第七章-第二幕- ダイギン城へ





グリーンナイトとの戦闘を街の間近でやらかしたせいで、
一時的に街は混乱状態となったが、
戦闘終了後、しばらく時間を置いてから
城下街に入ったおかげで、街はなんとか平穏を取り戻していた。
シドミード王国全体が敵のようなものとはいえ、
出来る限り市街地での戦闘は避けなければならなかった。
ロバート達は、ポメを先頭に立てて、飼い猫を散歩させている
市民の振りをしつつ、わずかな休息を兼ねて街を歩くのだった。
ただし、進路はもちろんダイギン城に向けて、のままである。
それを見失うようでは本末転倒だからである。
極力目立たないようにするには、クロカゲが邪魔だった。
フードで顔を隠しているが、かえって怪しい。
「クロカゲ、悪いが一回街を出ていろ。その仮面を外す気が無いならな」
「分かった……」
少しポメと別れるのが寂しそうに、クロカゲが一時離脱する。
緊急事態になったら委細構わず再合流させる予定であった。
それほどにクロカゲの鬼瓦のような仮面は目立つ。
ニンジャとしてすら、異彩を放っていたと言えよう。

「ロブ、ロブ、あれは何じゃ?」
ただの子供のように、アンリ姫は色々と聞いて回る。
「あれは屋台だ……知らねぇのか?」
「わらわはロクに城から出た事も無い故、知らぬのじゃ」
「本当に筋金入りの箱入り娘だな。しょうがねぇ」
と、ロバートは目立たぬように屋台の綿菓子を買ってきた。
「これは……うまいのじゃ! ありがとうなのじゃ、ロブ」
「馬鹿、あんまりデカい声出すな、目立つだろ」
「おっと、すまぬのじゃ」
それを見て、エリックは苦笑する。
「ああ見えて、子供には優しいところもあるのだがなぁ」
「それが他の者に向けられないのが惜しいところだ。
 それさえあれば、長たる風格も備わろうにな」
マリーも溜息をつく。
そんな事を言っている間にも、どこから買ってきたのか、
乾パンを試食しては感動しているアンリ姫。
「これは……いまいちなのじゃ」
「育ち盛りがそんなモンで満足出来るかよ。
 おら、これでも食ってやがれ」
「ローザもありがとうなのじゃ!」
ローザからはドネルケバブをもらうアンリ姫。
その無邪気さが幸いしてか、なんだか大家族に見えないこともない。
予想以上の効果があったと言って良かっただろう。
誰にも気付かれること無く、次第に王城へと近付く一行だった。

「しかし、意外に街に活気がありますね。
 重税を課されている、と聞いていたのですが……」
ウォルフ王子が感心しながら周囲を見回す。
「えーと、今情報部からのデータを取ってるッスよ。
 昨日づけで更新された最新の情報らしいッス」
レオナが端末をいじる。
「内政整備効率が若干落ちている以外は、むしろ景気は
 上向きになってるっぽいッスね。中でも冒険者ギルドの
 経済が活発化して、重税をも充分まかなえるほどの余裕が
 出てきているようである、って書いてあるッスよ」
「エドワード=シドミード……かなりの政治手腕ですね。
 それとも、クーデター前から見越されていた状況でしょうか」
「優秀な秘書がいるからみたいッスね。
 アイゼンカグラ秘書官、だそうッスけど」
「余裕があれば引き抜きをかけてみたいぐらいですね」
むしろ楽しそうにウォルフ王子は笑う。
クソ真面目ではあってもこういうえげつなさが
長所でもあり、短所でもあろう。

一方でチョコレートミント味のソフトクリームを食べながら、
エナはきょろきょろと辺りを見回していた。
こういう都会は本当に珍しいのだろう。
既に無きゼン・ヴィレッジから出ることも無かった
昔の自らでは考えられない光景を彼女は見ていた。
「あんまりきょろきょろすんな、目立つぞ」
ローザが心配して声をかけてきた。
「あ、すみません……色々と珍しくて」
「悪いが、観光気分なら作戦終了後にするんだ。
 そもそもシドミード国王の奴が何を目的に
 領土拡大を始めたのか分からん上に、
 あんな得体の知れない白虹騎士団なんてのを
 受け入れた理由も分からん。謎だらけだ。
 ぶっちゃけ、何が起こってもおかしくねぇと思え」
「はい……」
すっかり意気消沈しかけるエナだったが、
ポメを抱き上げて、気分をなんとか奮い立たせる。
「頑張ります」
「よし、それでいい」
ローザなりに気を遣ってくれているのだ。
自分もあんな風に素敵な女性(ただし口調は除く)になりたい、と
エナは内心憧れてみるのだった。

「着いたのじゃ、ここじゃぞ」
一時間も歩いたであろうか。アンリ姫の言葉で皆、足を止める。
紛れも無くアンリエッタ王女の故郷、
そして旧シャンゼリー王国の王城でもあったダイギン城。
かつては勇者軍と同盟さえ結んでいたその拠点へ、
今、彼等は敵として足を踏み入れようとしていた。
クロカゲという貴重な戦力と自由に合流出来ぬままで。



第七章-第三幕-へ続く>
最終更新:2015年07月10日 02:35