第九章-第一幕- シドミードの王の格
白虹騎士団全員を再度撃退することに成功したものの、
仕留め損なった
勇者軍は、撤退した騎士団を追撃し、
ブリッジにこそ到達出来なかったものの、
遂に空中戦艦『メガ・アルバトロス』の重要地点に到達した。
「ここは……エンジンルームだと?」
エリックが呟くのを無視して、扉を開けるアンリ姫。
中は広い空間であり、一番奥にエンジンらしきものがあった。
「我が副官を追う勢いで、やはりここへ来たか、勇者軍」
唐突に駄々広い空間の中央近くから語りかけてきたのは、
資料にあった通りの容貌通りの、
エドワード=シドミード王だった。
情報通り、赤毛が目立つ巨漢であり、
どう見ても巨大すぎる大きな斧を担いで立っている。
それだけで、ある種の風格を感じさせた。
「メゴ、そこにいたのか!」
「ええ、言った通り、王の傍に」
アンリ姫が呼びかけるように、アイゼンカグラもそこにいた。
本人の言う通り、この戦いの結末を見届けるつもりなのだろう。
「メゴ、見ていろ。我が見せつけてやる。王者の戦いというものをな」
「メゴはおやめ下さいと言っているでしょう、このデカブツ」
「ふはははは、その毒舌も正直で好ましいものだ!」
王者の器量を見せつけながらのしのし歩いてくる。
「うむ、いいツラ構えの小僧共と、そしてアンリ姫が揃っておるな。
天下無敵の反逆馬鹿はどいつの事だ、姿を見せてみろ」
すると、ロバートが前に出る。
「俺だよ、このデカブツ王。俺が
ロバート=ストレンジャーだ」
「ふふん、
カーティス=ワイズマンの薫陶よろしく反逆三昧か、
噂に違わぬ悪党面をしておるわ。とても正義の味方には見えん」
「あ? 馬鹿か手前ェは。反逆者が正義の味方なわけねぇだろ。
つーか勇者軍が正義の味方名乗った事があったのかよ?
図体ばかりデカくて勉強が不足してんじゃねぇのか? コラ」
めいっぱいガンを付け合い、死ぬほど頭の悪い舌戦を始める。
ロバートに至っては顔に血管が浮き出るほど苛立っている。
「貴様の思惑はどうあれ、やってる事は正義の味方だろう。
俺も立派にこの国のために働いてやってるんだがね。
ここいらでそこの小娘を渡して手を引くってのはどうだ?」
「あり得ねぇな。こいつは王女である以前に勇者軍の人間だ。
俺達勇者軍が、仲間を敵に売るような真似はしねぇんだよ!
いいからとっととくたばってアンリの親父に詫びでも入れやがれ!」
「前王陛下はな、凡庸に過ぎたんだ。このままでは
シャンゼリー王国は緩やかに腐敗を待つだけだっただろう。
なら、我がそこに新しい風を吹き入れて、何が悪い?」
ここで、たまらずアンリ姫が口を出す。
「確かにわらわの父上は凡庸な君主だったのじゃ!
だからと言って殺す事は無かったであろう!?」
「君主が凡庸である、という事はそれだけで罪だな。
ウォルフ王子。貴様は果断即決の人である、と聞くが、
その本質はどうかな? それで前王に劣るようであれば
いっそ命脈を絶って、この我が新たな風を送り込んでやろうか」
「結構です。我が
アーム王家も、
ザン共和王国も
腐敗する暇など無いほど、常に惑乱の只中におります故。
それに今、その惑乱の原因は、まずあなたですので」
「言いおる。鶴の一声、というのもあながち嘘ではないか!」
愉快そうに笑ってみせるシドミード国王。
「貴様……何が目的なのだ? 真意が読めぬぞ!」
マリーが警戒して問う。
「知れたこと。我がこの
惑星アース全土を掌握して、
世界に新たな風を吹き込み、また変革を促すのみよ!」
「そのために白虹騎士団のような危険人物を使うのか!
あれはもはや人間ではないし、偽者に間違いないんだ!
本当の白虹騎士団は既に全員死んでいるんだぞ!?
貴様等のもたらす変革で、何人死ねばいいのだ!?
今までに何人死んだと思っているのだ!?」
エリックが言いたかったことを言ってなじるが、
あくまでシドミード王は平然としている。
「今日までに我等の作戦行動で死んだものは3615人だ。
順調に併合作戦が進めば、以降の見込み人数は
少なく見積もっても178万人程度だろう」
「それだけ明確なビジョンが描けていながら、
それでも実行するほどの価値が手前ェの変革にあるのかよ!」
ローザが苦々しげに言う。
「順調に進まなければ更に増えるが、価値はある。
少なくともこれが成されれば、全ての人が
自らの存在意義を見つめ直すきっかけになり得る。
それは世界の営みには重要なことのはずだ」
カイトはひとまずうなずく。
「正論だな。今まで人類は
ナインサークルの
重要種族という立場を盾に安穏とし過ぎたきらいがある」
「我の言う事が分かるとは……慧眼よな。共に来るか?」
「御免被るね。178万も死ななければ成せない変革を見る前に、
僕達人類は己を見つめ直す事が出来ると、僕は信じたい」
「私もです!」
「あたしもッスよ!」
同意するエナとレオナに加え、クロカゲも指摘する。
「……それに……戦艦……一隻……だけ……!
世界全部……制圧……無理!」
「戦いは数だよ! この戦艦は兵器製造プラントとしても
同時に機能する! その気になれば都市機能を持たせうる
特殊な居住空間も拡張可能な代物だ!
メガ・アルバトロスこそ我が国家の象徴たる
無敵の移動要塞なのだ。ここから小型の戦艦を量産して
更なる戦力増強を図っても良いのだからな。ははは!」
そう言ってシドミード王は笑う。
「ンな事ぁどうでもいいんだ、ンの野郎!」
ロバートが足を踏み鳴らす。
「さっきからクソ偉そうにワケ分からん御託並べやがって!
どうやら本気でこの世の支配者様になったつもりらしいが、
そうは問屋が卸さねぇ! 本気で反逆させてもらおうじゃねぇか!」
「そうなのじゃ、これは反逆なのじゃ!
わらわのツレ達も、皆、同意した反逆なのじゃ!」
ロバートは己を奮い立たせるために、マントを開く。
この巨大マントがなびくと、気分から違うのだ。
「力と力がぶつかり合って、響き渡るは魂魄絶叫!
絆と絆が繋がり合って、導き出ずるは天下泰平!
傲慢極まる無道の君主、反逆するのは我が宿願!
豪放反逆ストレンジャー! 貴様を見過ごすと思うんじゃねぇ!」
「よし、それぞれの言い分は聞いてやった。
後は、力で押し通すのみだ、来るがいい!」
双方、武器を構えて正面から向かい合う。
アイゼンカグラは、やや離れた位置から騎乗したまま
その戦いを見つめるのみだった。
エドワード=ダイギン=シドミード王。
恐ろしい風格と豪快さを持ったこの大人物が、
いよいよ勇者軍の眼前に立ちはだかる。
メガ・アルバトロスのエンジンルームを守るために。
最終更新:2011年12月10日 21:35