瞼を開けた時。そこは、別世界であった。

 空は生憎の曇り空で、雨が近いのか大気はどこかじめっとしている。
 空気の味は、彼の知るそれよりも幾分かまずく感じられた。
 そして視界に移るのは、見渡す限り果てまで続く建物の群れ。
 一瞬は呆気に取られたが、すぐに男の胸中を感嘆の念が満たす。
 大海を渡り世界を巡る旅の中で様々な国に上陸したが、それでもこれほどに高く堅牢な建物ばかりで満たされた国家はなかった。

「死んだ人間は極楽に行く。ガキの頃はそう聞いたもんだが」

 男は、角帽のような独特な髪型を揺らし、呵々と笑った。
 歌舞伎役者を思わせる偉丈夫ではあったが、その背丈は明らかに異質な大きさをしている。
 十尺五寸はあろうかという長身に、一体どんな鍛え方をしたのかと思わず問いたくなるような屈強な肉体。
 そして極めつけが、腰にぶら下げた二振りの刀だった。
 この現代では持っているだけで警察の世話になるだろう大振りの業物を、さも自分の手足同然とばかりに腰から下げている。

「しかしおれの場合、そうはならなかったらしい。
 何だこりゃ、新手の地獄か?
 まァ、地獄に落とされる心当たりなら何十個もあるけどよ……でけェ仏像を試し斬りで真っ二つにしたこともあったしな」

 男は、一度死んだ。
 彼の体感時間では、それはつい数分前のことである。
 悔いのない死ではあった。故に未練はない、悲しみもない。
 だが不可解なのは、自分が飲み込まれた"死"という暗闇にその先があったこと。
 天国とも地獄とも言い難い――しかしどちらかというのなら後者に近いだろう、剣呑で不穏な"知識"が頼んでもいないのに脳裏に収納されている。

「願いを叶える宝、か――ロジャーの野郎が聞いたらさぞかし目を輝かせたろうぜ」

 数多存在する枝葉の世界、その因果を重ね合わせることでどんな願いでも成就させる"万能の願望器"。
 界聖杯なる財宝を巡って行われる、殺し合いの大戦争。
 それが、一度死した男――ワノ国九里大名、光月おでんの落ちた地獄であった。

「……いや、案外興味を示さなかったりしてな!
 望めば全部叶えてくれる宝なんてつまらねェと、手に入れた段階で満足しちまいそうだ。
 そうだ、そうだ。あいつはそういう男だった!」

 懐かしむように笑って、おでんは視界の果てまで広がる人工物の群れを見やる。
 此処は、東京、なる異国の都であるらしい。
 正確にはそれを模したものだというが、細かいことはこの際どうでも良かった。

 見事な発展ぶりだと、おでんは素直にそう思う。
 道行く人々はほとんどが小綺麗な身なりをしており、迫害や悪しき格差の気配は少なくともこうして遠目に見ている分には窺えない。
 ワノ国の職人たちが拵えた建物が安く見えるほど完璧で、整然とした建築技法。
 その手の事柄に無知でなおかつそれほど関心のない自分ですら驚嘆してしまうのだから、造詣の深い人間が見たならもっと驚愕するのだろう。
 そう、実に見事。そう思いはした。だが――

「窮屈だな、この都は。ああ、そうだ――窮屈でござる!」

 光月おでんという男に言わせれば、この世界は窮屈に過ぎた。
 都の空気や装いだけの話ではない。
 聖杯戦争という理屈(ルール)が支配する、この界聖杯内界。そのすべてを指して、彼は窮屈だと吼えているのだ。

 これではまるで、己等役者たちは糸操り人形ではないか。
 宝の奪い合い大いに結構。万能の願望器、実に景気のいい話だ。
 しかしながら、光月おでんにはそのやり口が気に食わない。
 この理屈には血が通っていない。
 こんな窮屈な箱庭に閉じ込めて、善も悪も関係なしに、可能性を秘めているからなどという曖昧な理屈で殺し合わせる非道な手法が気に食わない。

「決めたぞ、縁壱! おれァ――界聖杯を見極める!!」

 がばっ、と身を翻して、おでんは自分の後方に佇んでいたその男へ言った。
 彼こそは、光月おでんが召喚したサーヴァント。
 世界の枝こそ異なるものの、ワノ国と非常に似通った国からやって来たらしい英霊。
 クラスをセイバー。名を、継国縁壱という。
 えらく辛気臭い男だとおでんは彼をそう思ったが――自分の英霊として不足なし、否むしろ余るかもとすら思っていた。

「おれは既に一度死んだ身。残した妻も子もあるが、人の世にもう一度蘇るってのは筋が違ェさ。
 だから、誰かが界聖杯という宝を手に入れる前に――おれがその全貌を拝んでやる。
 界聖杯の善悪も、それを使う奴の善悪もだ! それが、現世にまろび出た死人の責務と見た!!」

 それに、本心を言うならば――。
 海賊王の船に乗り、最後の航海を共にした者として……界聖杯というとびきりの財宝を一度見てみたい思いもあった。

 これは二度目の生などではない。
 未来に繋いで死んだ男が今際の際に見ている、泡沫の夢。
 少なくともおでんはそう思っている――だから多くは望まない、再臨など求めはしない。
 しかしせめて、父や家臣……そしてワノ国の民の全てに語り聞かせられるような。
 そんな壮大で見事な生き様を披露して、笑いながら退場したいとおでんは願う。
 なればこそやるべきことはこれだった。この窮屈な世界を駆け回り、血の通わない"戦争"をいつも通りにねじ曲げる。

「おれの二刀流とお前の剣があれば、それが出来る。そうは思わねェか」
「……断っておくが。私はお前が思うほど大した男ではない」

 おでんはどこまでも豪放磊落とした、気持ちのいい男だったが。
 一方で彼のサーヴァントである縁壱は、静謐を破ることのない人物だった。
 顔に痣のある、両耳から耳飾りを下げた古風な風体の男。
 その身なりは、おでんの家臣である赤鞘の侍達よりも余程侍らしく見える。

「この剣など、長い長い人の歴史のほんの一欠片でしかないのだ。
 枝葉の彼方まで広がる世界の因果を束ね、繋いだ結果がこの泡沫だというのならば――
 当然、私の剣と才を凌ぐ者など当たり前に居るだろう」
「相変わらず小難しいことをごちゃごちゃと……」
「だが」

 おでんに言わせれば、であるが。
 縁壱の口にする言葉は、"どの口で言うのだ"という以外の感想を持てないものだった。
 世界中を旅し、光月おでんはありとあらゆる強者の姿を見て、時に相対してきた。
 それは、白い髭の大海賊であり。海賊王の名を未来永劫に轟かせた偉大な男であり。
 天を覆うような巨躯の龍に化ける、文字通り怪物のような男であり。
 そんな錚々たる面子の中にすら、名を刻める。
 継国縁壱と一太刀打ち合ったその瞬間に――おでんはそう確信したのだ。

「今、この身体は人の生きる現世――その影法師だ。
 ならば私は、喚ばれた意味を果たしたいと思う」
「つまりどういう意味だ。やるのか? やらねェのか?」
「……おでん。お前は、私とは違う。
 私の見てきたどの男とも、違う。
 私の生きた生涯に、お前のような目をした男は居なかった」

 そして、縁壱もまた。
 光月おでんという類稀なる男の中に、自分が未だかつて見たことのないものを見出していた。
 この男の瞳には、見果てぬ空があり、海があった。
 どんな窮屈な鳥籠に閉じ込めてもいつか必ず大空の彼方に羽ばたいていく、そんな"可能性"を見た。

「私は、お前と共に往こう」
「わははは――最初からそう言えってんだ」

 小難しい奴だと笑う姿は、誰もが怒るか泣くかするばかりだったあの日々の中にはなかったもので。
 或いは己ではなく彼が生まれ落ちていたならば、その代で全てを終わらせられたのではないかとすら錯覚する。
 しかし、縁壱は知らない。彼もまた敗残者、為すべきことを為せずに生涯を終えた人間であることを。

「では行くぞ、縁壱。
 おれとお前、死人と死人。
 せいぜい図太く世に蔓延ろうぜ!」

 二度目の生など望まず、死人の役割に徹すると決めた二人の剣豪。
 彼らの覇と武は、機械仕掛けのように冷淡に進むこの死合舞台において何を為すのか。
 その答えは――今はまだ、地平線の彼方に。 


【クラス】
 セイバー

【真名】
 継国縁壱@鬼滅の刃

【ステータス】
 筋力A+ 耐久C 敏捷A 魔力E 幸運E 宝具D++

【属性】
 秩序・善

【クラススキル】
 対魔力:E
 魔術の無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。

 騎乗:B
 騎乗の才能。
 大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

【保有スキル】
 日の呼吸:EX
 始まりの呼吸。後に鬼殺剣士達が用いることになった"呼吸法"全ての源流。
 彼にしか扱えなかったこの呼吸を出会った剣士それぞれの剣術と身体の適正に合わせて変化させ指導した結果、全集中の呼吸という概念が生まれた。
 後にこの呼吸について知識を持つ者は悉く抹殺されたが、言わずもがな縁壱は歴史からの失伝に関係なくこの呼吸法を完全に扱うことが出来る。

 透き通る世界:A+
 呼吸術が極みに達した者にのみ到達出来る領域。
 他者の身体が透けて見えるようになり、相手の骨格・筋肉・内臓の働きさえもが手に取るように分かる。
 後世の剣士達が身命を賭してようやく達せた境地であるが、縁壱はこの世に生まれたその瞬間から既にこれを体得。その後も常時発動させていた。

 心眼(偽):A
 直感・第六感による危険回避。
 虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。
 視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。

【宝具】
『赫刀』
ランク:D++ 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大捕捉:50
 黒曜石のように黒い刀身を持つ刀。
 不死の肉体を持つ鬼を滅殺することができる、日輪刀と呼ばれる特殊な刀剣。
 縁壱がこれを握れば瞬時に刀身はその色彩を赫く変え、鬼の不死をさえ無視して苦痛を与える鬼滅の刃と相成る。
 彼以外の剣士が発現させた赫刀は少なくとも鬼の始祖に対しては再生を多少遅らせる程度の効果しか発揮出来なかったが、セイバーの赫刀は彼らのそれとは次元違いの威力を有しており、彼が始祖に刻み付けた傷は数百年に渡り癒えることなくその身体を焼き続けた。
 不死の性質を持つ存在に対して特攻性能を発揮し、傷口の再生を限りなく遅滞させる。
 表面上の傷を再生させることは出来ても、内部に刻まれた斬傷を完全に除去するのは至難の業。
 少なくとも彼の赫刀に斬り刻まれた鬼の始祖は、死の直前までその傷を完全に癒やすことは出来なかった。

【weapon】
 日輪刀

【人物背景】 
 戦国の武家、継国家に生まれ落ちた双子の弟。
 幼くして家を出奔し、新しく得た家族を失い、鬼殺の道へと足を踏み入れ――生まれたその意味を果たせなかった男。

【サーヴァントとしての願い】
 英霊として、為すべきことを為す。


【マスター】
光月おでん@ONE PIECE

【マスターとしての願い】
聖杯という財宝をこの目で見極め、処遇を決める

【weapon】
 二刀流。
 天をも切り落とす『天羽々斬』に、地獄の底まで切り伏せる『閻魔』。
 特に『閻魔』は地上最強の生物と恐れられた男に大傷を刻んだ、おでん以外にはどの剣士にも手懐けられなかったという妖刀である。

【能力・技能】
 剣術を用いて戦う。
 その実力は神と呼ばれた巨猪を斬り、最強の龍に傷を刻むほど凄まじい。

 覇気
 全ての人間に潜在する"意志の力"。
 気配や気合、威圧、殺気と呼ばれるものと同じ概念で、目に見えない感覚を操ることを言う。
 おでんは王の資質を持つ者にしか扱えないとされる"覇王色の覇気"を含めた三種全ての覇気を扱うことができる。

【人物背景】
 破天荒にして自由奔放。
 度量が大きく常識や偏見に囚われない性格の持ち主で、ワノ国の鎖国という閉ざされた法に長年疑問を懐き続けていた。
 その後彼は仲間に恵まれ、海へと出、国へ舞い戻り罪人として散る。
 それでも彼の生き様は多くの人々の胸に刻まれ、そして彼が文字通り命を賭して守った仲間の命は時を越えて未来へと繋がっていった。

【方針】
 聖杯に至りたいが、殺し回るつもりはない。
 挑まれたなら応じるが、好戦的でないマスターを斬って進むのは論外。
 また、サーヴァントに頼りきるつもりもまったくない。

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最終更新:2021年05月27日 19:49