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第十章-第一幕- 確執のような、そんなもの





謎を残したままとはいえ、ようやく最後の強敵である
ホワイトナイトを撃破した勇者軍主力部隊は、
白虹騎士団壊滅という最大の戦術目標を達成し、
とりあえずシドミード王国の状況を確認するべく、
ダイギン城城下街へ向かったのであった。


勇者軍主力部隊がダイギン城城下街を眺めてみると、
小さな混乱は起こったようだが、事の次第がアイゼンカグラを通して、
アンリ姫直々のメッセージが国民全員に通達されると、
小さな混乱が、次第に大きなざわめきとなった。
なにせ二千年以上も絶対君主国家として存在してきた
この国は、遂にそのくびきから解き放たれ、
民主国家に生まれ変わるのだ。

素直に喜ぶ者もいれば、
状況をいまいち飲み込めていない者もいたり、
またシドミード国王の死を素直に悼んだりする者もいたりして、
その態度は十人十色というところであった。
それでもメッセージの発信者がアンリ姫なのが救いであった。
それはシドミード国王本人の望みでもあったからである。
無論、その事に関してはアイゼンカグラからも補足はしてある。

また、シャンゼリー王国王妃であったアンリ姫の母親も
社会的抹殺された身分から解放され、
表舞台に立つことを許されたが、
彼女自身がそれを望まず、以降は元王妃ではなく、
勇者軍メインメンバーのOGとして生きる事を表明したが、
それを一同が知るのはもう少し先の話であった。

当面の大統領を元大臣とやらが務める事になった。
国民総選挙が行われるのはしばらくしてからの事らしく、
とりあえずアンリ姫は一庶民として生まれ変わる事が出来た。
ついこの間まで命を付け狙われていた身としては
上々の展開であろうか。
ただしアイゼンカグラはアンリ姫の婚姻までは
引き続き護衛兼教育係の任務を請け負うことになっており、
これはダイギン共和国としての命令ともなったため、
本人が望むと望まざるとに関わらず、立場は元通りになった。

「またメゴと一緒なのじゃ!」
「ですからメゴはおやめ下さい、姫様」
若干優しい口調で窘めるアイゼンカグラ。
それを生暖かい視線で見守っていたロバートだったが、
突如、自らに影がさしたような気がして、空を見上げる。
「……こぉぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「うおッ!?」
突然人が降ってきたのである。
かろうじてロバートは回避したが、明らかに見覚えがあった。
「突然何の前振りも無く出てくんじゃねぇ! あんたはッ!」
「全部聞いたんだよ、この子のお母さんから!」
と、アンリ姫を指差す。
「人を指差すなって教わらなかったのか貴様はッ!」
「あ、ごめんね?」
一応アンリ姫には謝るが、アンリ姫は訝しむ。
「母上から全てを聞いたじゃと? そなたは誰なのじゃ?」
「お、恐れ多いぞ、アンリ姫! この方は総帥閣下だ!
 ロブの母親なのは間違いないが……つまりそういう事だ!」
慌ててマリーがアンリ姫の口を塞ぐ。
「大事な戦いにちゃんと参加したのは偉いけど、
 一番重要な家宝を忘れるなんて、悪い子だね!」
と、ロバートにストレンジャーソードを向けてくる。
「あのー、ネイ? もう終わったんだが……」
エリックが何やら申し訳無さそうに言ってくる。
「あら、そうなのかい? でもあんたが継承者なんだから、
 ロブ、ちゃんと持ってなさい! 分かった!?」
「るっせぇ! 今頃しゃしゃり出てきて何だその態度は!
 貴様やその剣が無くても充分に俺はやれるっつーの!」
「まっ! 母親を貴様だなんて、悪い子だね!
 そういう子は、きっちりとお仕置きだよ!!」
よりによって市街地でストレンジャーソードを突きつけてくる。

「上等だ! いつか貴様を乗り越えようと思ってたんだ!
 こうなったらどっちかが戦闘不能になるまでやってやらぁ!」
ロバートも乗り気になってしまった。
「いかん! 市民を避難させろ!
 つーかネイ! ロブもだ! 市街地の外でやれ、外で!
 お前等が暴れたら市街地が本気で壊滅するだろうが!」
「エリックの言う通りだね! おいで、ロブ!」
「おっさん、心配すんな! こいつは俺がボコる!」
あれだけ戦った後だというのに、実に元気である。
「わ、私もお手伝いします!」
「よく分からないけど延長戦ッスね、いいッスよ!」
「ロブ! わらわが助けてやるのじゃ!」
気圧されつつも、ロバートに直接恩義のある人員が動く。
エナ、レオナ、それにアンリ姫がロバートの後を追う。
後のメンツは、いつもの事として動かなかった。
ちなみにクロカゲはタイムカードを打刻しに行ってここにはいない。
ただし騒ぎを聞きつければ、一応事態を確認しには来るだろう。

ネイ=ストレンジャー、勇者軍現総帥。
見境無く人を『子』呼ばわりし、遠慮会釈無しにオカン面をする。
そういう意味では、ロバートとはまた違った意味で
周囲に対して迷惑極まりない女性であった。

以前グリーンナイトと戦って若干荒れた地に一同は到達した。
「さあ、覚悟しなさい、ロブ!」
「何が覚悟だ! ただの親子喧嘩に覚悟も何もあるか!」
意外に冷静に事態を言い当てるロバート。
「違うでしょ! お前の後ろの三人は何!?
 二股どころか、三股までかけるなんて、悪い子!」
順に、エナ、レオナ、アンリ姫を指差す。
また指差していることには誰もツッコまなかった。
「ちょっ待て! 違う! それは違う! 断じて違」
「問答無用!」
凄まじいスピードでお仕置きを敢行するネイ。
「だー! 人の話をちっとは聞けー!」
やむなく剣を抜き、応戦するも、まったくスピードが追いついていない。
その上剣の性能が桁違い過ぎる。流石は自分以上の歴戦の猛者だ。
それが必要以上に本気を出しているとあっては勝ち目が無い。

「だったら人海戦術しか無ぇだろうがぁ! 手伝えー!」
「はっ、はい!」
エナがソーサーを展開し、レオナは槍を振り回して暴れる。
アンリ姫は騎乗したまま、魔法を撃って牽制する。
流石に四対一では多少分が悪いのか、ソーサーなどに押されて
ネイも防戦に回るしかない、と思われていたが……

「総帥に攻撃するなんて、悪い子達だね!
 まとめておしおきだよ!!」
掘削用のドリルと、建築用の釘打ち機を取り出す。
「うちの旦那と手作りで建てた物置小屋の思い出が
 たっぷり詰まった道具だよ! これで進化だからね!」
ストレンジャーソードと、母の愛がたっぷり詰まった
道具が融合し、ストレンジャーソードは史上稀に見る
しょうもない理由でその真価を解放する。

「その名もパイルバンカードリルレイピア、
 ストレンジャーソード進化剣『フォースクラッシャー』だよ!」
杭打ち機(パイルバンカー)としての機能を持ちつつ、
その杭自体がドリルとしての掘削機能を持ち、
更に極端に頑丈でありながら細い刀身によって
突きに特化したと推測される、レイピアのような剣が出来た。
本人は知らないし、まったくの偶然なのだが、
かの有名な勇者、ジルベルト=ストレンジャーの娘である
ミリア=ストレンジャーが使ったタイプの進化と同じであった。
「貴様! そんなモン使うな! 本気で息子を殺す気か!」
「殺すわけないでしょ! ちょっと腕とかに穴開けるだけだよ!」
「いや死ぬから充分! なんだその火薬の匂いは! 危ないだろ!」
「問答無用だって言ってるでしょ!」
ネイはより凶悪になった剣を握って突っ込む。
ソーサーを展開し、エナが全てをロバートの防御に回す。
十枚重ねのシールドに匹敵する防御力だ。
そう簡単に撃ち抜けるような代物ではない。

「インパクト!」
突きがソーサーに炸裂した。
ぼごどむッ! ずがぎゃりぃッ!
異様な音を立てて、ソーサーがまとめて撃ち抜かれて割られる。
ヒットの瞬間に杭打ち機構を作動させて撃発させる。
それとほぼ同時に異常な回転数のドリルの掘削機能が働き、
割れる前に穴が開いてしまい、より杭打ち機構が深く食い込む。
この剣の前ではほとんどの鎧は役に立たないだろう。
まことに凶悪そのものであり、親子喧嘩で使う代物ではない。
「ええーーーッ!?」
あまりの火力にエナも、アンリ姫もあんぐりと口を開ける。
「ひえぇぇ、勝てる気がしないッス! ナノ・マシン!」
レオナのナノ・マシンが展開すると、
さしものネイもようやく動揺を見せ始める。
「おや、何だい、これ!? よく分からない!
 どうなってるの! 何をしたの!? こらーッ!」
「こらーッなんて怒られたの、久しぶりッス……
 さあ、隊長! 逆転の道筋を作ってやったッスよ!」
「おっしゃ、助かったぞ、レオナ!」
びっくりして倒れていたロバートもようやく起き上がり、
改めてヒビだらけの剣を握り締めた。
随分と酷使している。長くはもたないかもしれない。

「いくぞ、今日こそ俺は貴様を倒して超える!」
壮絶な親子喧嘩はクライマックスを迎えつつあった――



<第十章-第二幕-へ続く>
最終更新:2011年12月11日 20:52