夜の路地裏にうずくまる女が一人。
辺りに人影はなく、割れた空き瓶のガラスだけが表道の灯りを反射して輝いていた。
その女は死にかけていた。
頭部にも腹部にも四肢にも致命的な傷口が残り、血が際限なく流れ出る。
もはや立つこともできず、意識も途絶え途絶えでかすれ声だけを漏らしている。
彼女はここ界聖杯<ユグドラシル>で催されている聖杯戦争のマスターだった。
過去形なのは、既にサーヴァントを失いマスターと呼べる資格を持ち合わせていないからだ。
鋭い眼光と鬼気迫る殺意を持ち合わせた主従に遭遇し、ほぼ抵抗すらできず敗退した。
彼女は令呪を使って自身のセイバーをサポートする間さえ与えられなかった。
ズタズタに引き裂かれた服の下、臍上に宿る三画の令呪が虚ろな女の目に映る。
その令呪だけが彼女がマスターであった事実を証明していた。
「…………」
女の抱いていた願いは、死産した息子の蘇生。
かつて子を産めぬ体になった時に覚えた絶望は、女に深い心の傷を与えた。
今死にゆく諦観など比較にならない悲哀。それを覆すための戦いも虚しく終わりを迎えたのだ。
「……?」
視界を■黒いナニカが覆う。額より流れ落ちた脳漿が、鼻をかすめて唇に絡みついた。
一瞬隠れた令呪の上に、真っ赤な牙のような文様が浮かんでいる。
なんだ、と思う事はない。女は既に思考能力を失っている。
死への最期の一時。認識を介さない女の視力が、女の聴力が、女の第六感が"それ"を捉えていた。
『お選びください』
流暢な口調で、"それ"は言葉を紡いでいる。
『お選びください』
女は応えない。死者は意向を返せない。
『お選びください』
女は動かない。死体は口を動かせない。
『お選びください』
「 」
故に、その問いに対(こた)えたそれは既に人間ではなく……。
『承知いたしました』
◇
「『子泣き南天』のウワサ、知ってる?」
「……南天を知らないか。小さくて赤い実をつける、庭先に縁起物として植えられることもある植物だよ」
「薬用に使われることもあるらしいけど、『なんてん』……『難を転じる』ってもじりが先で、
大昔は、火事避けの意味でどこの家でも玄関に飾ってたらしいよ」
「うん、話を戻すね……新宿と千代田の間くらいにある廃ビルで、そういう名前のお化けが出るんだってさ」
「ビルの前を夜中の零時ぴったりに通り過ぎると、エーンエーンって子供の泣き声が聞こえてさぁ」
「どこから聞こえてんだ、ってビルの方を見ると窓の向こうに大きな植物が動くのが見えるんだよ」
「そこで建物に入っていくと怖い目にあうんだけど……そんなことある!? 普通入らないでしょ」
「聞いた話を喋ってて悪いけどさぁ! これ怖い目に遭う方にも問題あるよね!?」
「ハイハイ話しますよ! そういう集まりだからね!……で、ビルに入ると南天が生い茂ってるの」
「かき分けて踏み入っていくと、おかしいなって気付くんだよ。ちょっと歩いても階段やエレベーターがないの」
「それどころか廊下を歩いてたはずなのに壁がなくなってるの。上見ても緑、緑、緑。いきなり森の中にいるわけ」
「戻ろうとしても来た道もなくなってて、子供の泣き声は大きくなるばかり」
「最初はビルの中……つまり歩いてる先から聞こえてたのに、だんだんどこから聞こえてるかわからなくなる」
「というか、周囲全体から聞こえてる、ってなるわけ。それに気付いたら、身動きが取れなくなるらしい」
「いつの間にか周りの植物が身体に絡みついてる。身体の中からも葉や根が皮膚を突き破って出てくる」
「そうなってしばらくしてから、ふっ、と目眩がして」
「気付くと、ビルの中に戻ってる。相変わらず身動きは取れない。自分の意志とは関係なく、窓に近づいていく」
「窓から外が見える。どうやって上がったのか、景色は6階だか7階だかから見るようなものでさ」
「下から人間がこっちを見上げてる。さっき自分がやってたように」
「誘い込むように窓から身を引く自分の姿が、窓ガラスに映ると……」
「もうそれは、植物の塊にしか見えなかったんだってさ」
◇
「というわけで、もうその人は廃ビルの住民になっちゃったんだってさー!怖かった?ん?ん?」
「キャー、怖わ~い! で、その人が持ってた携帯で広めたんですか、その話?」
「姉さん……そのツッコミは……」
都立・中高一貫校キメツ学園。
その一室で暑気払いの為に開催された百物語大会。
学年問わず多くの生徒が集まっているそこで、今一つの怪談が終わった。
引率である音楽教師がポン、と肩に担いだ小太鼓を叩いてそれを示す。
「小咄自体も……語り口も……凡庸以下といえる……これでは新人賞は取れぬ……」
「そんなぁ」
綺麗どころの女子が反応してくれた事に内容を深く考えず狂喜していた金髪の男子生徒がへたりこむ。
意外と自信はあったらしい。よたよたと這いずるように移動する彼を、勢いよく立ち上がった別の生徒が励ました。
彼の髪と瞳には赤色がまだらに混じっている。耳には花札を模ったピアス、額には火傷のような痣が浮かぶ、目立つ容姿だった。
「善逸! 俺はすごく怖かったぞ! 場所を現実にある近場に設定して聞き手に想像しやすくしたのは技巧が利いてたと思う!」
「俺が創作したわけじゃなくて聞いた話をそのまま言ってるだけだからね……あと先輩を呼び捨てってお前……」
「ごめんなさい!」
『儂も今の話には恐怖を感じた……特に身体から植物がわき出る下り……恐ろしや……』
「「「ギャアアアアアア!!!!!なんか本物の悪霊出た!!!!!響凱先生!誰か体育の先生を!!!!」」」
『儂は学校の怪談だ!悪霊ではない!』
学生らしい喧騒の中、金髪の生徒を立ち上がらせて隣に座らせた赫灼たる少年が問いかける。
先程の怪談についてより詳しく知りたい、との事だった。
善逸と呼ばれた語り手は明け透けとした少年の態度に戸惑いながらも、詳しい場所や聞いた相手を伝える。
駆けつけたジャージ姿の体育教師が学校の怪談を名乗る不審者を竹刀で殴打する様を横目に、少年は真剣な面持ちでそれを聞く。
そこへ、二人の前の席に座っている、極めて短い丈の制服を着た女子が椅子を後ろに倒して顔を寄せてきた。
「竈門ぉ。うちのお兄ちゃんがそのビルに行ってみたって言ってたよ。話聞いてみる?」
「ええっ!本当か!?ありがとう、梅!」
一年生ながら学園の男子生徒から多大な支持を受ける少女の好意に感謝して、少年……竈門炭治郎は差し出された携帯を受け取った。
隣で少女にちょっかいをかけられて絶頂している善逸をよそに、ぶっきらぼうで妹思いな少女の兄と通話し、情報を更に集める。
その目には、周囲の学生や教師が誰も気づかないほど深いところに、強い決意の火が宿っていた。
◇
当日、深夜零時。
件の怪談の舞台である廃ビルの前に、竈門……竈門炭治郎は立っていた。
昼間の学生服とは似ても似つかぬ、背に"滅"の文字が入った詰襟の制服を身にまとっている。
上から羽織った緑と黒の市松柄が、月のない夜によく映えていた。
昼間の彼と最も違う点は、当然のように帯刀している事ではなく、背負っている桐製の箱が放つ異様な気配か。
時折、小刻みに動いているようにも見える。
「泣き声は聞こえないなぁ」
迷いない足取りで廃ビルに入った炭治郎は、鼻をヒクつかせて周囲の臭いを嗅ぐ。
人並み外れた嗅覚を持つ彼は、余人が気付かない何かにも敏感に反応する。
「……」
炭治郎の目が、何もない空間を凝視している。
ぼそり、と小声で何かを呟く彼に応えるように、背の箱がキシリと音を立てた。
『ォォォォォォォォォォ!!!!!!!ォォォォォォォオオオォォォン!!!!!』
「……居た!」
怪談で聞いたそれとは違う、地の底から響くような唸り。
まるで音が形を成すかのように、それは姿を表した。
赤い実は、恐怖に引きつった子供の顔。
花弁も、葉も、茎も、恐らくは根も。無数の人間の手足が拗じられ捩られて形作られている。
おぞましき異形の植物……"子泣き南天"の実態が、そこに顕現していた。
ズドン!ズドン!と何かが異形の周囲から落ちる。
それは廃ビルを訪れた人間の成れの果て。全身から緑の異物を生い茂らせる十数体の死体だった。
廃ビルに配置されていたらしい警備員と見える一体を除いて、その死体の全てが少年である。
少年たちの口がパクパクと開閉し、不快なコーラスを響かせる。
「「「「「「「 ォ ガ ァ ざ ん お か ァ サ ん 」」」」」」」
「うっ……」
途端に周囲に撒き散らされるむせ返るような異臭。
単純な組成としては血のそれに似た臭気は、しかし炭治郎の鼻には別の意味を持って届いていた。
狂気に変じたかのような、熟成された悲しみの感情。
臭いで相手の感情を理解できる炭治郎が怯むほどの激情が近付いてきている。
一瞬の眩暈。危険を察知して刀を抜き放った炭治郎は、万力の握力で柄を握りしめた。
戻った視界はもはや廃ビルではなく、樹海の景色を映し出している。
目の前まで迫った子泣き南天は、蔓と思しき肉の鞭を振り下ろす。
炭治郎の口が空気を吐き出す。その呼吸は、通常のものとは明らかに異なる技術であった。
「っっ……!」
全身が水車のように回転して攻撃を躱し、同時に捩られた身体が渦を連想させる斬撃を放つ。
水の呼吸・弐ノ型「水車」と陸ノ型「ねじれ渦」の複合技は、子泣き南天に確かな傷を刻む。
だがその巨体は痛覚などないかのごとく、刻まれた箇所を震わせてそこから新たな触腕を生成させた。
宙に舞う炭治郎の四肢が肉の蔓に拘束される。常人ならば四散するほどの膂力が獲物を引き裂かんと振るわれる。
だが、炭治郎は一息でその拘束を断ち切った。見れば額の痣が大きく、深い色へと変貌していた。
蔓を断ち切った刀は燃えるような怒涛の勢いで周囲の木々もろとも子泣き南天を切り飛ばしていく。
日の呼吸・日暈の龍・頭舞い。その技に斬られた部分は熱処理をされたかのように焦げつき、
子泣き南天の触腕の生成速度は目に見えて低下していた。
「臭いの大本……!? これは……この紋様は……」
炭治郎の目が驚愕に見開かれる。
"透き通る世界"と呼称される、呼吸と動作を究極の域に最適化する事で至るその視界が異形の内奥を看破していた。
見る影もなく変貌しているが、悲しみの感情を撒き散らすそれは人間の変じた姿であった。
生体として存続しているとは思えないが、子泣き南天の中心部には成人女性の物と思しき臍部から鼠径部までの部位が座している。
そこには真紅に染まった牙のような模様が、三重に絡み合う円の図柄を覆うように刻まれていた。
炭治郎の視線が、刀を握る己の左手の甲に移る。そこには全く同じ牙の模様が、日輪と雲を模した図柄を覆っている。
「────」
全てを察した炭治郎は、しかし動揺を一瞬で静め、闘争を再開した。
地を踏みしめて跳び上がる身体は天地逆さに入れ替わり、反撃を薙ぎ払う。
精緻な揺らぎを加えた斬撃が、迎え撃たんとする触腕を受け流して総体を刻む。
地を這うように・螺旋のように繰り出される追撃がとうとう異形を横転させた。
横たわった子泣き南天が触腕を足場に向けて放ち、中空に逃れようとする。
身体ごと回転させた渾身の一撃が追いすがり、半ばから異形を両断した。
力なく地に落ちんとする二つの植体に、幻じみた速度で炎と円の如き創傷が負わされていく。
人に仇なす存在を祓う、火の神の舞いがそこにあった。
舞いは終わらない。不浄を焼き尽くすまで。
やがて炭治郎の動きが止まったとき、樹海は廃ビルに、異形は肉片に変じていた。
シイイイイイイイ、と荒々しく続いていた呼吸が止まる。
そこにはもう、子泣き南天と呼ばれた存在…………"怪異"はいない。
犠牲者の遺体だけが残る寒々とした景色に、炭治郎は静かに立ち尽くしていた。
そこへ、背中に背負う桐の箱から、丁寧な口調の声が響いてきた。
『竈門様、おめでとうございます。怪異は破壊され、その思念はこの界聖杯より解放されました』
◇
「アサシン、ありがとう……」
竈門炭治郎は、界聖杯に招かれたマスターの一人であった。
床に下ろした桐の箱を開けると、そこには美しい洋装の人形が膝を抱えるように座りこんでいた。
花をあしらった帽子と素朴ながら細部まで作り込まれたドレスは押し並べて漆黒。
天より流れ落ちる光を留めたような金色の髪も、暗闇の中でも輝く青い両目も人間のそれにしか見えない。
肌もまたしっとりと、柔らかな印象を与える美しさ。関節部分の球体だけが、彼女を人形だと伝えていた。
炭治郎に抱き上げられ、箱の上に腰掛けて両手を組むそれこそ、彼の召喚したサーヴァント。
アサシン・メリイは人形ゆえに変わらぬ表情で炭治郎に語りかける。
『しかし、竃門様のシルシは消えていませんね。子泣き南天は、貴方に死の印を刻んだ怪異ではなかったようです』
「多分、サーヴァントを失ったマスターだと思う。シルシと令呪の臭いがあったんだ」
『竃門様と同じ境遇の方、という事ですね。印人が怪異に変じるとは、相当に強力な怪異の働きかけかと思われます』
「俺は大丈夫なのかな? 鬼になったりしない?」
『私とのパスが繋がっている間は、その様な事は起きないかと』
シルシ。
無念の死を遂げた死者が変じた存在である"怪異"が人間に刻む、死の予告。
サーヴァント・メリイを召喚した直後に炭治郎の令呪の上に浮かび上がったそれについて、
偶然知識を持っていたと言うメリイはそう説明した。
通常、シルシを刻まれた人間は時間経過で記憶を徐々に喪失し、抗う気力を失い、死に至る。
しかし運良くメリイと契約できていた炭治郎はその進行を止める事が出来たのだと言う。
シルシの作用によって令呪を使用する事が出来ないが、元より炭治郎にはサーヴァントに何かを強制するようなつもりもない。
怨敵・
鬼舞辻無惨を倒し、最愛の妹である竈門禰豆子を人間に戻す事も成し遂げた彼には聖杯にかける願いすら希薄だった。
聖杯の力で過去に戻って無惨の襲撃を避ける事が出来ると考えると、迷わないとは言えない。
しかし自分が背負った責任を捨てれば、その幸福な世界では誰かが代わりにその荷を負うことになるだろう。
そう考えた炭治郎は聖杯を求める事をやめ、本当にそれを切望する誰かの助けになりたいとさえ考えていた。
メリイにその旨を伝えると、『私としては残念ですが、マスターには従います』とツンとした言葉が返ってきたので、
願いを問うてみると『人形である自分は、人間の感情をもっと深く知りたい』という事だった。
「それなら、聖杯なんて使わなくても俺や、他の人たちが教えてあげられると思う」
と、炭治郎はドンと胸を叩いて請け負ったものだ。
その契約を果たすためにも、炭治郎はシルシに殺されるわけにはいかない。
聖杯戦争は後回しで怪異の捜索に奔走し、初めて見つけた怪異が子泣き南天だったというわけだ。
『ひょっとしたら、界聖杯における怪異は全て敗退したマスターが変じた物なのかもしれませんね』
「なんでそう思うの?」
『この世界に存在する人間は、大半が
NPCと呼ばれるモノだという知識が界聖杯から与えられたでしょう。
怪異は無念を残して死んだ人間の成れの果て。命を持たない存在がなれるものではありませんからね』
メリイは、と言いかけて炭治郎が思いとどまる。
怪異の一種と呼ばれるのはいい気はしないだろう、彼女は英霊の写し身であり自分のサーヴァントだ。
召喚時の自己紹介で自身を九十九神の一種と説明していたし、気を遣うべきところだろう。
炭治郎は嗅覚で他人の感情を読み取れるが、匂いを発しないメリイの感情は読めなかった。
円滑な関係を築く為にも口を噤む炭治郎。
気持ちがわかる人間相手ゆえにかなりズケズケと物を言う彼の、意外な一面が見て取れた。
そんな炭治郎の気遣いを知ってか知らずか、メリイはじっと炭治郎を見つめている。
人形とはいえ美しい異性、それも異国の意匠だ。炭治郎は若干の照れを感じながら犠牲者たちの躯に歩み寄った。
メリイは僅かに首を傾げて二の句を継ぐ。
『竃門様、彼らを埋葬するおつもりではありませんか?』
「本当は家族のところに返してあげたいけど……探せないからね」
『時間の無駄かと思いますが。死者を弔う行動は理解できますが、彼らは
NPCの残骸です。
どのような意思から派生した行動なのでしょうか? お教え願います』
「……この子達が子泣き南天に操られてるとき、すごく辛そうな臭いがしてたんだ。
NPCにだって感情はあるんだよ、メリイ。だったら俺達も向き合ってあげないといけない」
『竃門様の嗅覚には信用がおけます。それならば、信条のままにご対応ください。ただ……』
メリイが、炭治郎に手を差し出すよう促す。
埋葬作業を止めて彼女に近付く炭治郎は、両手をバッ、と差し出した。
『何もあげませんよ』と一蹴してから、メリイがぎこちない動作で手を伸ばす。
炭治郎の左手を両手で包み込むようにしてから、メリイは瞼を下ろして静かに呟いた。
『……貴方の悲しみ、苦しみが伝わってきます。どうか、心をお砕きになるのも程々に』
「……心配かけちゃったかなぁ。でも、ごめん。自分に出来ることはやりたいんだ。怪異を放ってはおけない」
『聖杯戦争も控えている事をお忘れなく。中には会話の通じない相手もいるでしょう。
サーヴァントの力は怪異の比ではありません。対峙した時に感じる恐怖もまた……』
メリイが感極まったように言葉を止め、青い目を見開いて続けた。
『……怪異を前にした恐怖を超抜するものでありましょう。竃門様、どうかお気をつけください。
私もサポートいたしますが、いざとなればこの身を盾にしていただいても構いません』
「俺が戦えるのはメリイのお陰だ。君が危ないと感じたら、その時は逃げるよ」
炭治郎の意識が、メリイに握られた左手と右目に集中する。
彼は無惨との最終決戦で身体機能の多くを失い、本来なら戦闘行為など出来ないはずだった。
それが今人界に恐怖を撒き散らす存在と戦えるのは、メリイの力で不具の埋め合わせをしているからだ。
メリイに混じり気のない感謝の念を抱く炭治郎の手を、少女人形が離して再び目を閉じた。
(わかってくれたのかな)
再度埋葬に取り組む炭治郎は、確かに存在するメリイの意思を嗅ぎ取ることができない。想像することしかできない。
メリイの心中にあるそれは、彼の想像通りの"理解"。そして"喜び"であった。
◇
『おめでとうございます』
『オ……オオ……』
『存分に、母性を発揮なさるとよろしいでしょう』
こどもがほしい。こどもがほしい。こどもがほしい。
その一念だけで、やがて子泣き南天と呼ばれる怪異と化したマスターは異形の肉体を揺らして去った。
彼女に怪異と化すきっかけを与えた存在はそれを見送り、霞のように消失した。
意識は瞬時にその本体へ戻った。
桐の箱の中で目覚めた彼女は、右の上腕を愛おし気に眺める。
普段は浮かんでいない、牙のような紋様が出現していた。
つい先程発生した怪異が、早くも疑似東京に己の恐怖を拡散しはじめたようだ。
『竃門様の感情に比べればやはり薄味ですが……』
東京都H市。
そこにかつて、負の感情を味わう事を娯楽とする怪異が存在した。
その目的のためだけに多数の人間に死の印を刻み、運命を弄んだ悪鬼。
千年の時を経て怨念を喰らい続け、意思を得たともされる人の似姿。
存在するだけで怪異を生み、何度滅んでも再臨するその怪異の名は────。
【クラス】
アサシン
【真名】
メリイ@死印
【ステータス】
筋力D 耐久C 敏捷A 魔力A+ 幸運B 宝具C
【属性】
混沌・悪
【クラス別スキル】
気配遮断:A+
サーヴァントとしての気配を絶つ、隠密行動に適したスキル。
完全に気配を断てば発見することは不可能に近い。
【保有スキル】
怪異:A+
人の世に満ちる怨念、不条理が生んだ異形の存在。
同ランクの戦闘続行スキル、単独行動スキル、再生の効果を併せ持つ。
怨念を際限なく吸収する性質から怪異と化した彼女は、怪異の中でも傑出した力を誇る。
A+ランクならば、霊核が破壊されても一日とかからず再生する。
人形:D
肉を持たない存在。
発声も四肢の駆動も出来るが、どこかぎこちない。
体臭や呼吸がない為、気配遮断スキルを補強する効果がある。
念動力:A
人類の魔術や神霊の神秘とは異なる原理から成る"超"能力。
己を宙に浮かせての高速移動、人間の首を容易にねじ切る超常現象などを起こせる。
炭治郎の肉体を補強・強化しているのもこのスキルの応用。
呪怨の捕食:C
シルシを刻んだ相手の負の感情を共感する事で、力と快楽を得る。
自身が生み出した怪異からも"食事"は行えるようだ。
念持仏:-
メリイに組み込まれる事で、怨念を祓う機関として働く小さい仏像。
一定期間でケガレが溜まり、定期的に浄化しなければならない。
現在は失われている。
道具作成(怪異):A-
邪気に満ちた地で無念の死を遂げた人間を怪異化させる。
本来はメリイ自身が意図していなくてもこのスキルは発動するが、
界聖杯においては『令呪を残してサーヴァントを失い、死にゆくマスター』のみに有効。
死を迎えた上記の条件を満たすマスターが何らかの未練を残している場合、
対象にのみ見えるメリイの思念体がその場に出現し、怪異化するか死の二択を迫る。
怪異は破壊されることでのみ、界聖杯から消失する。
【宝具】
『死印(シノシルシ)』
ランク:C- 種別:対人宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:100
自身に近付いた人間に牙のような紋章を刻み込み、死の刻限を与える。
死印を刻まれた者は気力の減少や記憶の摩耗、認識力の大幅な低下といった副作用を受ける。
此度の召喚においては
NPCやマスターに無差別に刻むことが出来ず、例外は自身のマスターである炭治郎。
または、道具作成(怪異)の対象になる敗退マスターのみにこの宝具の影響を与えることが出来る。
シルシを刻まれた相手は令呪の使用が封じられ、メリイは対象の五感を覗き見ることが可能。
それによって対象が感じた負の感情を味わって楽しむのがメリイ唯一の行動原理である。
死の刻限や副作用の進行度はメリイの気分次第で調整できる。
【Weapon】
『桐の箱』
かつて竈門禰豆子が入れられていたものに酷似した、頑丈な箱。
メリイはマスターに自身の駆動性能や霊体化能力について虚偽の報告を行っている為、
外出時にはこの箱の中に潜んで同行し、マスターのサポートも内部からこっそり行う。
拠点に居るときも中に入っていることが多い。
【人物背景】
戦国以前にとある怨霊の念を鎮める為に作り出された少女人形。
役目を果たした後、完全破壊されても短い時間で再生する異能の存在と化す。
第二次大戦中、日本陸軍が溜め込んだ怨念で周囲に不幸を撒き散らす彼女を利用。
非人道的な実験を行って心霊兵器を造り上げようとした際、意思を獲得。
悪意のみの存在として覚醒し、猛威を振るって研究施設を壊滅させるも、
研究に関わっていた高い霊力を持つ一族、九条家の当主によって念持仏を埋め込まれ封印された。
しかしその状態でも念持仏に収集した怨念によるケガレを流し込むことで抵抗を図り、
50年後にとうとう念持仏を無力化。次代の当主が対処する為に行動した隙をついて自由の身となる。
紆余曲折あって再度封印されるが、いずれ再び復活する事が明言されている。
善性を一切持たない、真に人外の魔物である。
【サーヴァントとしての願い】
なし。
【方針】
炭治郎に刻んだシルシから良質な負の感情を喰らい、街に放ったシルシ付き怪異からも負の感情を収奪する。
聖杯戦争にはそれほど興味がない。
【因縁キャラ】
美味しゅうございました。またお会いしたいですね。
美味しゅうございます。
お励みを。
【マスター】
竃門炭治郎@鬼滅の刃
【マスターとしての願い】
家族や仲間が幸せに暮らせますように。
【Weapon】
『日輪刀』
鬼殺隊が不死の鬼を斬る為に用いる、太陽の性質を秘める日本刀。
炭治郎が所持しているそれは『始まりの剣士』が使っていたものと同一である。
刀身は漆黒。炭治郎の技能により、戦闘時は赫く染まる。
【能力・技能】
『全集中の呼吸』
人間を超越した鬼の身体能力に対抗するために生み出された特殊な呼吸法。複数の派生系統が存在する。
一度に大量の酸素を血中に取り込むことで血管・筋肉は勿論、心肺機能さえも飛躍的に向上する。
炭治郎は全集中の呼吸を常時使用できる域に達しており、いかなる場合でも即時戦闘に移行できる。
アサシンによる身体強化と合わせれば、相手によってはサーヴァントに対しても十分に防戦が可能。
- 水の呼吸:千変万化の対応力を持つ呼吸法。回避・反撃に優れた技を多く持つ。
- 雷の呼吸:朋友・我妻善逸が使う技の速度を重視した呼吸法。炭治郎は要点を掴み、高速移動の一助としてのみ使用した。
- ヒノカミ神楽:竃門家に代々伝承される厄払いの舞。それらの型を全集中の呼吸と併用することで、強力な技となる。
その実態は始まりの剣士・
継国縁壱が竃門家に伝えた『日の呼吸』であり、400年の時を経て炭治郎が初めて
鬼との実戦で使用した。水の呼吸と併せて修得を進めた為、本来の日の呼吸とは別物である。
鬼の再生を阻害する効果を持ち、十二の型を夜明けまで繰り返し続ける事で鬼の始祖をも足止めでき、日の光で滅ぼせるという。
『嗅覚』
極めて優れた嗅覚。他者の感情を臭いから正確に読み取ることが出来る。
戦闘においては敵の気の緩みを見極め「隙の糸」と呼ぶ攻撃のチャンスを掴む、攻撃動作を予測するなど有効に働く。
『透き通る世界』
無我の境地。全集中の呼吸の果てにある能力の一つ。
相手の体内を透視する程に極まった洞察力は未来予知に等しい反撃・回避を可能とする。
殺気や闘気を完全に消して行動できるため、精神状態に左右されない安定した力を発揮できる。
【人物背景】
鬼となった妹を護り、人に仇なす鬼を滅する為に刃を振るった剣士。
生真面目で融通がきかない性格だが、根底に深い優しさがある為か人間関係は総じて良好。
一般人として生まれ、平穏な暮らしを送っていたが鬼の襲撃により妹を除く家族を全て失ってから境遇が激変。
鬼殺隊に所属し、千年の時を生きた鬼種、
鬼舞辻無惨の一派との戦いに置いて大きな役割を果たした。
無惨を初めて追い詰めた始まりの剣士と祖先を通じた繋がりを持ち、その意思と技を受け継いでいる。
鬼殺隊最後の戦いにおいて二度の臨死、鬼化と壮絶な経緯を辿るも生存する。
人間に戻った妹や仲間と共に静かな生活を取り戻すことが出来た。
【方針】
人(
NPC、マスター問わず)に仇なすモノを斬る。
聖杯戦争は様子見。
【備考】
原作終了後の時系列から参戦。
無惨との最終決戦で負った後遺症はサーヴァントによって完癒しており、問題なく戦闘が可能となっている。
メリイにシルシを刻まれた影響で、令呪の使用が封じられている。
与えられたロールは学生。一人暮らしの家から、中高一貫のマンモス校、都立キメツ学園に通っている。
【関連キャラ】
最愛の妹。キメツ学園にはいないようだ。
可愛らしい。感情が読めないので、会話する時の感覚が斬新だと思っている。
炭治郎!!!!!!!!!!!お前は騙されている!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
最終更新:2021年06月29日 20:16