第八章-第三幕- 時を越え、刻まれる夢
勇者軍主力部隊はパープルナイト、
イエローナイト、
シアンナイト、
そして
レッドナイトの四名という戦力の大半以上を撃破し、
行動不能に陥れる事に成功した。だがそれでもまだ三名が残っており、
未だに予断を許さない状況のままなのは間違いなかった。
ブルーナイトは、直接ロバートの元に迫り来る。
「この
ストレンジャーソードの切れ味を試させてもらう!」
「デッドコピーが吠えるんじゃあねぇ!」
ブルーナイトの剣撃がロバートをつけ狙う。
「風圧斬!」
「風圧斬!」
まったく同じ技のぶつかり合いだ。
だが、マリーに貸してもらった剣を持ってしても
スペックに違いがありすぎた。剣は叩き割られ、
一撃を凌ぐだけで終わってしまった。
「同じ技、同じ体術を使いこなしていても、
武器の性能ばかりは如何ともしがたいようだな!」
「ほざきやがれ! その剣の真の意味も知らない愚物が!」
「剣は剣だ! それ以外に何の意味があろうか!」
勢いに乗って斬りかかってくるブルーナイト。
死ぬ気でかわすが、それも限界がある。
あんな剣で叩き斬られたらまず助からない。
大きく距離を取って、銃撃で凌いでみせる。
アウトレンジからの一方的な射撃ならこちらのペースだ。
ブルーナイトも攻めあぐねて回避行動に移る。
「ざまぁ見ろや!」
「やる……流石は
リーダーの才覚を持つだけはある」
「ほざけ!」
「ならば、この技の出番だ! 火よ水よ、氷よ雷よ、
この剣に纏わり、力を解放するがいい!
封神封魔流・攻の秘剣!
四大精霊元素爆裂剣!!」
ばごん!
大きな爆発が起きたが、本来想定された威力ではない。
「へっ、浅知恵が!!」
その威力に怯みもせず、ロバートが攻めかかってくる。
「馬鹿な! 四つの精霊元素を組み合わせたはずだ!?」
大きく怯み、ブルーナイトは後退する。
「地水火風の
下級属性四つ、もしくは光闇雷氷の
上級属性四つ。
それらは相関してこの世界を成立させているモンだ!
そんな基礎知識も知らねぇ奴が封神封魔流を会得しただと!
俺の……いや、俺ン家の名に泥を塗るのも大概にしやがれぁ!」
ごがん!!
ロバートの剛拳がブルーナイトを打ち据える。
「それと、そのストレンジャーソードは進化を求める剣だ!
それを知らない馬鹿野郎にその剣はレプリカでも勿体無ぇよ!」
ずだんずだんずだんずだん!!
零距離から顔面に向けて散弾銃を全弾叩き込む。
「が……!」
それきり、ブルーナイトは動かなくなった。
「よく見ればこいつら全部
メインメンバーの家宝の色と同じ色だ……
そうか、その時点で俺は気に入らなかったんだろうな。
へっ、偽者の上に馬鹿なくせに気分が悪ぃったらねぇぜ」
と、その場に唾を吐き捨てるロバートだった。
エリックはというと、
グリーンナイトとスピード勝負をしていた。
屋内戦なので、グリーンナイトも自由に飛ぶには至らず、
時としてエリックに追いつかれる場面も多々あった。
「ちいっ、小蝿の分際で!」
「どうかな、小蝿の腕力だと甘く見ると怪我をするぞ!」
「ふっ、それはどうかな!?
ヒーラー風情が!」
グリーンナイトは周囲に鉄線を張り巡らせ、
動揺したり、絡まったりしたところを叩き落とす作戦に出た。
だが、グリーンナイトは見切れていなかった。
鍛えに鍛え、極限まで攻撃的に成長した彼の筋力と、
それに伴う反射神経、動体視力、それら全てのスペックを。
ニヤリ、とエリックは笑う。
「何がおかしい!?」
「甘いからだ、お前が!」
エリックはどこにリールが張り巡らされたかをすべて認識し、
綱渡りのような要領で張られたリールに飛び乗る。
そしてそのままそれを足場として次々と飛び移る。
「策士ですらない者が策に溺れて相手をいたぶるなど、
愚か者の極地に等しいことだ……もらったぞ、
ニノンの翼!」
後ろに組み付いて、強引にニノンの翼を毟り取る。
「あがぁぁぁぁぁぁッ!?」
そのまま蹴り落とされて、墜落するグリーンナイト。
エリックはそのままニノンの翼を装着し、八枚翼に戻る。
今また、時を越えて託された夢を象る翼が、彼の、
否、
ルスト家のもとに戻ってきたのだ。
「許さねぇぞ、貴様ぁああ!」
機械仕掛けの翼を展開し、再び飛び上がるグリーンナイト。
「
ウィングスパイカー!」
機械仕掛けの翼からリールの付いたスパイクを射出された。
だが、ニノンの翼を完全な状態で使いこなすエリックには
当たらないどころか、かすりさえしない。
「ところで世間にはこういう便利な代物があってだね!」
魔道書だ。エリックは躊躇無く詠唱する。
「プラズマランチャー!」
スパイクとリールを通して、見事に通電させる。
TPOをわきまえた見事な戦術だった。
「あが……ッ!」
機械仕掛けの翼も破壊され、今度こそ完全に墜落する。
グリーンナイトもまた、動かなくなった。
「冥界に存在せし『勇者の館』にて見ておられるか、
先人達よ!? かの翼、見事我が手に奪還せり!」
杖を掲げ、声高らかに宣言するエリックだった。
アンバーナイトは、エナ、レオナ、クロカゲ、カイトの四名を相手に
互角以上に競り合っていた。やはりスペックで劣っていても
特殊技能の塊とも呼べる、アンバーナイトは強敵だ。
伊達や酔狂でリーダーを名乗っているわけではないのだろう。
「
マルチプルブリンガーの性能に声も出んか……無理も無い」
笑うように身体を揺するアンバーナイト。
「貴様……殺す……!!」
クロカゲが、普段は隠された殺意を剥き出しにして攻めるも、
ハイパーガードと呼ばれる
アーマーナイト固有の
兵種スキルで
弾き返してみせるアンバーナイト。
前回の戦いで分かっている通り、
ナノ・マシンも通用しない。
不意を打つ、そのつもりでカイトは指示を出す。
「エナ君は
ソーサーでクロカゲ君の支援だ。
クロカゲ君もそのまま攻撃を続けて構わない。
レオナ君は……そうだな」
そっ、とレオナに耳打ちするカイト。
「分かったッス!」
レオナはカイトの護衛に回る。カイトは自分からは動かない。
エナとクロカゲによる合同での攻撃がアンバーナイトに当たるが、
アンバーナイトは素早く動き、回避と防御を巧みに使い分ける。
「詰めが甘いようだな」
アンバーナイトは射撃に切り替え、弓を放ってくるも、
レオナの懸命のガードで、カイトへの直撃は避けられている。
一旦攻撃がやむ、そのタイミングでカイトは叫ぶ。
「今だ、レオナ君!」
「はいッス! ナノ・マシン展開!」
「効かぬわ!」
アンバーナイトはまたあざ笑うが、ナノ・マシンのターゲットは
アンバーナイトではなく、エナだった。
「はりゃりゃりゃりゃ!?」
視覚と聴覚が一時的におかしくなったエナのソーサーは
てんでんばらばらに動き、まったく軌道の予測が出来なくなった。
「なんだ、何事だ!?」
予測していない事態に慌てるアンバーナイト。
「ほら、動揺する、詰めが甘いのはどちらかな……
スタッブだ」
「死ね……!」
クロカゲが斬りかかる。確実に急所を捉えた。
「とどめッスよ!」
レオナも二本の槍でアンバーナイトを切り裂いた。
「がっ……!」
それでも寸前でハイパーガードの構えを取り、
かろうじて一撃での撃破だけは免れたアンバーナイト。
「自らの力に溺れているのはどちらか、思い知ったかい?」
腹黒く微笑むカイトを、アンバーナイトはただ睨みつけていた。
「全員、起きろぉーッ!」
アンバーナイトが叫ぶと、
白虹騎士団の全員が起き上がる。
「野郎、まだ生きてたのか!」
ロバートが追撃しようとするが、大きく距離を取られた。
「悔しいが奴等の実力は本物だ……切り札を切るぞ!」
「ちっ……手前ェに従うのは気に入らねぇが、しょうがねぇ」
パープルナイトが文句を言うが、大人しく従う。
「煙幕を張れ!」
アンバーナイトの指示で、煙幕を張るレッドナイト。
そして一気に戦艦の奥へと退避してしまった。
「追うぞ!」
意気上がるエリックの指示に従い、総員突撃する。
いよいよ、シドミード国王との決戦が近付きつつあった。
最終更新:2011年12月10日 21:33