か!」
「へへ……グリーンナイトだ。覚えておけ!」
随分と挑発的な態度である。今までの面子と比べても
一癖ありそうな感じであった。だが明らかに違うのは
神族と同じ翼を展開していることだ。
すなわち、エリックと同じく天使から譲られたものか、
あるいは天使から強奪したものを使っているか、の二択だ。
どちらにしてもほとんどの場合、例外的な状況と言える。
神族が己の翼を他者に託す事はほとんど絶無だからだ。
それほどに稀少な存在だと言ってもよく、
だからこそルスト家は天使ニノンから譲られた翼を
家宝として扱っているぐらいなのだから。
「ニノンの翼の真似のつもりか、悪趣味な!」
エリックが憤慨して、前に出る。
「つもりじゃねぇ、まぎれもなく本物だ!!
 持ち主を殺して奪い取らせてもらったがな!
 返そうと思っても返せやしねぇよ、参ったか! ひゃは!」
嗜虐的なものの言いようである。エリックの癇に障った。
「本物だと……!?」
歴史好きのロバートが解説する。
もし、カイトがいたら恐らく加わってくれただろうが、
残念ながら彼はこの場にいなかった。
「それがもし本物のニノンの翼だというのなら、二千年ほど前、
 かのセシリア=ルストがデーティ=エルフェンなる少女に
 八枚翼のうちの二枚を託したとされるが……それか!?」
「その通り、六枚も持ってても飛べもしねぇ手前ェより、
 俺の方がずっと上手く使いこなせる! よこしやがれ!
 でなきゃ毟り取るだけだがな! ひゃはははぁ!!」
そう言ってグリーンナイトは飛翔する。

「そう言えばあなたが飛ぶところを見たことがない……
 エリック、あなたは飛翔出来ないのですか!?」
ウォルフ王子が焦って問いただす。
「私の体重が極端に筋肉質で重いせいだろう。飛べない。
 陸上で展開して走る事なら出来るんだ。
 八枚揃っていれば飛翔出来なくもないかもしれないが……
 見ての通り、二枚は奴が持っている……それも人を殺して!」
心の底から苦々しげに舌打ちするエリック。
「飛べない鳥は鳥以下だぜ、ひゃーはぁ!」
グリーンナイトが真っ先にアンリ姫を狙う。
「わっ、こっち来ないで欲しいのじゃ!」
防御体勢も万全でなく、わざと落馬する事で何とかかわした。
「いたた……弱い者から狙うとは卑怯なのじゃ!」
「そういう奴には、おしおきだ!」
ローザが投擲用のハンマーを次々と投げつけるが、
異常な機動をもって凄まじい回避能力を見せつけるグリーンナイト。
「ちいッ、当たりやしねぇ!」
毒づくローザを他所に、他の者も攻撃を仕掛けるが、
グリーンナイトは小馬鹿にするように、
わざとギリギリで回避してみせる。
「あたしの出番ッスよ!」
レオナが周囲の木々に跳び乗り、猿の如く機敏に移動する。
「むっ、食らいつく気か!」
流石はスピード自慢のレオナであり、なんとか食らいつく。
何度かぶつかり合うに至るが、決定打には程遠い。
「ならば、私も行こう!」
エリックもニノンの翼を陸戦モードで展開。
彼自身も跳躍し、レオナと同様木の上で戦闘を展開する。
「所詮木の上でしかやれぬ奴等が吠えるか!」
グリーンナイトは二人を振り切り、またも弱い者を狙う。
今度のターゲットはエナだった。

「エナ……避けろ!」
クロカゲとマリーが援護に来るが、もはや間に合わない。
このままではズタズタにされてしまう。
瞬間、恐怖で表情が歪むが、すぐに反逆の意思を示す。
「ソーサー、展開!」
もらった十枚のソーサーを念動力で動かし、
全て徹底防御に回す。オールレンジ防御であり、隙は無い。
「なにぃ……おがッ!?」
ばちん!
派手に弾かれ、思わず不時着するグリーンナイト。
「エナ、無事か!」
マリーがようやく間に合ったが、援護の必要は無かった。
エナのソーサーはあらゆる角度からの防御を可能としている。
ヒット&アウェイしか能の無い敵になど付け入る隙は無い。
「バスターキャノン!」
そして乱発されるエナの無属性複合魔法。
極めて特殊な魔法だが、まさかエナがそんなものを
使いこなすなど、誰も予想していなかった。

バスターは牽制用の単体弾魔法、
キャノンは強威力の単体弾魔法だが、
キャノン級の破壊力の単体魔力弾をバスター並みに連射する、
それがバスターキャノンという魔法である。
即ち、被弾時を考慮する際のプレッシャーはただ事ではない。
かろうじてバスターキャノンを回避するグリーンナイト。
反撃を試みるが、何度試しても容赦なく弾かれる。
更に苛烈に攻撃を試みるエナ。
「キャノンブラスター!」
オールレンジに衝撃波を放つ『ブラスター』との複合魔法だ。
すなわちオールレンジに無数の強威力魔力弾を放出、である。
よろけたところに叩き込まれたグリーンナイトには回避出来なかった。
「ぬぐあッ!」
一度押されると弱く、大きくよろけるグリーンナイト。
「もらったぜ!」
そこへ待っていたように、ローザの強力なハンマーが叩き込まれる。
鎧に大きくヒビが入り、中身にも大ダメージを与えたようだ。
「ちいッ! 弱いフリをしていただけか! ここまでだ!」
エナに向かって罵ってから、グリーンナイトは翼を使って逃げる。

「エナ……防御……遅れた……すまない……!」
クロカゲが謝罪するが、エナは首を振る。
「自力でどうにか出来てしまいました……びっくりです」
「びっくりしたのは俺だ、馬鹿」
溜息をつきながら、ロバートが傷が無いかを確認する。
「だが、流石は俺の見込んだ女だ。いちいち驚かせてくれる」
「えへへ、ありがとうございます」
誉められて素直に喜ぶエナ。

それとは裏腹に、エリックの表情は暗かった。
既に白虹騎士団のせいで勇者軍関係者の被害が出ているからだ。
特に死んでしまっているとあっては、ニノンの翼の被害者には
返却のしようもない、ならば……
「ならば、その人のためにも、私の手に翼を取り戻す。
 貴様に殺された人の業を思い知るがいい、グリーンナイトめ!」
「違うだろ、おっさん」
ロバートが口を挟む。
「何がだ、ロブ」
「そうじゃねぇんだよな、俺の率いる軍にいるならこれだろ」
ロバートはグリーンナイトが逃げた方の空へ向かって
サムズ・ダウンを繰り出した。
「俺達に反逆させた事を後悔しやがれ……
 ただしその時は全員まとめてあの世行きだ!
 白虹騎士団、貴様等に未来があると思うなよ!」
「……ロブの言う通りだな。奴等は潰す、必ずだ!」

二人の目が怒りに燃える中、王城の城下街は、
夕日に照らされ、夜を迎えようとしていた。
目指すは王城であるダイギン城。
ファイナルターゲットはシドミード国王と白虹騎士団である。
決戦の時は、少しずつ迫る――



<第七章-第二幕-へ続く>
最終更新:2011年12月11日 20:30