第十章-第二幕- 反逆のエナ
勇者軍主力部隊から離れ、突如襲い掛かってきた実母、
ネイ=ストレンジャーを迎撃するべく、勝手についてきた
エナ、レオナ、アンリ姫を引き連れ、ロバートは
かなりの苦戦を強いられていた。しかしレオナの
ナノ・マシンが
戦局を打破するきっかけを作りつつあった。
「あうう、よく分からないよ~!」
ナノ・マシンによるジャミングについてまったく把握していない
ネイは、あちこちをふらふらと歩き回るのみになってしまった。
レイピアも狙って突き刺す武器のため、命中しなければ意味が無く、
その火力が仇になって、迂闊に振り回す事も出来ない。
「もらったぜ!」
剣を片手に突撃するロバートだが、
ネイは素早さに任せて出鱈目な機動を取り始め、
まったく動きの予測が付かない。合理性はゼロだが、
転び、起き上がり、よろけ、ふらふら歩く、という動きが
異常極まるスピードで繰り返されるため、
ロバートの攻撃はまったく命中しない。
「ちっとはじっとしてろよ、貴様は!」
「また貴様って言った! 悪い子!」
と言いつつ、相変わらずふらふらしているネイ。
「隊長隊長! 喋るからタイミングだけは読まれるんスよ!」
「お、おう! そうか!?」
今度は黙って、落ち着いて狙いを定めて攻撃する。
「あいたッ! 親に手を上げたね!?」
かろうじて今度はかすった。直撃には程遠いが、
彼が親相手に始めて損害を与えた一撃でもあった。
多対一とはいえ、これはとんでもない進歩である。
だが、快進撃もここまでだった。
ナノ・マシンの効力が切れ、正常に戻ったのだ。
「おっと、時間制限があるみたいだね!?」
すぐに正常な姿勢を取り、構えるネイ。
「おい、レオナ! もう一回やれねぇのか!?」
「無理ッスよ! シドミード王の時にだいぶ放出したッスもん!」
「ああもう、しょうがねぇなぁ!」
「自分の未熟さを人のせいにするなんて、悪い子!」
ネイは構わずレオナに向かって突撃する。
「ちょっと痛いけど我慢だよ!?」
「ひぃぃ!」
ずばん!
「痛い痛い、いたたたたたたたたた!?」
フォースクラッシャーが炸裂し、レオナの腕に穴が開く。
かなり頑強な鎧を着ているはずだったが、紙切れ同然だった。
「大変! 治療しないと!」
レオナの治療のために、エナも動けなくなった。
「総帥殿、それはやり過ぎなのじゃ!
ロブは間違ったことはしておらぬのじゃ!」
「アンリも引っ込んでなさい!
ロブの毒牙にかけられたいの!?
旦那を決める年齢でもないでしょ!」
「わらわとロブはそういう仲ではない!
わらわとロブはただのツレなのじゃ!」
「だとしてもロブは二股かけてるでしょー!」
アンリ姫への攻撃は流石に差し控えたが、
ロブへの攻撃は緩める気がまったく無い。
「だぁら、違うっつーのに、話を聞け、貴様は!」
「また貴様って言った! もう許さないよ!?」
怒り、他三名を無視して突撃してくるネイ。
「防の秘剣!
精霊防護壁!」
なんとか残っている魔力でかろうじて突撃をガードするロバート。
一度はその防御力に弾かれたが、すぐにネイは本気を出す。
「フルインパクト!」
ずだんだんだんだんだんだんッ!
フォースクラッシャーのパイルバンカー機構を六連射し、
ドリルの回転数も最大まで上げて、防護壁を一瞬で撃ち抜いた。
「うおわッ! 反則だろ、その武器性能は!?」
「さあ、謝りなさい、ロブ!」
「やなこった! 誰が貴様なぞに謝るか!!」
「もう怒ったよ!」
ずだん!
「のがッ!?」
容赦なく撃ち込まれるフォースクラッシャーの一撃。
ロバートの右足が即座に撃ち抜かれて、動けなくなった。
「さあ、ごめんなさいしなさい!」
「力任せに謝らせようってのが気に入らないんだよ!」
「逆らうの!?」
「違う! 反逆だ! 俺の望みはただ、反逆の人生のみだ!」
「反逆だなんて、悪い子! もう片足も!」
と、そこへ静かにレオナの治療を終えたエナが割り込む。
フォースクラッシャーの切っ先をその胸元に自ら突きつけて。
「やめろ、エナ!」
「構いません……どうせこの命はロバートさんに救われたもの。
ロバートさんがやられるのを見ているぐらいなら、私から……!」
「エナ……!」
「…………!」
そのあまりに健気な態度に、攻撃を止めるネイ。
「……教えなさい、ロブ。あんたの言う反逆ってのは、
つまりこういうのをたくさん生み出す戦いって事なのかい?」
「そうだ……それが俺の……俺達の反逆だ。
時代に革新の波を流し込み、新たな次代を刻む反逆だ。
俺は勇者軍としても、個人としても力には決して屈しない。
エナは、そんな俺の教えを一番間近で受けた精鋭中の精鋭だ。
こいつに手を出すなら、その前に俺が相手になってやるぁ!」
「そうかい……」
剣を引っ込めるネイ。
「お?」
「協調して動く事を覚えたわけだね。えらいえらい」
と、急にロバートとエナの頭を撫で始めるネイ。
「ちょっ、やめろよ、こっ恥ずかしいな!」
「…………」
呆然として成すがままになるしかないエナに対して、
あくまでロバートは反抗的である。
「それはそれとして貴様呼ばわりは謝りなさい!」
「まだ言ってんのかよそれ!」
「謝りなさい!」
「てかあんた何しに来たんだよ! あんたが出てくるなら
別に俺が最前線に立たなくても楽勝で勝てただろ!!
ストレンジャーソードを俺に渡す意味があんのかよ!?」
必死になって論点をずらそうとするロバート。
「あるんだよ! 報告にあった謎の黒い何かが
また出てくる可能性があるなら、これ持ってないと危ないよ!
ロブはただでさえあたしよりひ弱なんだから!」
「ひ弱言うな! あんたがバケモンなだけだ!」
「もうそろそろその辺にしませんか?」
と、助け舟を出したのは今頃やってきたウォルフ王子である。
タイムカードを打刻していたクロカゲも騒ぎで戻ってきた。
「おや、ウォルフ王子、お久しぶりだね?」
「……さっき現場にいましたけどね……」
雑な扱われ方にぐうの音も出ないウォルフ王子だった。
「それよりネイ。わざわざストレンジャーソードを渡しにだけ
来たわけじゃないだろう。本当、何しに来たんだ?
余程の問題じゃない限り、君が出る事はありえないだろ」
昔からの知己であるエリックが話しかける。
「そうそう! この子がいちいち逆らうから忘れてたよ!
今日は大事な用事がロブにあって来たんだよ!!
エリック、思い出させてくれてありがとね、いい子だね!」
「はは……」
子供呼ばわりされることには慣れているのか、苦笑いするエリック。
かつてチームを組んだこともあるだけに随分と気安い間柄だ。
「で、マジで一体何しに来たんだ?」
「いいかい、ロブ、それはね――」
ようやく落ち着いてくれたネイが静かに語り始める――
最終更新:2011年12月10日 21:57